Episode Ⅱ (1-2)

 ダイニングに来たアテナ。

 キッチンにはエリスが彼女の為に朝食を用意する。

 ダイニングテーブルにコーヒーカップが置かれている。

 椅子に座る男性は、じっくりと朝刊を読んでいる。

 アテナは男性に対する。

「おはようございます。お父様とうさま

 笑みを浮かべたアテナ。

 ゆっくりと頭を下げ、礼をする。

「あ~。おはよう、アテナ」

 低い声で挨拶した。

 新聞に隠れていた娘の声で存在に気づいた。

 父・ボリク・ヴァルツコップは目線を新聞に戻した。

 アテナはダイニングテーブルの前に立つ。

 椅子を引いて座る。

「はい。どうぞ」

「ありがとうございます」

「アテナ。いつも言っているけど、他人じゃないんだから敬語を使わないでって言っているでしょ」

「あ〜あっ。もっ、ごごめんなさい」


 エリスの一言で気づいたアテナ。

 自然と口にしてしまう敬語は意識的にならないと治らない。

 彼女の自然病は人語を話すようになってから変わらない。

 言葉遣いの注意があった為、一瞬朝食の事が頭から抜けてしまった。

 壁掛けの時計を見た。

 時間にはまだ余裕がある。

 アテナは何があってもいいように早めに登校したかった。

 手を合わせる。

「いただきます」

「はい。どうぞ」

 エリスの返事でアテナは朝食を食べ始めた。

 時間の余裕とは裏腹に、アテナの心は余裕を埋める空白は僅か。

 彼女の急ぐ手を見たボリク。

「アテナ。よく噛んで食べるんだぞ」

「はい」

 父の言葉も虚しく、箸をすすめる。

 エリスが緊張でお腹が鳴らないようにといつもは食べない白米。

 かき込む寸前のスピードで食べる彼女を見て、普段しない事をするのではなかったかもしれないと思った。

 新品の制服を汚す事なく食べ終えた。

 再び手を合わせる。

「ご馳走様でした」

 時間が進みつれて彼女の行動速度が速くなる。

 エリスが気づいた時には、歯磨きを終え玄関で靴を履いている。

「アテナ。時間あるからゆっくり行ってね」

「はい。分かりました」

「そこは、『分かった』でいいの」

 娘の口調が臨機応変に変更できるように注意する。

「はい、分かった。それでは行って参ります」

「そこは『行ってきます』いってらっしゃい。気をつけてね」

 時間の余裕がありながら、心の余裕が無い娘をエリスは玄関から姿がなくなるまで見送った。

 パタパタと早歩きで登校する。

 春の柔らかい陽が咲く世界を彩る。

 通学路は多種多少な人々が歩いている。

 散歩をする老人、飼い犬と飼い主。

 出勤するビジネスマン。

 歩いている人達に唯一の児童、生徒、学生。

 学校へ向かうような人達は一人もいない。

 アテナが住む地域には、入学する学校以外に一、二校の中学がある。

 入学式、新学期はほぼ同日。

 だが、アテナの視界には前後左右。

 登校する人達の姿は誰もいない。

 唯一見える範囲で登校する人はアテナだけになる。

 見えている世界に少しの違和感がある。

 だが、アテナの足は止まらない。

 入学式に浮かれている気になっている。

 自分から初めて選んだ学校に通う事がとても楽しみなのも速く登校する要因になっている。

 しかし、以前よりも通学路、時間、後々に襲ってくるであろう人為的な圧迫が感じられない。

 これまでとは何もかもが違う事が、アテナを一種の冒険へと出かけている気持ちにさせる。

 アテナがこれから通う中学は、飛び級制度を取り入れている。

 小学校に入学する時、進学と進級の制度が改定された。

 新制度が始まってから五年後、アテナは四月から飛び級して中学生として新しい生活が始まる。

 住宅街を抜けた先に見えてきたのは、学校へ続く商店街。

 学校付近の住民や学校を超えた先にあるビル群の利用者達が多く来る。

