最強ダンジョン攻略者は異世界でも最強です〜誰も踏破したことのない最難関ダンジョンをクリアしたら強制的に異世界に転移された〜
すかいふぁーむ
第1話
世界中に突如現れたゲート。
試しにくぐった先遣隊は戻ることはなかった。
危険な場所と判断されたゲートは、世界各国が立ち入りを禁止して事実上封印してしまったために十年以上のロスが生まれた。
「ま、そのおかげでこうして世界ランク一位の攻略者をやらせてもらってるんだから、ありがたい話だな」
ゲートの話題は幼い頃一度話題になったきり、各国の厳重な封印によって日の目を浴びることがなかった。
改めて話題になったのは二年前。とある国でデモ隊が暴徒化し、封印が解かれた。ある意味、初めてまともに武装した集団がゲートに飛び込んだことでその価値が明らかになったのだ。
ゲート内はダンジョンと呼ばれ、危険なトラップやモンスターが存在することがわかった一方で、ダンジョンから生み出される産出物は科学分野に大きな前進をもたらした。
世界の対応は一転。厄介者だったダンジョンのゲートは、各国の利権争いのための火種となり、今や世界中が国を挙げて攻略者の支援を行う一大産業へと成長を遂げた。
「で、俺もこうして食い扶持が得られた、っと」
話しながらワイバーンの首を折る。食用より装備用の素材が売れるのでそちらをメインに捌き、荷物に加えていく。
ダンジョン攻略者はこのように、ダンジョンから得たものを売り、装備を整え、徐々に力を伸ばしていくこともできる。
だがダンョンの価値はそこに留まらない。むしろそこからが本番と言える。
ダンジョンの攻略を達成するたび、強力な力や装備があたえられることがわかった。その力は一つで小国一つが滅びるほどの強大な力を持ち、いまや攻略達成者は国を挙げて抱え込む国家戦力になっている。
「で、俺は世界で数十人しかいない攻略達成者、そして、世界で例を見ない、複数ダンジョンの攻略達成者ってわけだ」
今潜ってるダンジョンも周りに人がいないのはそう、ついてこられる人間がいなかったからだ。
一つ目は本当に偶然と幸運が重なった結果だったが、その後は着実に実力を伸ばしてきた自負がある。
「攻略数で倍も差をつけたらまぁ、追いつく奴もそういないだろうけど」
ダンジョンはついつい独り言が多くなる。
ましてここは攻略難度S。世界中を見渡しても圧倒的な難易度を誇るこのダンジョンは、世界に初めて現れた始まりのゲートであり、また一階層にして容易に人の命を刈り取る危険なダンジョンだ。
挑戦者すらほとんどいないダンジョン。
無駄な死者を出さないために認められた冒険者以外の入場すら規制されているほどのダンジョンのさらに深部なので、たどり着ける人間が俺以外にいなかったというわけだ。
「これで99層」
普通ならボスときて、次はゴールのはず。
「グルゥアアアアアアアアアアアアアアアア」
「ここに来てドラゴンか! ベタだな!」
身体が高揚して熱くなるのを感じる。さっきまでの羽の生えたトカゲとは違う。爪が、口が、鱗一つ一つが、本来なら人一人など十分に倒しきるだろうその強大な力に真っ向からぶつかることができるのが、何よりの悦びだった。
これだ! ボスはこうでなくっちゃな!
