第7話 意地悪な魔法使いと救世主
「あああ」
ひとしきりバラクを撫ぜていたら少しは落ち着いた。
「そう、そうだよ!」
まず何からやらなければならないか、考えよう。
「えーと、ハスラムを元に戻さないと」
一番難しいがこれしかない。
「石の配列が魔法の発動に絡んでいたし、炎が出てきた」
そうだよねとバラクを見る。
ハスラムであってハスラムでない。答えが聞けるわけはない。
「ハスラム……」
涙が目にたまってき、バラクに抱き付くように両手で掴む。
するとバラクと目が合った。
「ごめん。まったく思いつかない。でも、オレ、どうにかするから」
自分よりもハスラムの方が泣きたい気分だろう。
頭を撫ぜつつ、次にやらなければいけないことを考える。
「あの二人にハスラムがいない理由をどう説明するかだよな」
即座に納得させるような理由はないか。
これもまた思いつかない。
「本当にごめんね。今回は役に立とうと思ってたんだ。これ以上厄介な奴って思われるの嫌だったから」
不注意? 事故? 分からない。
触わりもしない、唱えもしないのに呪文が発動するとは、よほど強力な呪文が仕掛けられていたのだろう。
いつの間には肩に乗っていたバラクに謝る。
「くすぐったい」
頬に身体をすりつけてくる。
まるで、「いいよ気にするな」と言っているように。
「フェリオが明日来るから、うん、そうだ! フェリオなら何かいいこと思いつくかもしれない!」
ほぼ希望だった。
「だから今日はもう寝よう」
パニックになり思考はガタガタ。こんな時は考えてもいい案は出てこない。
夜もかなり更けていた。
ハスラムの部屋で寝るわけにはいかないので、バラクを連れて自分の部屋に戻るのだった。
夜明け前に宿を出た。
やはり眠れなかった。
あの二人に会う前にフェリオと合流し、対策を考えたかった。
少し冷静になれば、この事態は仕事をミスったということ。
仕事のミスはアレなのだ。
フェリオとは、リードのアジト前で待ち合わせをしていた。
約束の時間までかなりあった。
待っている間、悪い事ばかり頭に浮かぶ。
「フェリオに怒られるよな」
仕事のミスより、ハスラムをこんな姿に変えたことに。
「ハスラム、どうしよう?」
聞いてもかわいい声で鳴くだけ。
小うるさかったハスラムの声が懐かしい。
ため息をつき、門の斜め前にある屋敷と屋敷の間に身を潜めた。
門に人が来たら姿を完全に隠すことができるからだ。
どれぐらいたったのだろうか、こちらに向かって歩いて来る黒髪の青年らしき姿が見えた。
「フェリオだ!」
オリビエは壁の間から飛び出した。
驚きからフェリオの黒い瞳は、大きく開く。
「オマエ、こんな所で何をしているんだ?」
ターゲットの屋敷の斜め前の屋敷と屋敷の間からの登場にフェリオは嫌な予感しかしない。
「どうしたらいい?」
オリビエの第一声に頬がひきつる。
「何をやらかした?」
問うことしかできない。
「っていうか、ハスラムさんは?」
警護として付いてなくてはならないのに一人で動いている。
ますます悪い考えは加速する。
「オレが、バカだった」
涙目でフェリオの利き手を掴む。
逃がしはしないぞとばかりに。
「分かったから、ちゃんと説明してくれ」
相当なことをやらかしたんだと、ため息しか出ないフェリオだった。
「うん、あの、このこがハスラムなんだ」
まずは、衝撃の真実から。
「はぁ?」
肩に乗っているバラクを手の平に乗せ突き出した。
「いや、それを拾って飼うって言って、ハスラムさんに叱られたのか?」
旅先でペットを拾い注意されたのだろう。
オリビエからすれば大ピンチな事件だ。
「違うって、これハスラムなんだ!」
信じてはくれない。
普通ならばそうだが、どうしても分かってもらわなくてはとバラクをフェリオの顔正面に突き付けた。
「おい」
「見ろよ、この毛皮の色に瞳」
「確かにハスラムさん色だけど」
にわかには信じられない。
嫌だの口うるさいなどと言いつつもオリビエはハスラムを慕っている。素直になれない深層心理からかハスラムに似たバラクを側に置きたいのか。
「オレにまでごまかしはダメだぞ。飼いたいんだったら、オレからも頼んでやるから、さっさと仲直りしろ」
「だから、こいつがハスラムなんだ」
「あのなぁ……」
まだ言うかとオリビエを見、バラクを見れば頷いているように体を振っていた。
「ハスラムを早く元に戻して、依頼を片付けないとアレになってしまう」
目には涙がうっすらと浮かんでいた。
「……、話してくれ」
アレ。
ギルド唯一の罰でボスのとんでもない趣味がふんだんに活かされたもの。
受ける者はそうだが、見学をしている者までもが相当なダメージを負うアレという名の恐怖の罰。
その単語を震えながら口にした。
どうやら嘘をついているのではない。
そうなるととんでもないことが起こったのだろう。魔術がらみで。
魔術を使えないフェリオからはとうてい考えられないことが。
この二人は、魔術が使える力を有する魔法使いだ。達人クラスの。
一人は、力はあれど修行をしていないからほぼ初心者だが。
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