 道中、コンビニや居酒屋、ファミレス、カフェ、ファーストフード店。

 同じようなジャンルの飲食店や古くから営む商店が立ち並ぶ。

 朝に入る人達は少なく、コンビニの品数は手薄になっている。

 コンビニから出てきたサラリーマンは、水とエナジードリンクを片手にする。

 足早に学校方面へ行く。

 誘惑が無い朝の商店街が終わる。

 車が左右から横切る道路を真っ直ぐ続く横断歩道。

 横断歩道信号機が青に変わった。

 流れてきたのは、日本の童歌。

 アテナは聞きなれないメロディーが新生活を祝うように感じた。

 感情的なドライバーや焦って出勤するサラリーマンがいない道。

 登校に曇りが無かった。

 横断歩道を超えた目の前には、附属高校の建物が見えていた。

 周りの木々が多い茂る側面は、学校都市の安心感を与える。

 左へ曲がった先には、アテナと同じセーラー服を着た女子生徒と男子生徒数人が歩く。

 周りに見えなかった同学校の生徒をこの場で見つけられた事に焦っていた心が救われる。

 チェーンで規制された幅の広い道路を横断する。

 初めての登校で心も足も速く着いてしまった。

 右に曲がり、ようやく校門が現れた。

 国立・陰光いんこう大学教育学部付属陰光いんこう中学校の学校銘板がっこうめいばんに挟まれた校門を踏み越えた。

 一度足を止め、中学の校舎を見る。

「はぁ〜」

 荷が重かった学校も、出会ってからここまで自分の足で来れた。

 アテナにとって、大きな選択は希望を持って生きていく事の一歩だった。

 ドキドキと気持ちを高ぶらせ、足を踏み出した。

 受付はクラス毎に行う。そのまま下駄箱に靴を置く。

 持ってきた指定の上履きに履き替えた。

 廊下で立ち止まり左右を伺う。

 何人かの生徒と教員が左右の廊下を横断する。

 所属する一年い組の教室へ向かう。

 左に曲がり真っ直ぐ歩いく。

 目に入った階段の下へ行き階段を上る。

 一年生の教室は三階にある。

 足を上げていく度、家を後にしてから抱えていた緊張がさらに大きくなっていく。

 心体は今までにない感覚に襲われている。

 全ての階段を登り終え一年の名前が入る。

 廊下に出て、辺りを見渡す。

 所属する教室が見えた。

 扉を目の前にした。

 内側は最高に緊張する。

 教室の扉を手に取る。

「ふぅ〜」

 深く息を吐く。

「シャ―」

 手を思いっきり引く。

 開けた扉からは大きな衝突音が放たれた。

 何も考えず教室に入る。

 大きく息を吸い込む。

「皆さん! はじめまして! わたくしはアテナ・ヴァルツコップで―すっ?」

 アテナはこれまで無いような大きい声を出した。

 最後、疑問形で挨拶した。

 終わった目の前に教室には誰ひとり。

 生徒も、先生も、誰一人いなかった。

 教室や廊下にも生徒、教員一人もいない。

 露天してもいい感情は密かに秘めていた。

 心の中で赤面をしていた。

「ふぅ〜はぁ〜」

 出入り口で一度深呼吸した。

 家を出てから急いでいた気持ちがやっと落ち着いた。

 彼女自身も、今思えば以上に緊張していたと思った。

 朝のシンとした空気にアテナが来る前に誰かがいた痕跡がある。

 前方に大きなペーパーが貼られている黒板に近づく。

 書かれていたのは、座席と名前。

 苗字が先な人が以前よりも少なくなった日本。

 ファーストネーム優先も文化の尊重として取り入れられている。

 未だ学校などの名簿は苗字の五十音順を取り入れている。

 アテナは左の席に座る。

 雲に翳った陽は暖かい空気と一緒に眠気を誘う。

「ふぁ〜。なんか、眠くなってきちゃった……」

 腕を枕にして寝る体勢になる。

「ふ〜ん」

 寝言混じりで口にする。

 聞こえてくるのは、着いたばかりの頃とは違う。

 ザワザワとした足音や人の話し声。

