第15話 不可解な人たち



「ねえ、あの二人ってどんな関係なの?」

 オリビエが女の子だと分かれば、興味のターゲットは変わる。

「さあ、オレも分かりません」

 フェリオの本音だった。

 幼なじみで、かなり親しい。恋人かと言われれば、そこまでではないような気もする。

 オリビエが鈍すぎるのもあるが、ハスラムもちゃんと自分の気持ちを伝えていない。

 本当に分からないのだった。言えることは、恋人だの友人だのというくくりで二人の関係を決めることはできないということだった。

「あなた坊やと親しいんでしょう?」

 一流ギルドの相棒ということは、信頼関係も厚いはず。

「そうですね」

「まあ、いいわ。ハスラム様はリードのことで何を掴んだの?」

 しらを切っているのか本当に分からないのか、フェリオの様子から判断できない。別のことを聞く。

「それも知らないんです。ふっと消えられて今だから」

 人の姿に戻ってからだが。

「あなたたち仲間ののに、連帯感がないのね。信じられていないの?」

「最後は一緒に片付けることやってますから、間は飛ばしてもいいのでは? 専門的なことで動く場合、専門外の者は邪魔でしょう?」

 傭兵家業で得た考えだった。説明は後で聞けばいい。

「そうなの。達観しているわね」

 納得はできるが、自分なら文句ものだとタニアは思う。住む世界の違いなのだろうか。

「バルレリス侯、われわれをどうするつもりか?」

 黙々と何かの準備をしているところに半強制的に魔導協会の番人というべき魔法騎士に連れて来られた。その上、ベリーテと二人、小さい目の長椅子に身体をくっつくけて座らされている。

