触れられない窓

隣の芝生は青く見えない

「隣の芝生は青く見える」


この言葉の意味を、私は理解出来ない。

窓際に置かれたベンチに座って、1人で本を読む時間。

あなたのお気に入りの音楽をかけながら、あなたの好きな絵を眺める時間。

どんなに有名な庭園より、あなたが大切にしていたひとつの花壇の方が、私は素敵だと思う。


もし今私の全てが攫われてしまって、神様に「あなたが落としたのはこれですか?」と問われたとして。正直に答えて他のものに交換されようものなら、たまったもんじゃないわ。私が返して欲しいのは、私の全て。他に何かが欲しいなんて思わないもの。


全部が幸せで、全部が愛おしい。


あぁ、でもね。やっぱりひとつだけ不満がある。

それはただ、あなたがここに、いないこと。

それだけが不満だけれど、次にあなたに逢うときまで、しばらく我慢するわ。だって、私はこんなにも満たされているのだから。あなたが遺した幸せに包まれて生きることが出来るなんて、世界中で1番恵まれているものね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る