 寝ぼけ眼で起きる。

 誰もいなかった教室が、一面新一年生いっぱいになった。

 壁掛けの時計を見る。

 予定の入学式まで二十分。

 一度立ち上がり体を伸ばす。

 知り合い同士で固まって話す生徒がほとんどだ。

 数人が一人読書や事前に受け取ったパンフレットを読むなど静かに過ごす生徒もいる。

 アテナは再び椅子に座る。

 窓が近い席にいる事もあり、人間関係を構築していない今。

 唯一、見慣れない高い場所からの景色をゆっくりと見ている。

 一人、女性が前方扉から入ってきた。

 入室してきた生徒とは違う人物に周りからの視線を一点に受ける。

 彼女は教壇に立つ。

「皆さん、こんにちは」

「\\\こんにちは! ///」

アテナも周りの生徒につられ小さく挨拶した。

「皆さん、ご入学おめでとうございます」

 教員は粛々と入学の祝辞を述べ深々と頭を下げる。

 生徒達も答えるように頭を下げた。

わたくしはこのクラスの担任となります。ラレス・サーシャです。宜しくお願いします」

 淡々と自己紹介する。

 彼女の話を真剣に聞く生徒達。

 彼らの姿勢にアテナは心が詰まる思いになる。

「皆さんご存知の通り、当校は飛び級制度で入学してくる生徒が多い学校です」

 アテナがこれまで通った学校でも飛び級で進学、進級をしてくる生徒はごく一部。

 目の前では一度も見た事がなかった。

「同じ一学年。い組の仲間として学校生活を協力し合い有意義なものにして下さい」

 担任の話は続く。

「い組は一学年の中でも特に優秀な生徒達が集まったクラスです。他クラスだけでなく、一人ひとり劣らぬ人になっていってください」

「\\\はい! ///」

 生徒達は返事した。

「では、時間になりましたら皆さん入学式に参りましょう」

 サーシャは一度教室を後にした。

 緊張の抜けたのは、アテナだけではない。

 保護者のいない入学式のある校舎は未だ違和感が抜けない。

 再びアテナは周りを見渡す。

 陰光は一クラスの生徒数が以前いた学校と比べて十人程少ないと感じた。

 少人数の教室で上手く生活が進むのであればそれは良いものだとアテナは思う。

「は〜い。みなさぁ~ん。整列してくださいねぇ~」

 廊下から喋りがのろのろした教員が言う。

 動きがゆっくりながらも、生徒達は教室から出てくる。

 途中で戻ってきたサーシャも生徒達を廊下で整列させる。

 担任の指示により、奥にいた新入生も列に加わる。

 手ぶらの状態で列は歩き始めた。

 時々止まる列も五分以内には、体育館に入場する事ができた。

 一年い組が体育館に入った時には、二年生三年生が左右に待ち構えていた。

 学年別で最も前方にいるのは、い組になる。

 一年生もアテナのクラスはステージが見やすい前方に整列する。

 い組の後方は、ろ組、は組、に組、ほ組、へ組、と組が続々と入ってくる。

 これから基準線となる一年い組は必然と最短で来なければならない。

 最後のクラスが体育館に整列した事で、全てのクラスが集まった。

 附属中学は保護者の入学式、卒業式などの行事に出席できない。

 在校生が出席する。

 アテナは後ろを少し振り向く。

 体育館の先まで同じ色の制服を着る生徒達が後方まで続いている。

 アテナは目線を前に戻す。

 式典の開始が近づく緊張感。

 気を紛らわそうと目線を上に逸らす。

 左右の窓は明かりがついている。

 左窓からは数人の生徒がいるのが見える。

「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます」

 女子生徒の声が広がる。 

 体育館のアナウンス室にいるのは、放送委員だった。

 館内放送は続く。

 式典の司会・進行は教員ではなく、生徒が務める。

 アテナは意外性を感じた。

