第11話 タニア忠告する
「オレたちリードのアジトに戻っていいかなぁ」
打倒ハスラム! 持ち帰った物を念入りに調べているタニアにオリビエは恐る恐る声をかけた。
「いいわよ。何かあったら連絡ちょうだい。すぐによ!」
すぐによ! に力が入っていた。
「パトロンかもしれない人物がいるってことだけは分かったけど」
ほんの少しでもギルドの依頼に進展があったことにオリビエは喜んだ。
「でも、どこの商会だろう?」
たくさんあって調べるには時間がかかるだろう。
「魔導協会が動いていることが外に知られているんだ、関わりがある商会ならもう証拠隠し終わっていると思う」
オレならそうするとオリビエ。
「何か意図があるんだろう、魔導協会に」
「あ!」
ハスラムなら知っているかもとバラクが移動中に潜んでいるはずの背中のリュックに手をやるが、いない。
「ハスラムを忘れた!」
「オマエなぁ」
「だっていつも勝手に入っているから」
こちらの話を聞いているのだろう。いつもいた。
オリビエは大急ぎでタニアの家に戻った。
「あら、もう何か新しい発見があったの?」
出迎えの第一声がそれだった。
「いいえ、バラクを迎えに」
「あのこね、ほら!」
作業をしていたテーブルの上にあった、黄金の小さな塊を投げてきた。
「ひぃぃぃぃぃーーーーー!」
手で受け取れば黄金の毛でできたものだった。
目から涙が溢れてくる。
「ははは、よく見なさいよ」
タニアは、爆笑しながら黄金の塊を触る。
「ほら」
タニアが一カ所をつつくと、塊がほどけるように形が崩れてくる。
「かつらを丸めただけ」
「かつら?」
髪の毛を多く見せたり、髪型を変えたりする時に使う用品だった。
塊の正体がそれだと理解するのに少し時間がかかったオリビエだった。
「リードったら、人工の髪の毛まで作っていたみたい」
タペストリーの検証が終わり、持ち込まれていた箱を開ければ金髪の髪の毛がいっぱい入っていた。
開けた時は驚いたが、正体が分かればいたずらを思いついた。
バラクと離れている時にオリビエが来れば、ポーチのようにして見せようと。
「魔術の仕事を辞めて、本当におしゃれ関係の仕事やる気だったのかしら」
魔術の研究は、地味であまりお金にはならない。名誉が得られるぐらいだ。
「こら、私の話を聞いているの?」
そこにいるはずのオリビエがいない。かがみ込んで、部屋のいたるところを手探りで動いていた。
「あ! ハスラム」
布が積み上げられている場所で探していると不意に背中に重みを感じた。
小声で呟く。
「ハスラム様がどうしたの? 何か思い出したの?」
聞き逃してはいけない名詞にタニアは過剰反応する。
「え、この布の色ハスラムの目と同じだなぁって、ははは」
手近にあった緑の布を抱きしめ見せる。
「……、坊や、あの方は異性愛主義者よ。どんな美女にもなびかない」
「はぁ?」
「あなた、よっぽどハスラム様が好きなのね。離れていてそんなに寂しいの? その布プレゼントしてもいいけど、検証が終るまで待ってね」
好きな者を連想させる品物があると安心するという恋心を知っていた。
「いや、それはないと」
「いい、いい。いけないことだからって、変に我慢しているのね」
タニアはかわいそうとばかりになだめる。
「どちらかといえば、オレ、あいつに怒られてばっかりで、なんていうか嫌われているから、そういった感情ないです」
「あの方が気に入らない者を側に置くと思う? 怒られているって、注意してくださっているのよ。あなたの行動見ていたら危なっかしいから」
「そうでしょうか?」
「ちゃんとあの方と向き合いなさいね。さてと、もう邪魔だから帰って」
オリビエは部屋から追い出されてしまった。
「タニアさん、何を言いたいんだ?」
「さあ?」
部屋の外で待機していて会話を聞いていたフェリオは、なんとも答えられなかった。
