第6話 遺物を求めて
「うーむ……全然っ、分からん!」
レオンは宮殿図書館の椅子に深く背もたれ、天井を見上げた。
レオンの前に置かれたテーブルには、山積みの書籍が置かれている。
いずれも、勇者ヴェルや賢者リゼル、王都の成り立ちに関しての本ばかり。
これも魔王を倒すのに使われたという、リゼルの巨大鎧を探すためだ。
どこに埋まっているか、レオンはまず史書から探っていた。
「リゼルはなんで、そんな強力な鎧を後世に残さなかったんだろう?」
巨大鎧は魔王討伐後、行方が分からなくなっていた。
魔王城攻略に参加し活躍した記録だけが残っている。
「しかも、それだけ巨大だったのに、どこにも記録がないなんて……」
狙ったかのように、鎧だけの記憶が見つからない。公式の史書から民衆の口伝を集めた民俗史の本に至るまで、魔王討伐後の鎧に関する記述は一切なかった。
「見つけてほしくない理由があるのか」
非常に強力な兵器だ。後世の人間に悪用されないよう、ヴェルやリゼルが隠したのかもしれない。
意図的に隠したとなれば、こうした記録に見つからないのも頷ける。
「もしそうだとすると、簡単に見つかる場所にはないよな……」
魔王城の遺構は、この王都の地下水道として利用されている。
しらみつぶしに地下水道を探せばいつかは見つかるかもしれないが、そもそももっと別の場所に隠した可能性もある。
「士官学校に入学できるのは、十二歳まで。二年で見つかるだろうか」
はあ、とため息を吐くレオン。
そんなレオンに、隣でグミをパクパク食べるベルが訊ねる。
「あれだけ塞ぎ込んでいたのに、急にやる気になって。いったい何を探してるんです?」
「巨大な鎧だ。あの日、空に現れた帝国の鎧のような大きさで……形はこんならしい」
レオンは史書の一冊を開き、リゼルの巨大鎧が描かれた挿絵をベルに見せた。
「ふむふむ──あー、これですか! 魔王城の扉を無理矢理こじ開けたやつ!」
「それは分かっている。だがその後」
「ドラゴンと戦って、ボロボロになりながらも勝ったんですよ。私はドラゴンに賭けてたんですがねえ」
「それも知っている……うん? 賭けた?」
ベルの言葉に、レオンは引っ掛かりを覚える。
「いやあ、惜しかったですよ。もう少しで、ドラゴンの勝ちだったんですがねえ。それが突然、ドラゴンに抱き着いて、湖に捨て身のダイブイン!! 必死にごねましたよ、あれは引き分けだったって!」
「べ、ベル? 鎧を知っているのか?」
「それはもう。私が賭けた中で、一番の大負けですから」
「つまり……見ていたってことか!?」
レオンが声を上げると、ベルは体をくねらせる。
「ええ、そりゃまあ。あんな大きいのが戦っているのに、気が付かないのがおかしいと思いますけど」
思わず言葉を失うレオン。
スライムは基本的に水さえあれば永遠に生きられる。
勇者ヴェルが生きていた千年前から生きていても、何もおかしくない。
しかし、スライムは積極的に人間と関わってこなかった。
喋ったり、文字を書くことができないとされ、人間社会に溶け込まなかったのだ。もちろん、敵対することもなく、ヴェルシアでは共存してきた。
だが、ベルは特殊だった。
一週間で人の言葉をマスターしたのだから。
「ベル……ともかく、その湖の場所に案内してくれないか?」
「いいですよ~。この王都の地下にあるんで、すぐですし。でもその代わり、このグミもっとくださいね」
「わかった……あとでアルバード様に頼んでみる」
ベルのグミの消費量は半端ではない。
一日に一キロは食べている。
アルバードは頭を抱えるかもしれないが、魔動鎧が見つかるならはるかに安いはずだ。
今あるグミをありったけ口に含むと、ベルは言う。
「では、行きましょう! 三十分ぐらいで着きます、ここからなら!」
「おう、頼むぞ」
「ふふ、お任せください! ようやく、私の有能さを見せつける日がきたようですね!」