 入学式開始の挨拶を放送委員会委員長が登壇した。

 この学校の式典は何から何まで生徒が自主的に行う。

 内部事情を知らないアテナは違和感しかなかった。

 手慣れた進行で式典の項目をこなしていく。 

「次に陰光いんこう大学教育学部附属陰光いんこう中学校・校長の挨拶です」

 一気に突き刺す冷たい空気になる。

 アテナはただ座っているだけの状態。

 しかし、五つほど消化した入学式の式典内容も空気だけで凍らせれる原因が分からない。

 周りを見渡す。

 クラスメイトや新入生は上の空。

 教員と後ろにいる二、三年生達違う。

 歯を食いしばった人。両手を拳で強く握る人。両膝を力強く握る人。

 構える姿は人それぞれだが、ここまで会場内がピリピリする事は初めての経験だった。

 異様な空気に陥った会場。

 そのまま式は進む。

 アテナはこれから挨拶をする校長を待つ。

 しかし、いつまで経っても登壇する事は無い。

陰光いんこう大学教育学部附属陰光いんこう中学校に入学してきた新一年生。入学おめでとう」

 姿の無いステージ。

 会場中は男性の低い声が広がる。

 新入生はこれが陰光いんこう大学教育学部附属陰光いんこう中学校長の肉声だと知る。

「そして、進級した二年生・三年生諸君。進級おめでとう」

 重い声は上級生だけでなく、教員達の呼吸道こきゅうどうさえもきつく締め付ける。

 校長は二、三行の内容を述べる。

「私からは以上だ」

 姿の無い校長が挨拶を終えた。

「ジョージ校長、ありがとうございました」

 入学式の挨拶とは思えない短い話だった。

 アテナにとってはこれまで耳にした事の無い上から目線の祝辞。

 挨拶を受け取り、一瞬自分の進路に不安を感じる。

 賛否のある好調の言葉に文句も一切受け入れない。

 周りのものを口止めさせたような迫力があった。

「大丈夫! 今すぐ担架たんかを」

 姿の無い圧力に貧血で倒れた生徒が数人。

「大丈夫? ちょっと、休んだ方が」

 一年い組の生徒も体調不良の訴えが出る。

 何人か保健室に運ばれた。

 その後も式典は続いたが、何が起こってもおかしく無いと担任や教員達が心配する。

 無事、校歌を歌い終えた。

「以上、陰光いんこう大学教育学部附属陰光いんこう中学・入学式を終わります」

 新入生は教室へ戻った。

 教室に戻ってきた途端。

 生徒達は倒れるように椅子へ座る人が目立つ。

 それくらい多くの生徒は疲れていた。

 サーシャも式典前と比べピリッとした顔をしている。

 教壇に立つサーシャは両手を机に置く。

「校長に負けないくらい迫力を皆さんは持ってください」

 アテナは見た目からの圧で物事を進める事に異様さを感じる。

 陰光いんこう大学教育学部附属陰光いんこう中学は、世間から明かされていない事がある。

 式典がメインの為、鳴ったチャイムが何を示しているのか分からない。

 しかし、各教室に配布されたタイムテーブルに従って行動している。

 サーシャの指示により、十五分の休憩に入る。

「ねぇ。歳いくつ?」

 アテナの右隣の女子生徒が話しかけてきた。

 活発な雰囲気の彼女は髪が肩よりも上の長さのボブ。

 和風に言えば、おかっぱの濃い藍色をしている。

「じゅっ……。十一歳……です」

 人見知りの為か上手く話せない。

 しかし、相手の顔を見ると積極的に話しかけてきている。


「凄いね、君。この学校って飛び級生」

「あっ。はあ~」

 アテナはぽかんとした。

 次に出てくる言葉は分からない。

「私、ミツキ・ペーター。ミツキって呼んで」

「あっ。はい……」

 続く言葉が出てこない。

「あっ。わっわたくしはアテナ・ヴァルツコップ……で……ございます。以後、おっ、お見知りよきを」

かたくるしいの苦手。タメ口でもいいよ」

 ミツキは活発かっぱつ大雑把おおざっぱな性格に感じる。