「ガァアッ!」
「おっと」
鋭い爪による攻撃が俺のいた場所を襲う。
ここまでダンジョンを攻略して得た七つの力の一つ、浮遊を使って交わす。
空が飛べるのは魔力の満ちたダンジョン内だけではあるが、こんなに楽しく便利な力はない。
「張り合ってくるのか。面白い」
ドラゴンが何か対抗するように翼を広げ空へ舞い上がる。
空中戦と行こうか。
「グルゥガァアアアアアアアアアアアア」
「ブレスか! 良いぞ良いぞ!」
こんなに戦いがいのある相手、最初のダンジョンで出会ったあいつ以来だ。俺が弱かったのもあるが、それ以上の試練だった。
あれに比べれば単純すぎる力比べであるこのダンジョンのボスは可愛らしく写る。
「遠距離攻撃はお前だけのものじゃないぞ!」
掌を広げタメをつくる。力が集まり、ドラゴンが放つ致死性の炎にぶつけるに足るエネルギーが集中したのを感じ取った。
「いくぞ!」
間抜けに口を広げたドラゴンに炎ごとお見舞いしてやろう。
「ブライトカノン!」
俺の掌から放たれた光の奔流がドラゴンが放った炎のブレスを包み込み、拮抗することもなくそのままドラゴンを飲み込んだ。
「あれ? ……あっけなかったな」
最難関のダンジョン。その最奥のボス。その存在すら、俺を満たすことはなかった。
ダンジョンを三つほどクリアしたところからだろうか。それまで称賛の声に迎えられた俺の功績は、いつしか畏れを抱かれていた。妙な疎外感を避けるため、逃げ込むようにダンジョンに潜り続ける日々を送ってきた。
「お前はどうだ? こんなところで1人、寂しくは、なかったか」
もう動かない竜の巨大な鱗に手を這わせる。
答えは当然得られることもなく、虚しく虚空に消えた。
「ストレージ」
これもダンジョンで得た力の一つ。空間魔法。国や研究機関が価値を図りきれず置き去りになった多くの素材が眠っていた。
きっとこのドラゴンも、持ち帰ったところでせいぜい鱗くらいしか加工はできないだろう。だがワイバーンと違って捌くのも場所を使うため一度すべて持ち帰ることにする。
「いくか」
ゴールは第百層。これはどのダンジョンでも変わらない。
「ここからが無駄に長いパターンじゃなけりゃいいけどな」
たいしたもんも出てこないくせにゴールだけ異様に遠いダンジョンもいくつか経験した。
そうでないようにという祈りは、半ば予想通り届くことはなかった。
「ようやくか……」
ただの移動を永遠と強いられたすえ、目の前にある扉が現れる。見間違うこともない豪華な黄金の扉。
まさにダンジョンのゴールを指し示す扉で間違いなかった。
「かれこれ8回目の攻略だしな。間違えようもないけど」
扉に手をかける。
まばゆい光が溢れだす。このために頑張ってきたと言っても過言ではない。ドラゴンへの落胆も現実世界への絶望も何もない。
この先に待つのは新たな力や装備品、あるいは宝石の類を得るための踏破者を迎え入れる唯一の休息所。
「これで世界ランクはまた俺が一位だな」
開いた扉の先は、
――異世界だった。
「――っ!」
まずいと思ったときにはもう遅い。扉は閉ざされた途端に虚空に消えた。帰る道もない。
異世界。そう称したのはこんな広大な草原、生い茂る異形の木々、そして何より、城壁に囲まれている街を見て、それ意外の単語が思い浮かばなかったからだ。いや、頭の中に流れ込んでくる言葉が、それを嫌でも認識させてくるからだろうか。
『――望みを叶えた』
「望み?! ふざけんな! 俺はようやく現実世界で、誰にでも誇れる実績を……!」
『それで何が得られた』
「有り余るほどの金! 誰も俺をバカにしない環境! 何だって手に入ったぞ!」
『それが、お前の望みを満たしたか?』
「望み……?」
『望みは叶えた』
それだけ言うと声が頭からスッと消えてなくなった。
「俺が何を望んだっていうんだ……」
目の前に広がる大草原に呆然と立ち尽くした。
「とにかくこんなとこにいつまでもいるわけにいかないか……」
わかりやすく人里が見えるんだ、そこを目指さない手はない。しかしここ、ダンジョンと同じ雰囲気だな……。
頭に響いた声のせいで異世界なんだなということだけがわかる不思議な感覚を味わわされていた。あとの情報がまるでないのだ。
「そうか。ダンジョンと同じってことはだ……!」
飛べる。確信を持って浮遊を行った。
「おお! 飛べる! こんな見晴らしが良いのは初めてだな!」
興奮を覚える。これは悪くない。異世界も悪くないぞ。俺の望みはこれだったのか? いや、だとしたら虚しいにも程があるぞ。飛ぶためだけに俺は全てを捨てたのか?
ひとしきりとびまわっていると森の異変に気がついた。
明らかにやばいサイズの生き物が身なりのいい人間を追いかけていた。助けるか? 迷うはずもない。
「あいつはドラゴンより強そうだ!」
助けるとか助けないとかじゃない。
俺はこのために……ああ、俺の望みって、これか?
「まあいい。ブライトカノン!」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
タメが少なかったからだろうか? いや、違うな。
「あいつはやっぱり、ドラゴンより強い!」
嬉々として追われる二人の間に入ってその生き物と対峙した。
第一印象はでかいイノシシ。だが色がおかしい。緑を軸にその姿はどことなく虫のそれを思わせる。
「それに足の数もどちらかと言えば虫か」
八本の太い足はそれぞれが十分に人を殺せることを物語っている。
「貴方は?!」
「そんなこと言ってる場合か? あぶねえから離れてろ!」
「っ! はい……!」
それだけ言うと2人組の女が駆け出す。ちらっとしか見えなかったが可愛い子たちだったな。
「さて、今はそれより、お前だな」
「グルッゥゥゥウウウウウ」
さっきの一撃はこいつを怒らせるだけの威力はあったようだ。
「行くぞ」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
八本の足が無闇矢鱈と振り回されてそれぞれ致死性の攻撃となって降り注ぐが、交わして空に上がれば飛ぶすべのないそいつの攻撃は届かない。
「って、まぁそう簡単には行かねえよな」
力を貯めるようにギュッと身体をすぼめたかと思えば、全身が真っ赤に変色し始める。
そして――。
「おっと」
確か元の世界には自分の血を使って攻撃するやつもいたか。そういうのか?
