第7話 発進!

 扉の先に出ると、レオンはすぐさま扉を閉じ、新たに施錠魔法をかけた。


「ふう……これで大丈夫だろう。しかし、ここは」


 目の前には巨大なドーム状の白い空間が広がっていた。その中央には、確かに水が張った湖のような場所がある。


 しかし、湖というには整いすぎている。

 そもそも、この空間の全体が、人工物のようだった。

 磨かれた白い床と壁。そこに煌々と光る石が規則的に嵌めこまれている。


 ベルが声を上げる。


「適当に選んだのに着くとは。なかなかの強運の持ち主ですね、レオン様は。賭け事強いんじゃないですか?」

「別に適当だったわけじゃない。単に水が流れてくるほうだったから、左を選んだだけだ。湖があるなら、そこから水が流れるか、そこに流れ込むんじゃないかって思ってさ」


 三つは十字路から流れる水路、一つは十字路に注ぐ水路だった。レオンはまずその一つを選んだだけ。


「ともかく……これは、絶対に何かある雰囲気だな」

「魔王が死んだあと、人間たちはここでなんかやってたみたいですね。去った後見たら、こんな感じのツルツルになっていたわけです」

「なるほど。鎧を封印するつもりだったか」


 ともかく、湖に潜って確認する必要がありそうだ。


 湖に近づくレオン。

 だが、湖岸に一本の白い四角柱が立っていることに気が付く。


「あれは……ともかく見てみるか」


 レオンは四角柱のもとへ向かう。


 四角柱は一メートルほどの高さだった。

 三十平方センチの上辺部分には、赤い宝石のようなものが嵌めこまれている。


「石と柱の中から魔力を感じるな。何かの装置だろうか」


 石に手をかざす。

 その瞬間、レオンの集めた魔力が石に吸い込まれていく。


「魔力が吸い込まれていく? まさか、魔力を注ぎ込むのか──なら」


 レオンは集められるだけの魔力を、その石に向けて放った。


 しばらくすると湖面が揺れだし、湖面の中央から大きな水柱が上がる。


「これは!?」


 湖から現れたのは、鷲を思わせるようなシルエットの顔を持つ、巨大な白銀の鎧だった。


 鎧というには、全体的に細すぎる。人間の体に密着するような、シャープな造形をしている。


 ベルが声を上げる。


「あれ……私の見たのと、なーんかちょっと違いますね。しかも、ピカピカ」

「もしかすると、修理と改造をしたのかもしれないな。それにしても、なんだこの魔力は」


 レオンの額から汗が流れる。


 鎧の表面には、レオンが注ぎ込んだ魔力だろうか、膨大な魔力が集まっていた。


「これだけの魔力が集まる……これって」


 帝国の魔動鎧と同じような性質だ。


「改造すれば、士官学校にも行けるはずだ! ベル、やったぞ!!」

「それは良かった! これで私の有能さが証明されましたね!! しかし、どうやって外まで運びましょうかね?」

「そうだ……人を呼んで運ぶのを手伝ってもらうにしても、魔法でやるにしても、地上まで穴を開けないと……うん?」


 魔動鎧の胸部はいつの間にか開いていた。

 その向こうには、球形の空間があるようだった。


「中に乗れる? すでに魔動鎧みたいになっているぞ」

「なら、乗ってみましょう。動かせるかもしれませんよ」

「そうだな」


 レオンはそう言って、湖を泳ごうとした。


 しかし沿岸から魔動鎧の胸部までの橋が現れる。


「まるで、誰かが乗ることを予想していたような設備だな……」


 ならば乗るまで。

 その橋を渡り、レオンは魔動鎧に乗り込んだ。


 だが、球形の空間には何もない。


 ベルが呟く。


「ありゃりゃ、何もありませんね」

「ああ。だが、ギュリオンさんの話だと、魔動鎧は」


 人型だから魔力が集まると言っていた。

 もしこの鎧も同じ構造なら。


 レオンは球形の中心に立ち、魔力を集め始める。


 すると魔力はレオンの体ではなく、魔動鎧に蓄積していった。


 その過程で、レオンは鎧がまるで自分の体の一部になるような錯覚を覚えた。


「なんだ、この感覚は……うん?」

「ああ! 扉が閉まっちゃいましたよ! うおっ!?」


 ベルは声を上げる。

 入り口が閉まったと思ったら、球形の空間の壁に外の映像が投射されたのだ。


「外の景色が映し出されているのか? にしては視界が高いな」

 

 胸からの視界にしては高すぎる。視界の下をみると、そこには渡ってきた橋と湖面が低く見えた。 


「頭の部分の視界か、これは。ますます、一体化したような感じだな」


 レオンは色々と試してみることにした。


「足を動かしてみるか」


 足の魔力を移動させようとイメージすると、壁に映る外の湖が水しぶきを上げた。


「動かせる! これなら、移動も楽だ」

「なら、レオン様。いっそのこと、この天井をぶち破っちゃいましょう、この鎧の腕で!」

「いや、上は王都だぞ……そんなことしたら、上に住む人が大変なことになる。地上には行きたいが・・・・・・・・・、一度ここは戻って。うん?」


 上の方から重い音が響いたと思うと、周囲がより明るく照らされ始めた。


 見上げると、そこには開いていく天井が。

 はるか遠くには、眩い太陽が見えた。


「これなら、上に行けますね」

「ああ。浮遊するようなイメージで……おお!」


 鎧は突如、空へと浮遊しだした。湖面からどんどんと遠ざかり、やがて地上の高さへと到達する。


 出てきた場所は、王都の裏山の狩猟地だった。人がいない場所になるよう想定していたのだろうか。


 そのまま鎧で空まで上がってみる。


「すごい……浮遊魔法でも、ここまでは上がれなかった」


 レオンは空高くから見るヴェルシアの景色に感動を覚える。


「少し、これで飛んでみるか」

「そうしましょう! どこまで行けるかやってみましょう!」


 その後、レオンは魔動鎧で行きたい場所に飛んでいくのだった。

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