「あっ。じゃあ、お言葉に甘えて……。これからよろしく、ミツキちゃん」

「違うよ、違う! 「ちゃん」じゃなくて「君」がいいの!」

 突然の「君」呼び宣言。

 宣言を言ったにもかかわらず、周りの同級生は「さん」や「ちゃん」呼びをしている。

 「君」と言っている人は誰もいなかった。

「ふふ」

 矛盾に笑うしかなかった。

「もーなんだよ〜!」

「なんでもありません」

 アテナに笑いをとろうというつもりはミツキには無い。

 しかし、緊張していたのが解けた。

 ミツキの気軽な性格に救われる。

「ねえ、ミツキちゃん。友達になってくれない?」

「アテナと私はもう、友達でしょ」

 入学して早々、新たな友ができた。

 再びチャイムが鳴る。

 教科書、資料集を取りに生徒達は教室を回る。

 一年で使う教材の多さに生徒達は苦労する。

 両手を塞がれながら教室に帰ってきた。

 速やかに、リュックへ教材を詰め込む。

 正午過ぎに新入生は下校する。

「帰りにどこかのお店へ買い食いしていましたら、それ相応の罰を与えますので覚悟していて下さい」

「ここって、規則厳しいよねぇ。自由とはいいながら」

 ミツキは隣人に小さな声で言った。

「あはは」

 アテナは苦笑いをした。

「ミツキさん。何しているんですか?」

「あっ。いいえ先生。話はしていません」

 サーシャのセンサーは鋭い。

「あらそう」

 サーシャはそれ以上の追求はしなかった。

「皆さん。いいですね」

「\\\はい! ///」

(何か聞こえない言葉で注意されたような)

 ミツキは彼女の表情からも何も心中を察する事ができなかった。

 帰る直前。日直が決まり、名簿番号の先頭が取り仕切る。

「皆さん、寄り道せずにお家に帰るようにしましょう。皆さんさようなら」

「\\\さようなら! ///」

 い組生徒は一度にいなくなる。

 アテナも皆に続いて教室を後にする。

 解散直後の玄関が混み合う。

 帰り道は登校と同じ道を通る。

「おーい。アテナ!」

 大声で走りながら名前を呼ばれる。

 立ち止まり、後ろを振り向る。


「はぁはぁはぁ。アテナって歩くのはっ早いね。はっはっは……」

 後ろから追いかけてきたのは、ミツキだった。

 アテナの感覚では学校を出てそこまで距離が離れていない気がした。

 ミツキにとっては距離が離れていた。

「どうしたの?」

 アテナは何の事だと思う。

「もしかしたら、帰り道が一緒かもって思ったからさ」

 その為に学校から走って来た。

「ミツキちゃんもここ通るの?」

「そうだよ」

「へー」

 アテナには以上の言葉が無い。

「もうちょっとゆっくり歩いて欲しかったな」

「ごっごめんなさい」

 アテナは真面目な性格プラスに受けてしまう。

 申し訳なさそうに謝る。

「いや、謝るような事じゃないからいいんだけど。自分の足が早いって分からないよね」

「そうだね」

 言われるまでは自覚が無かった。

 アテナは言った。

 二人は歩みを進める。

「もしかして、何か考え事でもしてたの?」

「うん。色々と考える事が好きで」

 アテナはうつむく。

「私って、人生楽しそうに見えないよね」

「えっ? そんな事その人にしか分からないじゃん」

 ミツキの一言はこれまで人生で言われた事がない。

「私の事、いんキャだと思わない?」

いんキャかどうか分からない」

 ミツキは続ける。

「誰かが作った言葉より自分のしっくりくる言葉にハマった方が良くない?」

 今まで無かった考えに衝撃を受ける。

「そう……、だよね」

 アテナは心の縺れが一つけた。

「ありがとう。ミツキちゃん」

 二人は教室の誓い通りに帰宅した。

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