 貴族としていや、人として失礼極まりない。

これでは罪人ではないかとクラスト子爵が抗議した。

「もう少しお待ちください」

 テーブル半分にペアになった本とタペストリーを並べる。

「これが対の、タペストリーの題材になった本です」

 タイトルとタペストリーの柄を合わせていた。

「タニア、中和の呪文を合図したら唱えてくれ。少し控えめで」

「ええ」

 これが協力なのかと頷く。

「それからと」

「あ、あれって!」

 ハスラムが持っていた袋から出した物にオリビエが驚く。

「あんなにたくさんあるんだ」

 ハスラムを戻す時に使った護符が入ったペンダントだった。

 五個はテーブルにある。

 材料は稀少な石が必要で作る技術もかなり高度で、一つ作るのにかなりの時間と動力がかかる物だ。

「ほら、オーリー!」

 その一つを手に取ったと思えばオリビエに投げてきた。

「あの時に壊したから」

「え、いいの!」

 元々、あのペンダントもうやむやな形で自分の物になっていたので諦めていた。

「あれで合っていたんだ?」

 ペンダントを抱きしめるように持ち、聞いた。

「そうなる」

「やったね」

 効果が出るのが遅かっただけ。

オリビエは、元に戻ってくれたんだとはしゃいでしまう。

「はぁ……、なんなのあの二人」

 タニアが疲れるとため息を吐く。

単純に喜ぶオリビエはかわいいが、それを見るハスラムの視線は今の状況にはそぐわない。

 平時だったら見ているこちらもぽっとなったり照れくさくなったりしていただろう。

「バーズ、空いたことろに檻を」

 返す物を返してハスラムは、次へ進む。

「はい」

 指示されバーズは檻を乗せる。

 するとハスラムは指を鳴らした。

 音に反応し、廊下で待機していた魔法戦士が一人の青年を連れて入って来た。

「お、おまえは!」

 青年を見るやクラスト子爵が、過剰に反応した。

「旦那様ひどいです!」

 青年もクラスト子爵を見るや怒鳴り声を出す。

「どういうことですか?」

 ベリーテが不安げに聞いてくる。

「彼はリードの発明品の実験台になったのですよ。元に戻す方法を見つける前に」

 討伐の時の押収品に檻に入った小動物を見つけていた。それを持ち帰った。

「え!」

 ベリーテはクラスト子爵と青年を見る。

「発明の進行状況を報告したくて、こんなバカなことをしたようだが。人を身分で差別する傾向にあるからこういった、非道なことができるのでしょうね」

 とりあえず、こうすれば変身させることができると途中経過を報告するつもりだったのだろう。

「私は、オリビエのおかげでどうにか戻る方法を得ましたがね」

 言葉を切り、じろりと睨む。

「クラスト子爵、今なら私をこういったことに巻き込んだ原因を作ったことを許して差し上げますが」

「何のことだ?」

 大量の汗を額に浮かべ、視線は定まらぬままとぼける。

「すみませんと誠意を込めて口に出していただけたら嬉しいです」

 絶対に視線は合わせないぞ、という態度に確信を得る。

「どちらがいいかな」

 ハスラムは、楽しそうな声を出して、クラスト子爵を見る。

「……、呪いにかける気か?」

 クラスト子爵は、低い声で唸る。

「呪いですか? どうしてそう思われる?」

 にこやかに聞いた。

「そ、それは!」

 答えに困り黙り込む。

 冷や汗が増していた。

「クラスト子爵どうしますか? 最後のチャンスですよ」

 人が悪い笑みを向けた。

「あ、ああああ」

 怒っているのは分かっていたが、この笑みは機嫌は最悪だ。

 噂でしか知らないが、バルレリス侯を激怒させた者の末路というものを聞いたことがある。

日頃温厚なだけに怒らせると相当ひどい目に遭わされると。

「す、すみませんでした」

「私がしようとしたことが何か分かるということですね」

 観念したと頷いた。

「では、検証の続きをしましょうか。タニアには証人になってもらいますから」

 ハスラムは檻から小動物を出し、ペンダントの内側へ置く。

「タニア、今です!」

 合図にタニアが呪文を唱え放つ。

「え!」

「誰?」

 小動物が人の姿に変わった。

「ひい!」

 全裸の青年を正面で見てしまったタニアが悲鳴を上げて床にしゃがみ込んだ。

「服を」

 冷静に側にいたバーズに言い、顔面蒼白で立っているクラスト子爵の前に進んだ。

「こんなものを作らせて、スパイ活動でもする気だったのですか?」

「いや、その」

「武器を作らせていることは掴んでましたが、諜報活動のためのアイテムですか?」

「やはり黄金の毛のバラクは……」

「事故で術にかかりましたからね」

 その時、喋ることはできなかったが、側で人が何を言っているかは理解できた。

「大変な思いをさせていただけた詫びはさっきいただきましたから。ですが、こういったものを開発してどう使う予定だったかは、王宮で聞かせていただきます」

 背後には相当な魔力を有する者と大金が絡んでいるはず。

「私は、ただいい金儲けがあると誘われただけだ!」

「魔法石の入手方法は?」

「知らない。現物をリードに見せられただけだ」 

 その時どう使うか説明されたが、ほとんど分からなかった。

 魔術を呪文なでして、発動できる石としてしか。

「本当に金儲けがしたかっただけだ。バルレリス侯が術にかかってしまうとは、考えてなかった」

「確かに不覚でした」

 失笑するハスラムにオリビエは焦った。

 その原因は自分なのだ。後で小言を浴びるほど喰らうだろう。

「続きは王宮で」

 二人の魔法戦士に両脇を掴まれて部屋から連れ出されて行く。

「私は!」

 この展開を茫然と見ていたベリーテが、ふと我に返った。

「何も知らない」

 叫んでいる。

 このままではリードの仲間になってしまう。

「巻き込まれていただけでしょうね」

 冷たい笑い。

全てが凍ってしまいそうなものを向けられた。

「ベリーテ、あなたのような王宮の騎士が魔導協会の仕事に関わることは異例ですよね。タニアに警護として自分を使ってほしいと、あなたが頼み込んだと調べがついてますが」

 確かに魔導協会から王宮に依頼を出していた。

 私たちは、得た情報で自分たちの不利になるようなことを隠す気はありません。信じられなかったらそちらの者を派遣してください。と、王宮へのアピールのために。

 騎士団の総長も、「魔導協会がどうしても必要ならどうぞ」と、返事をしたようだ。

本来王宮が関わらないことで組むことはない。

 そもそも管轄が違う。

「私は! ハスラム様専用の警護がいると聞いたから、私専用にとお願いしただけよ!」

 犯人と関わりがあるベリーテにタニアは大慌てで否定する。

「この仕事で私のミスを誘発しようとしていることは分かってましたが、他にも探るようなものがあったようですね」

「そんなこと私は、頼んでないわ!」

 これにまたタニアが反応したが、ハスラムは聞き流していた。

「私怨で仕事はやらない方がいいですよ。それも専門外のことで」

 騎士がスパイ活動に嫌がらせ。騎士の精神に反する事ばかりでうまくゆくはずがない。

 騎士を目指した時から清く正しく、正義を追い求める者として躾られている。

「くっ! ただ、魔導協会が警護を必要としていると聞き、バルレリス侯が絡むという情報を得たので、その仕事を受けた。ただ警護しろというだけだ騎士団の指示は」

「クラスト子爵との関係は?」

「仕事を受けたことを誰かから聞きつけて、訪ねて来た」

 その時にクラスト子爵もバルレリス侯にいい印象を持っていなかったので、よければ強力して足をひっぱろうとなった。

「クラスト子爵のところの仕事をあなたは一つ潰したのでしょう?」

「魔術関連のアイテムが、悪事に使われていましたから」

 リードと組んでの仕事だった。

「妹君のことで恨まれているようですが、私は何もしていません」

「だが!」

「私のところに縁談話が来ることは、よくあること。ただ、いい相手がいるという程度でね。会ったこともない相手を妻にと普通は考えますか?」

 家の存続などの切羽詰まった理由があれば違うが。

「じゃあ、せめて一度会って欲しかった。妹は王家に嫁がせてもいいほどの教養に美貌がある。気立てもいい娘なんだ」

「まだ結婚する気はないんですよ。噂は聞いたことはありますが、それだけです」

 どこかの家の娘は美人。ハスラムにとって年頃の女性の話などこれぐらいなものだった。

「ベリーテも縁談話は来るでしょう? 会えばぐらいのが。それに興味がなければ断るでしょう」

「妹は、宰相様が自分を推してくれていると喜んでいた」

 話を持って来た相手が国の高官だったのでまず進むと一家で思っていた。

「バルレリス家は、別に養子でもいい家なんです。強大な魔力を持つ者ならば。家同士のつながりはいりません。代々当主に出世欲がないのもありますが、基本、自分の相手は自分で探すが方針です」

 だから血筋的にそう濃くない自分が養子となり跡を継いだ。

「二人は、私たちが探している者にいいように利用されていたと思います。ああ、私の私生活に興味を持っているようですが、オーリーと子供の頃になくした宝石を探しているだけですから」

 大まかな答えだ。

「私は、そんな魔術絡みの物を作らせるなどということは知らない。確かにクラスト子爵から何かを探しているようだから進行状況を探れと指示されていたが」

 ここで言葉が途切れる。

「その辺りも王宮で」

「そんな……」

 全く相手にしてもらえてなかった。

「連れて行け」

 二人は王宮へ連行されて行った。

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