第2話 意外な! 1





 お詫びの仕事の内容は、ただ働きの原因となったセルン王国にあるリードの隠れ家の捜索だった。

 セルン王国は、レーナー大陸北側上部中央にある魔法王国。

 王国の首都の東、ヤードの街に魔導協会という、魔術を扱う者が集う場所がある。

 魔術呪文の研究、魔術に関わる技術やアイテムの開発に素質のある者を育てる場だ。

 リードは、魔導協会では力ある者として大切に扱われていた。

 そんな職場のすぐ近くで悪事が行われていた。

「この部屋も、ごちゃごちゃとあるなぁ」

 玄関を入ると広い土間があり、その奥に五部屋ある平屋だった。どの部屋も広い。

 全ての部屋に所狭しと棚を並べ、棚のどの段にも溢れるほど何かが置かれていた。床も足の踏み場がない場所もあった。

「ここって倉庫かな? まあ、罠やら守護する合成魔物が出てこないだけましか」

 材料に形こそあるが、何に使うの? といった、オリビエからすれば得体の知れない物ばかりだった。

「むやみに触るなよ。重い物や危険そうな物は、明日フェリオが来れば運び出せるから」

 近くで物色していたハスラムは、もう何度目かの注意を飛ばす。

 好奇心の塊、興味ある物は手で触れじっくりと見なければならない性格。

 前の討伐もそのせいでとんでもない目に遭ったが、リードの研究の目的がなんとなくだが、判明した。

「さすがのオレでも前のことがあるからな」

 そう、棚にあった好物を条件反射のように口に入れてしまい、子供になってしまった。

 元に戻してもらうのにかなりの苦労をハスラムにかけた。

反省はしている。

「拾い食い禁止」

「おう」

「光物は見ているだけ」

「うん」

「怪しいと思ったら、すぐにオレを呼ぶ」

「ふぁーい」

「はいだろう」

「ハスラム、うるさい!」

 本当に分かっている! と言い返したいが、信頼を失うことばかりやっているので黙った。

「ここは、危険な場所ってことだ」

「あのオジサン、まだヤバい発明品隠しているの?」

「研究用の隠れ家は捜索が入っているから、さすがにもうないと思う。ここには、パトロンの手がかりを探しに来ている」

「パトロンか。武器商人の?」

 前の場所で戦ったというか、壊した物はほとんど戦いに使える物ばかりだった。

「いや、断定はできてない。武器の制作もだが、それを動かす魔道具に関してもリードは凄腕だから、そのあたりを活かした発明を頼んでいる者かもしれない」

 魔法陣を付けた物が動いたり変化したりする。利用目的次第では平和的にも非平和的にも使える。

 だが、封印されていた究極の魔術書を盗み出したり、捕まえに行けばあの戦い方。

 非平和的利用だろう・

「それにもう一つ気になることがあって、それも探している」

「何?」

「秘密」

 ハスラムは、立てた人差し指を自分の口に置いた。

「ふーん」

 大人のハスラムのこの仕草は、初めて見た。

子供の頃これをやる時は、オレ一人でやるという時だった。

 なので曖昧に返事をした。

「腕がいいんだあのオジサン。じゃあなんであんなバカなことしたの?」

 お尋ね者になったら研究どころではない。

「盗んだ魔術書の解読をして記させている物でも作りたかったんじゃあないか?」

「究極の魔術書とか呼ばれている物って、大抵古代帝国絡みだろう。かなり物騒なんじゃあない?」

 三百年ぐらい前に魔力で大陸を恐怖支配した紫の一族の遺物。

 その時代は、今の常識では考えられないほど魔術が発達していて、不可思議な物や現象が当たり前だった。

「さあな。何が書かれているかは、オレにも分からないよ。って、こら! 乱暴に扱うな!」

 正面の棚にある瓶を手に取り見ては、適当に置いているオリビエに注意する。

 落ちて割れたら何が起こるか分からない。危険物が入っているかもしれない。

「オマエは、あの一角を調べろ」

 部屋の端の棚を指さす。書物ばかりが並んでいた。

「はーい!」

 いい加減飽きていたので、オリビエは素直に従った。



「ハスラム、ここって誰かが探したような跡があるぞ」

 埃がすごくある所と無い所の差が激しかった。

「変だなぁ」

 リードが逃走するとすぐにここは出入り禁止にした。

「気にせずに続けろ」

「分かった」

 思い当たることがあるのか、確認にも来なかった。

「あれ、これって?」

 壁際に無動作に積み上げられていた巻物の山を半分ほど物色が終り、次の巻物を取る時に指先が壁の突起に当たった。

「ハスラム、触ってもいい?」

 いつもなら自然な動作で触ってしまうが、前のことがある。

それにさっきの注意もあり慎重になっていた。

「よくそんなものを見つけたな」

 オリビエが指さす先の壁は、周りより少し汚れているぐらいだった。

 触って初めて分かるように仕かけられていた。

 突起物をハスラムが押すと、お約束通りの現象が起こる。

 真下の床に人が一人通れる幅の穴が現れ、上にあった巻物が落下していく。

「わっ! 秘密の通路!」

 嬉しそうな声を上げるオリビエの頭を軽く叩く。

「いいな。こういった場所は、危険なんだからな」

 つい睨んでしまう。

「分かっているよ。注意するから。けどさ、あのオジサンがここまでして隠している物ってなんだろう?」

 言っていることと態度は違っていた。

 わくわく感満載だった。

 日頃が日頃だけに頭が痛くなるハスラムだった。

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