翌日、私は覚悟を決めた。




「あの、日野さん、僕と付き合ってください。」


放課後、予告通り、私は嘘コクをされている。

昨日思い浮かべた3人が、ニヤニヤしながらこちらを見ているのにも気付いた。そんなところにいたらバレバレだ。


「…日野さん?聞いてます?ほら、早く。」


余計なことを考えてぼーっとしていたせいで、小声でコソコソと、桜士朗くんから返事を急かされる。「No.」の返事を聞きたがる桜士朗くんは、やっぱり独特な感性を持っている。


「桜士朗くん、ありがとう。突然で、ちょっと、びっくりしちゃった。」


「…え、日野さん!そういうエンターテインメント性いらないから!」


ゆっくり話し出した私に、ささっと振られる予定の桜士朗くんが小声で少し慌てる。


「そういう風に想ってくれてるなんて、知らなかったけど、嬉しいです。私でよければ!よろしくお願いします!」


「え!」「は!」「嘘だろ!」


もはや隠れる気のない3人の、とてつもなく大きな驚いた声。

でも、その一方で桜士朗くんは爆笑していた。


「うわぁ~まじか!そう来んのね!やられたわ~!」


昨日までの敬語はどこへやら。桜士朗くんは "本性" を現した。

「まじやべぇ!」「ちょ、みんなに教えようぜ!」「"ひめ" と "おうじ" がくっついたぞー!」などと口々に言いながら去っていく3人組なんて、今はどうでもよかった。


「…ねぇ、桜士朗くん。きっと、いや絶対、気弱なんかじゃないでしょ。実はめちゃめちゃ自分を持ってる強い人。じゃなきゃ、嘘コクの報告なんてしてこない。」


「ふふ、見破られてた。」


「面倒事に巻き込まれるのが嫌で、反発もせず適当に過ごしてたら、気弱と勘違いされた。でも、そのおかげで自由気ままな生活を手に入れられることに気付いて、自分から気弱を演じるようになった。」


「正解。」


「元々雑用とか嫌いじゃないし、変にわちゃわちゃするより楽だったんでしょ。」


「うわ、もう大正解!すごいね!」


「桜士朗くんの感性が独特すぎて、理解出来なくて悔しくて、徹夜で考えたの。」


「うわぁ、ずっと俺のこと考えてくれてたなんて、嬉しい。でも、なんでOKしてくれたの?あ、もしかして、嘘コクに嘘返事した?」


「ううん、嘘コクのフリしたガチ告白に、ガチ返事したよ。桜士朗くんをもっと知りたいって思ったからね。」


「なるほど。日野さんの方が、一枚上手だったね。正直さ、巻き込んで申し訳ないって気持ちは本当だけど、俺のこと気になってくれないかなぁって期待もあって、嘘コクのこと伝えたんだよね。日野さんに告れって言われたときは、逆にチャンスかななんて思ったし。」


「じゃあ私、桜士朗くんの罠にまんまと引っかかったんだ。」


「まぁ、じわじわと気になってくれれば良いなぁって思ってた。あわよくば、いつか好きになってくれないかなぁって。だけど、日野さんは速効タイプだったね。さすがに予測できなかった。」


「…桜士朗くんって、やっぱり変だよね。」


探り合うような敬語もいつの間にかなくなって、「独特の感性」と濁していた桜士朗くんのことを「変だ」と言えるようになって。私と桜士朗くんは、実はかなり気が合うのかもしれないと思った。


「日野さんも変だよ。俺ら気が合うね。」

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