第12話 オリビエ、ヒントを真面目に考える



 日が暮れ、オリビエたちは宿に戻った。

 食事も終えて、二人と一匹はオリビエの部屋で作戦会議をしていた。

「今日も何もなかった。パトロンに繋がる情報はあったけど、どう調べるかだな」

 アジト探索から離れなくてはならない。

「それはあっちに任せようぜ」

 自分たちは、アジトにある物品から手がかりを掴んだ方がいい。あそこにはハスラムを元に戻す手がかりもあるはずだから。

「早くハスラムさんを元に戻さないと」

 ベリーテが、何かを探っている。思い当たることだったらマズい。

「けど、ぜんぜん方法が分からない」

「考えろ。何かあるはずだ」

 剣で片が付くことなら、自分も動き考えることができるが、魔術だ。無理。

 全くもって専門外だった。

 適当にしか修行をやっていないオリビエの方がマシという状態だった。

「何かヒントでもあれば」

 オリビエは、考え込んでしまった。

「ハスラムさん抜きでこの仕事を終わらせる方法も考えないと。タニアさんたちにごまかしがいつまで通じるか」

 急用ができたと言ってもう二日。そろそろタニアが切れる頃だ。

 重要な手がかりを掴んで実証に行っているんだと。

「フェリオは、抜きの方法を考えて。オレは、戻す方を考えるから」

 どう考えてもハスラムを元に戻さないとダメだとは分かっている。

オリビエは開き直りに近い心境になっていた。

「タペストリー見たいから出して」

 原因になったタペストリーはないが、別の物はある。そこから何かヒントを掴もうと考えた。

 オリビエは、フェリオのカバンに隠していた魔石が縫い込まれているタペストリーを出してもらった。

 それを一枚一枚広げては、施されている図柄を見る。

 バラクも検証をしているのか、オリビエの横でタペストリーを覗き込んでいた。

「やっぱり、石が縫い込まれているタペストリーって、みんな何かに変身させられる話ばかり題材にしている」

 子供の頃に読んだ物語をがんばって思い出していた。

 グルラン帝国の昔話で変身する物語を何話か浮かぶ。

 そして、ハスラムがリードは、変化させる呪文の研究をしていたようだと言っていた。

「やっぱり」

 どのタペストリーにも該当話に登場する人や物があった。

 あのハスラムを変身させたタペストリーも極彩色の鳥がいた。

「あのタペストリーにあった話は」

 グルラン帝国の昔話で、悪い魔法使いがやっつけられて、どうなったか? オリビエは、あらすじしか覚えていない。

「どうやってやっつけたのかなぁ」

 読んでいたのは、まだかわいい乙女心全開な頃だったので、いい魔法使いが命がけでお姫様を守る姿をかっこいい! としか覚えていなかった。

「物語通りに終わるとは限らないぞ」

 オリビエの独り言は声が大きく、フェリオにまる聞こえだった。

「フェリオは知っている?」

「いいや、知らない。それよりも魔法陣の方を考えたら?

絡むんだろう」

 専門外なのでこうとしかアドバイスできない。

「真面目に勉強していたらよかった」

 反省モードになっていた。

知っているのは初歩の初歩。魔術を使いたいと思わなかったので逃げていた。

「まあ、理論ってーのを考えれば」

 石の配列でなんだかの術が発動するようになっているのだが、それの応用でどうにかならないだろうか。

「オレが子供に戻った魔法薬もだけど、根底には呪文があるんだ。炎や水やら色々と。それらが複雑に絡んで一つの効果を出すから」

 ぶつぶつが続いた。

だが、フェリオからすれば意味不明でしかなかった。

 理論というらしいが、魔術を使えない者からすれば、不思議な現象を力ある者が起こす。

 それだけだった。

「けど、生まれ待った力で魔術を使われていたら、理論なんて関係ないんだけど」

 血筋で起こす魔術。人以外の種族との婚姻で手に入れた力。紫の一族の時代、他種族との婚姻が流行っていた。

 人以上の力が欲しいがために。

 その血は、未だに続いているのだ。

「とりあえずやるだけやってから、皆に謝ろう」

「おい!」

 最初から諦めているような発言にフェリオは文句を言いかけたが、オリビエの嬉しそうな声に黙る。

「分かった。ヒントだ」

 子供になった時の戻した方法を聞けば、ハスラムはヒントをくれていた。

「役に立つかどうか分からないけど」

 返さなければと持ってきていたペンダントをカバンから取り出した。

「それって」

 子供になり本能のまま動くオリビエ封じのためにハスラムが与えた物だった。

 ハスラムの屋敷で薬ができるまでの間、気に入って離さなかったと聞いている。

「もらったんだけど。コレ何かに利く護符なんだ」

 テーブルの空いた所に置く。

そして、石の種類や並び方をじっと見る。

「分からない。高度過ぎるよ」

 簡単な物ならば作ることができるようになっていたが、これははるか上の技術と知識がいる。

 じゃあ、ハスラムはどんなことから自分を守るためにこれを作ったか。

「そういえば、魔術戦になったらたまに味方からも攻撃を受けることがあるとか言っていたよなぁ。呪い系が多いって」

 実力に嫉妬しての行為だと笑っていた。

「おいおい」

 剣の世界でもだが、どこにでも強い者に対して卑怯な方法で上にいこうとする連中がいるんだと、フェリオはため息が出た。

「中和だ!」

 魔術が自分に向かってきたら瞬時に無効にする、少しでも効果を下げる。

ハスラムは、こんな研究をしていた。

「あった!」

 ペンダントの石の並びにその意味があるところが。

「よーし!」

 バラクをペンダントの内側に置いた。

「いいな、じっとしているんだぞ。もしかすると奇跡が起こるかもしれないから。でも、ダメだったらオレが一生世話みてやるから安心しろ。だから、迷惑かけるからなんて考えて逃げるなよ! オレの側にいてほしいから」