引き上げに際し人手が必要になるかもしれないが、まずは本当にあるのか様子を見よう。
レオンは自信満々なベルを追って、地下水道へと入るのだった。
~~~~~
水路に沿った石造りの道を、レオンは光球という周囲を照らす魔法を展開しながら進んできた。
しかし今、十字路で完全に歩みを止めてしまっている。
目の前のベルが、きょろきょろと周囲を見回しているからだ。
「うーん……全然っ、分からない!」
ベルは振り返ると、けろっとした表情で言ってのけた。
「さっきまでの自信は何だったんだよ!」
「まあまあ。近くに来てるのは確かですから」
「本当か? さっきもここを通ったぞ」
「……もともと魔王城なんだから仕方ないでしょう! 侵入者を迷わせるようにできているんですから!」
「そりゃそうだろうが……そもそも、ずいぶん昔に湖が消えてしまったってことはないのか?」
「それはありえません。陰気臭いのが多くて滅多に行きませんでしたが、ずっと水の量は変わりませんでした」
「そうか。まあ、ともかく周囲を探ってみるか。む」
レオンは周囲の魔力の流れが変わったのを感じ取る。
「──サーチ」
魔力探知魔法を唱え、周囲を確認した。
すると、十字路に接続する全ての道から、人型の魔力が迫っていることに気が付く。人型にしては軽い足音も近くなってくる。
光球の一つを、前方の道に放つ。
見えてきたのは、不気味に笑う人間の頭蓋骨だった。
こいつらは……スケルトンか!
「陰気臭いってのは、あいつらのことか、ベル?」
「ですです! やっぱり、近いですよ!」
「倒さないとこれ以上近づけないがな──シャイン!!」
スケルトンが一斉に走り出すと、レオンは四方に向け手を振り払った。
優しい光が四方に眩く広がっていく。シャインという、アンデッドを浄化する魔法だ。
「おお!?」
ベルが声を上げた。
光が収まると、迫っていたはずのスケルトンはすっかり消えていた。
「へえ。レオン様の魔法、結構すごいんですね」
「たいしたことじゃないよ。魔法がどれぐらい使えるかなんて」
そう素っ気なくレオンは答えた。
一応は、ヴェルシアでも最高の魔力の使い手と、周囲からは評されていた。
だが平和なヴェルシアでは、魔法の優劣はさほど重要視されなかった。大きな天災でも起きなければ、強力な魔法の出番はほとんどなかった時代が続いていたからだ。
しかし、魔動鎧が魔力で動くのなら、帝国ではそれなりに評価の基準になるのかもしれない。
……小耳に挟んだところだと、帝国には八十の恒星系がある。人口は四千億人だとか。
自分よりも多く魔力を扱える者も多いはずだ。銀河に進出するほどだから、魔力を扱う教育も優れているはず。
「もっと、鍛錬しないとな……って、まだ来るのか!?」
周囲からは、新しいスケルトンの反応が迫ってきていた。
すぐにレオンは、シャインでスケルトンを倒す。
しかしまた新手が。
それを倒してもまた新手が現れた。
そんなことが何回も繰り返された。
「もう、百体は倒してるぞ!? これじゃあ、きりがない! ……ベル。こうなったら、直感を信じて進むぞ! こっちだ!」
レオンが走ったのは、右の道だった。
「そんな適当で、大丈夫なんですか!? ああ、待ってください!!」
レオンはスケルトンをシャインで消滅させながら駆けていく。
次第に、目の前に金属製の重厚な扉が見えてくる。
ベルが声を上げる。
「あっ! あそこです! 間違いありません!」
「扉に施錠魔法が掛かっているな。水路に潜れば進めるが、ここは」
レオンは解錠魔法を扉に向ける。
すると、扉はばたんと簡単に開いた。
「走れ、ベル!」
「合点承知!」
レオンとベルは、開いた扉の向こうに飛び込むのだった。
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