タニアの指摘にアドバイスをできるが、どうせ素直に聞かないだろう。
それ以前の問題だった。
オリビエ自身、自分の気持ちに全く気付いていない。
どうにもならないだろう。
「ハスラムさん見つかったんだから、早くアジトへ行こう。オレたちの第一の目的はハスラムさんを元に戻すことなんだから」
目の前の問題を片付けることを提案した。
アジトに着き、探していない部屋を順番に探すことにした。
「痛いぞ」
入口付近でバラクがリュックから飛び出した。
「オレの見える所にいろ! 帰る時は大きな声で呼ぶから戻って来るんだぞ」
その背中にオリビエは声をかけたが、反応はない。
「あいつは、人の気も知らないで」
文句が出てしまう。
捜索に励んだが、ある物は変わりなかった。
「元に戻す手がかりどころか、パトロンのことも別の研究のことも分からないよ」
今度こそハスラムの役に立って、褒めてもらいたいと頑張ったが、バラクに変身させたりで余計に嫌われる原因を作ってしまっている。
「せめて元に戻したい」
苛立ちから目の前の棚を蹴っ飛ばしてしまいそうになる足をバラクが噛んだ。
「ここは、液体が多いね。ありがとう」
小瓶には、色々な種類の液体が入っていた。危険な物もあるはず。
「本当に危険なオジサンだな」
目の前の棚をしみじみ見る。
「オマエは、何かあったか?」
肩の上に来たかと思えば、頭の上に移動していた。
それをタニアが掴んだ時のようにして目の前に持ってきた。
顔からお腹が丸見えだった。
「面白い格好しても綺麗だよな。ボスが見たら、即ペットだな」
笑いながら持ち方を変え抱きしめた。
「オレ頼りないけど、できたらオレの見える所にいてくれよな。さっき置いていったのも悪いけどさ。もうあんな思いしたくないから」
目に熱いものを感じる。
本当に怖かった。
もう二度とハスラムに会えない。嫌みや小言を言うが、あの声が聞けなくなるかと思うと。
「早く元に戻ろうな」
人の形になれば、こんな思いをしなくてもすむ。
オリビエは何が何でも方法を探すと心に決めたのだ。
「ここにいたんだ」
ベリーテが入って来た。
「タニアさんの警護はいいんですか?」
「自分の家で目を吊り上げて検証をやっているから、オレなんていらないよ」
側にいるのが怖かった。
思う通りにいかなくなると八つ当たりをされそうだから逃げて来た。
「怖そうですね」
オリビエも同意した。
「そう、バルレリス侯から連絡は?」
「いいえ」
首を振る。
「急用とか言っているけど、実は別の重要な問題で動いているんだろう?」
「重要なことでですか?」
「ああ、王宮が絡んでいる事」
「そうなんですか? オレ本当に知らないです」
王宮絡みの仕事など知る由もない。
「だから、騎士のベリーテさんが派遣されたのですか?」
それにリードが絡んでいるからか。
反対にオリビエが質問した。
「オレは王命。なんでも凄い秘宝を探しているらしいから」
「秘宝ですか」
セルン王国絡みの秘宝って何だろう? 興味はあるがこの話は早々に終わらせた方がいいだろう。
ベリーテの様子はオリビエが知っているが前提になっていた。
「綺麗でしょうね」
適当に返事をする。
「魔法が絡むらしい」
「魔法ですか? ベリーテさんは、その探索に直に関わっているのですか?」
「いや、知人が困っていてね。何か思い出したら教えてね」
乗ってこないオリビエにベリーテは諦めて部屋から出て行った。
「なんなんだ?」
「さあ?」
部屋に残された二人は、顔を見合わせた。
ともにハスラムが探す魔法絡みの物に心当たりがあるが、今は口にしない。
きっとベリーテが廊下で壁に耳でもつけて聞いているだろうから。
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