 真剣にペンダントの中で座っているバラクの頭を撫ぜながら力説していた。

「オマエはどうだったか知らないけど、バルレリス家に養子に行ってからもうハスラムに会えない、もう近くにいないって思った時、オレ本当に悲しかったんだぞ。口うるさいし意地悪だけどさ、オレにとっては、いつも側にいてくれる幼なじみだったんだからな」

 真剣な眼差しで見つめられてか言葉の威力か、バラクはきょとんとオリビエを見ていた。

「あのなぁ……」

 フェリオも同じだった。

 ハスラムに逆らったり、逃げ出したりしているのは、反抗心だけだとは知っていたが、この発言。

やはりというか、オリビエもハスラムを慕っている。

「んーじゃあ」

 オリビエは呪文を唱えた。

 ペンダントがほんのり光ったが、変化はなかった。

「ははは、ダメか」

 その後二人で観察していたが、時間が過ぎるだけだった。

「中和とか言ってたけど、それって呪文が飛んできた時すぐでないとダメなんじゃあ?」

「そうだけど、ハスラムが作る物だから強力なのが基準なんだ。リードがどこまで上級な物を作るか分からないけど、ハスラムほどでないと考えたんだ。だから、術にかかってから時間がたっても中和できるかもって」

 あれ、失敗! と、ハスラムに呪文をわざと投げてくる連中は、実力者ばかり。

そんな連中の強力な呪文をはじくのだ、同レベルかそれ以下の実力かもしれないリードのものならば、術が発動して少し時間がたったぐらいなら効果があるのではと。

 だからこの効果がより大きくなる呪文をかけた。

「もっと魔術の修行をすればよかったなぁ」

 もしこの考えが正しければ、きっと強化した呪文が利くはず。でも、適当にしか修行をしなかった自分の微力なものがどれだけ足しになるか不安だった。



 それでも諦めずにオリビエは、ヘンダントの中で座っているバラクの様子を見ていたが、何も変化はなかった。

「オレ、タペストリーの謎解きする」

 オリビエは思いついたことをメモ書きしているフェリオに言い、バルクがいる近くの空いた場所にタペストリーを置き、座った。

「こいつ寝たな」

 しばらくタペストリーを見ていて視線を変えれば、バラクはコロンと転がっていた。

「オレたちも寝るか」

 フェリオは、お手上げと両手を上げ成果を伝えた。

「オレはまだがんばる!」

 大あくびをしながら唸るオリビエに笑いが出る。

「ハスラムさん抜きでいくのは厳しいけど、無理は無理。こう判断したらタニアさんたちに白状して助けを求めるしかないよ」

「そうだな。せめてパトロンだけでも判明したらなぁ」

 オリビエが弱音を吐いていた。

 さっきのが今の最高の打開策だったようだ。

「でも、パトロンの方は可能性あるかも。ハスラムが言ってたけど、かなり大っぴらにやっているからパトロンがどこまでバレているか知りたくて、近づいて来るって」

「それって、今日のお客さんか?」

「分からない。けど、娘さんのドレスが絡んでいるみたいだから」

「まっ、明日色々と考えようぜ。眠いと思考能力が落ちる」

「だな」

 フェリオは、あてがわれていた隣の部屋に戻って行った。

 白状した後の処理を考えながら。



 夜もかなり更けた頃だった、隣のオリビエの部屋から変な何かを感じフェリオは起きた。

 耳をオリビエの部屋との仕切りの壁に付けた。壁はそう厚くなく、物音ぐらいなら聞ける。

 だが、ごそごそと動く音と布ずれの音ぐらいしか聞こえない。

「え!」

 吐息が一人ではない、二人分聞こえた。

 フェリオは、音を立てずにオリビエの部屋の前まで移動し、扉を蹴破る。

「あれ!」

 部屋に飛び込むとベッドで横になっているオリビエとその横に座る人影がある。

 暗くてはっきりは見えない。

「フェリオ、宿屋の主人に喧嘩をして扉を壊したと謝ってくれ」

 聞き覚えのある声に階段を駆け上がって来る足音が迫ってくる。

「は、はい」

 かなり大きな音を出した。

 フェリオは、中が見えにくくなる位置に立つ。

 事件かと主人は血相を変えていた。周りの客は関わりになりたくなくて顔を出さない。

 主人さえごまかせば、どうにかなる。



「フェリオ、迷惑をかけたな。で、服貸してくれないか。まだ行方不明のままでいたいから」

 主人にうるさくしたことを謝り、壊れた所は弁償すると約束して帰ってもらい部屋に入るやオリビエの横にいた人物に詫びられた。

「ハスラムさん、戻ったんだ」

 上半身裸の状態で座っていた。

「オリビエ、起きてないんですか?」

 一番喜ぶのに。

「いや、この姿を見られるのが嫌だから。呪文で眠らせている」

 姿が戻った時、隣で寝ていたオリビエは異変に気付きすぐに目が覚め、泥棒かと殴られそうになった。

「はぁ」

 小動物の時は服を着てなかった。ということは、戻った今もということだ。

「すぐに!」

 フェリオは大急ぎで自分の部屋に戻った。

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