七つの力の一つ。神獣霊亀を倒したことで得られた大盾をストレージから取り出し掲げる。幸いそれを打ち破るには至らなかったようだ。
だが、守るすべのなかった森の木々たちがその威力を被害で物語っていた。
「おいおいまじか……」
木が溶けていた。ドロドロとだ。
ありえない光景ではあるが、目の前にそれが展開されている以上受け止めなければならない。
「これはとっととトドメを刺したほうがいいか……」
せっかく逃したのにあの子達に何かあれば寝覚めが悪い。
「これでいけなかったらちょっと考えるか……」
ストレージへ盾として使った霊亀の甲羅をしまい込み、一本の剣を取り出す。
「神剣……なんていったかな?」
手に入れたときに銘を聞いたとは思うんだが覚えてなかった。
「まぁいい! とりあえずぶった切る!」
空中から化け物に向けて剣を振り下ろす。
あのサイズなら外しようもないけど狙いは定めて。
「ギュグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
振り下ろした剣から光を帯びた斬撃が飛び出し、化け物から断末魔を引き出した。
◇
「すごい……」
逃げろと言われたというのに、ただそこに立ち尽くすしかできなくなっていた。
それほどまでに目の前に突然降り立った男の存在感は圧倒的で、洗練されていて、目を奪われたからだ。
「まさか私たちが逃げ切ることすら叶わなかった相手を、一撃で、ですか……」
「すごい……」
言葉が出ない。ただただそうこぼすしかなかった。
伝説の再来とまで言われた皇女セシルと、王国最強としてその近衛騎士団長に付いた私、ミレナの二人を持ってしても歯が立たなかった相手を簡単に消し去ったわけだ。それだけでその男の異常な強さがわかる。
「一体……貴方は……」
「おいおい、逃げろって言っただろうが……」
呆れられながらも、目に優しい表情を浮かべたその人間が悪いものでないことだけは、肌が感じ取っていた。
◇
「申し遅れた。私たちは……」
「あーいいにくいなら言わないでいいぞ?」
明らかに身なりがいいことを考えるとお忍びだなんだとややこしい事情がある可能性も十分に考えられる。俺も自ら進んで厄介事に首を突っ込みたくはない。
「いえ、しっかり身分を明かしましょう。命の恩人です」
「良いのですか?」
「いやいや、無理にとは――」
「アルメリア皇国第三皇女、セシル=ディ=アルメリアです」
人の話を聞かない皇女様だった。
「命の恩人にしっかりとしたお礼もつげずに還らせたと荒れば王家の名に傷が付きます」
「失礼ですが、貴方のお名前は……?」
名前を聞かれて答えに窮した。
日本語を喋っても伝わっているとはいえ、名前の違和感は拭いきれないだろう。名乗るならそうだな……。
「ゼロだ」
「ゼロさん……ですか」
ランキング不動の1位の俺を指して揶揄した言葉。あいつはもう対象外、ゼロ番目にして他の人間で競おうと。
「とにかく、しっかりとしたお礼がしたいですので、一度城までお越しいただけますか?」
「ああ……」
どのみち行く予定だった人里だしな。
もはやここで逃げるほうが不自然だろう。
「ちなみにですが、何かお礼に欲しい物とか、望みはありますか?」
「そうだな……」
不意にあの声が頭に流れる。
『望みは叶えた』
「望み……か」
俺の望みが何かわからない。
「お金でも、武器や宝具でも、場合によっては爵位も含め……私の命は幸い、安くはないはずです」
「いたれりつくせりだな」
「ふふ……そうなんです。どうでしょう? なんなら私をお礼に持っていきますか?」
小柄ながらその美しさと包容力に一瞬ドギマギさせられるが、本気になるにはいかんせん幼すぎる容姿をしていた。可愛いんだけどな。
「姫様! それなら私が行きますので」
「二人で嫁ぎますか?」
「姫様っ!」
二人の関係性が垣間見えるやり取りだった。
「まあ、おいおい決めていきましょう」
「おいおい、か」
「はい」
望みか。
ああでもなんだろう。
少しだけ、こうして他愛もない会話をしている今の時間が、心地よくて、懐かしく感じている自分がいた。
最強ダンジョン攻略者は異世界でも最強です〜誰も踏破したことのない最難関ダンジョンをクリアしたら強制的に異世界に転移された〜 すかいふぁーむ @skylight
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