第5話 タニアとベリーテ 2



 陰険な会話に険悪な雰囲気の中食事は終わった。

 ハスラムの部屋に入るなりオリビエは、唸る。

「魔導協会、人選間違えているな。もう少し意思疎通できる人いなかったの?」

 ライバル視丸出しに妹をフッたと恨みばっかりで、二人とも協力しようという様子がなかった。

 ハスラムを蹴落とすことが優先になっている。

「本や巻物があった部屋だって、タニアさんが先に来て家探ししていたんだろう。だったら、一言言えよ。無駄になるんだから」

 タニアの見落としで怪しい部屋を見つけることができたが。

「それに素直に認めないのも嫌になる」

 聞けば、「あら言ってなかったかしら」とか「パトロンとの連絡方法には手紙だものね。文字を書ける物がたくさんある場所なんて一番に調べるものよ」などと高笑いつきで答えられた。

「けど、タニアさんが見つけたのは、呪文書に他国語の辞典や植物図鑑ぐらいだったんだろう」

「あっても隠しているかもしれない」

「パトロンの手がかり?」

「ああ、今回の一番の目的だからな」

「ハスラムは、パトロンよりもっと気になることがあるんだろう?」

 パトロンを捕まえることによりリードが本当にやりたかったことを解明する方に力が入っているように思う。

 答えろとじっと見るが、顔を背けられる。

 ならば思いっきり顔を近づけるとおでこを親指と人指で軽くはじかれた。

「オレよりもオーリーの方が誤解をといた方がいいと思うぞ」

「坊や扱いか?」

 ハスラムは頷く。

「面倒だから。それに女ってバレないほうがいいようなカンがする」

「またおかしなことを」

 こう言いつつもハスラムはどこか納得していた。

 オリビエの危機の度合いの大小はあるが、それを察するカンは鋭い。

「だからか、タニアたちに挨拶するのも男型でやったのは」

 女性がする挨拶ではなかった。

 が、その挨拶がさっそうとしているとタニアが気に入った。

「いいじゃない。オレの性別どっちだって。仕事さえやれば」

 ドレス着て何かをするのではない。証拠品を探すだけなのだ。

「そうだが。オレと言うのもいい加減にやめろよ。今回は見逃してやるけど」

 傭兵をやり始めてから言葉遣いが雑になる一方だった。

「うるさいなぁ。これが気に入っているの! 細かいこと言う男はモテない、いやモテて困っているみたいだけど」

「迷惑なだけだ。どうせ誰もがこの顔と身分に惚れているだけだから」

 内面を見て欲しい。

 絶世の美女ばりの自分の顔は嫌いだった。どちらかといえば男らしい容姿で生まれたかった。

 いくら身体を鍛えても中性的に見られてしまう。

「本当に好きな相手以外にはどう思われようとかまわない」

 少々スネているハスラムだった。

「そういうことを言っちゃあいけないんだぞ。本当に好意を持っている人まで誤解されるぞ」

 再開してから人との付き合い方にどこか冷たい対応をすることが気になっていたが、これが原因だったのかとオリビエは分かった。

 周りがこんなのだと、歪んでいた性格がますますとなっても仕方ない。

「かもな」

 どこかさみし気な笑い顔を向けられた。

 いつも自信満々で威張り屋なハスラムらしからぬ。

「オレは、オマエがどう思ってようが、好きだからな。オレは味方だからな。どんなに立場が変わってもオレとハスラムの間は変わらないからな」

 力説してしまう。

「ああ」

 にっこり微笑む。

「オマエが味方だと安心だよ」

 するとオリビエも笑いかけてくる。

 かわいい。

 思うと同時に視線が逸れてしまう。

 どういう種類の好きだと聞きたいがそれができない。

 そんなことをして、二人の関係が壊れるかもしれない、怖い。

 臆病な自分にハスラムはため息が出てしまう。

 後悔するのだった。

 子供の頃、単純オリビエが好きなのについついいじめてしまった自分に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る