第9話 ごまかしは、ごり押しで
「石あった」
「こっちに図案あるぞ」
しばらく探しているとお目当ての物が出てきた。
バラクもこの声を聞いてか姿を現した。
「オマエは何を見つけたんだ?」
オリビエが手を出せば、手の平から腕に。そして、肩の定位置へと上がってくる。
「くすぐったい」
オリビエの頬にバラクは顔を擦り付けてくる。それに応じるようにオリビエもすりすりとやっていた。
「……はぁ」
和気あいあいというか、ほのぼのとした光景にフェリオはため息が出る。
「何もなかったみたいだぞ」
「言葉分かるのか?」
頬に顔を擦り付けながら、キュウキュウと鳴いているのは聞こえていたが。
「何かあったら噛んででもオレを連れて行くだろう」
「まあ、そうだけど」
「ここから出ようか」
お目当ての物は集めた。
「移動する時にタニアさんたちに会ったらマズいからな。これたち、どこに隠すか」
「そうだな。オマエのリュックは無理だな」
もう入らないだろう。それにあの膨らみは怪し過ぎる。
「オレの荷物に紛れ込ませよう」
宿に寄らずにここに来たから、荷物があって当たり前だ。
ここで集めた石などは、それほど大きくもなく数も少ない。どうにかごまかせる。
「次どうする?」
「ハスラムさんのことか? オマエがごまかす、ごり押しって言ってただろう」
「そうだけど自信ない」
いざとなれば不安になるオリビエだ。
「あ!」
フェリオが身構えた。
「まあ! 坊や!」
急に頭上がうっすらと明るくなり出入口の扉からタニアが顔を覗かせる。
「こんな所に部屋があっただなんて」
ずんずんと梯子を下りて来る。
さっき探しに来たがいなかった。ならば別の部屋かと回ってみてもいない。
姿を見せないのは変だ。
きっとすごい発見があって隠れているのではと、本来の仕事よりもハスラム探しに変わっていた。
そうなると昨日ハスラムが最後にいた所。
きっと、あの部屋には何かがあると戻り丁寧に探していれば見つけることができた。
「その子は?」
床に立ち、フェリオの姿を見止めるや一言。
「昨日言ってたオレの相棒」
「フェリオと申します。よろしくお願いします」
挨拶をした。
「へぇ、さわやか系お兄さんか」
「はぁ?」
「かわいい坊やと組んでいるんでしょう?」
「かわいい坊や?」
ちらりとオリビエを見れば、頷けとばかりに自分の顔を上下に振っていた。
「そうです」
仕方なく答える。
「何かあった?」
「見ての通りのお針子部屋です」
オリビエは昨日集めてテーブルに積み上げたタペストリーや布置き場を見回す。
「タニアさん、リードって手芸が好きだったんですか?」
オリビエは、タペストリーを手にタニアに詰め寄る。
「え、そ、そうね」
タニアもこの部屋には戸惑っていた。
「それは知らないけど。こんな所にあるんだから、そうなるかしら」
「ここにある物って、凄くいい物ですよね。こんなに繊細で綺麗で」
オリビエは、続きを言わずにドレスを指さす。
「へぇ、面白い趣味だな」
後から下りて来たベリーテが意外すぎてか笑い出す。
「それよりも、ハスラム様は?」
ここにある品物にリードの秘密があるのではないかと考えが向かうと、それを一番に解くだろう人物を探せば、いない。
目つきが厳しくなる。
手柄を独り占めする気なのという感じに。
「あー、その急用ができてどこかへ行きました」
来たか。いよいよ戦闘開始だとオリビエは構えた。
「急用? 何バカなことを言っているのよ。この仕事が一番の急用よ!」
言いながらオリビエの正面にやって来た。
「何をされているのかなぁ? 何が見つかったのかなぁ?」
優しい言い方だが、視線や声は怖い。
「さあ、オレ何も聞いてません」
怯えず言い切るしかない。
「抜け駆けする気かしら」
両腕を組み考え出した。
「バルレリス侯は、秘密裡に何かをなさるのが得意でしたね」
ベリーテは吐き捨てるように言う。
「ハスラム様は、あなたたちに具体的にどんな指示をされたの?」
置いて行くからには、何か理由があるはず。
「いえ、手がかりを探すようにとだけ」
「ふーん。じゃあ、あなたたちの仕事は、ここにある怪しい品物の探索ということね。ここにある物全て私の家に持って来て!」
「押収物は魔導協会に持って行かないとダメなのでは?」
「ほほほ、量が半端ないんだから。特に怪しいと思った物以外は協会に申告すれば各々でチェックしていいように昨日なったでしょう」
「そうですけど、他の部屋の探索はいいんですか?」
ここにあるのは、手芸用品のみ。特に怪しいと思う物以外いらないのでは。
「私はここの全てが怪しいと思ったの。だからいいの! 運び終わったら別の部屋もやるから」
こう言い放ち、持てる限りのタペストリーを手に梯子を上って行った。
「フェリオだっけ、君のその荷物は?」
残されたベリーテは、気になることを聞いてきた。
「オレ、宿に寄らずにここに来たので」
「旅慣れた傭兵にしては多いのでは?」
「休暇明けだったので。別の、オレの趣味の宝探しの後に直行しました」
いつもより少し多いのは仕方ないと説明した。
「何をしているの!」
「お嬢様がうなっている」
まだ何かを言いたげなベリーテだったが、タニアの声に表情を変えた。八つ当たりされる可能性がある。
「ご機嫌、最悪!」
オリビエがぼそっと言った言葉にベリーテは、嫌みで返す。
「バルレリス侯が、オレたちに何も告げずに姿を消したからだよ」
それでなくてもライバル心もろ出しでやりにくいのに。
「急用らしいから」
「そうとは思えないけど。責任感の強いバルレリス侯らしからぬ行動だよ。功を焦っているとしか思えない」
ずるいねぇとばかりに。
「あいつはそんなことやらないから」
「昨日も思ったんだけど、オリビエは相当バルレリス侯と親しいんだな」
名前で呼んでいるし、バルレリス侯の態度が他の者とは明らかに違う。
他人を寄せ付けないタイプと思いきやオリビエの側には自分からいつもいる。
「そうかなぁ? オレたち幼なじみだから」
「幼なじみ! ほほーう、後で聞きたいことがあるんだ」
目が鋭くなった。
「後でね。タニアさんの言いつけ早くやらないと」
また頭上でヒステリックな声がしていた。
「そうだな」
そそくさと手芸をするための道具が入った籠を持ち、梯子をオリビエは上った。
フェリオもその後に続く。
「これで分かるな」
こんなベリーテの呟きを聞きながら。
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