Episode Ⅲ (1-3)

 お昼直前。

 最後の授業が始まるチャイムが鳴った。

 い組の担任ラレス・サーシャは言った。

「い組の皆さん、学校生活で欠かせないものがあります。それは何だと思いますか? わかる人から挙手きょしゅしてください」

 サーシャが解答を募っている。

 前隣りの席に座っている女子生徒。

 腰まであり艶のある黒髪を持つエレン・ジョンソンが手を挙げた。

「では、エレンどうぞ」

「はい。私は、委員会だと思います」

「そうですね」

 エレンが言った通り委員会も大事。

 しかし、もう一つ意見が欲しいとサーシャは考えていた。

「誰か、他に答えてくれる人はいませんか?」

「はい! は~い!」

 ミツキが元気よく挙手した。

「では、ミツキさんどうぞ」

「ぶ・か・つ。答えは部活ですね!」

 教室からはみ出るほどの声で言った。

「声は無駄に大きいのですが……」

 サーシャは無駄に大きいと突っ込んだ。

「まぁいいでしょう。ミツキさんが言ったとおり、部活です」

 担任の余計な言葉が含まれた発言にクレームを付けたかった。

 しかし、ミツキは答えに満足していた。

 サーシャは続けて言った。

 部活は、学年を超え一丸となって、目標達成を目指す目的がある。

 それは運動部、文化部。

 双方、変わらないものだった。

 陰光大学は小学校から大学まである一貫の学校。

 中学高校は特に密な関わりを持っている。

 その為、一人ひとりの特徴を理解する。

 非一貫校よりも計画的に大会で優勝や目標を達成が可能となっている。

 また、陰光生同士。仲の良さは他校と比べ物にならないほど良い空気を作り出している。

 それは陰光の特色だと言える。

「既存の部活は多くあります。ですが、部活を一から作ろうという人はほとんどいません」

 サーシャは部活の創設を話した。

 生徒達にまた新しい部活を作って欲しいのだと生徒達は思う。

 部活の入部や創設については専用の書類に書いて提出する事になっている。

 生徒達は現在記入できる範囲の事をする。

 サーシャは、教卓きょうたくの上に置かれていった部活調査用紙を取る。

 一列につき五人いる生徒に用紙を渡す。

 前から後ろへ用紙を渡す。

 ミツキとアテナにも部活調査用紙が届いた。

 アテナは部活の認識はあるが、経験が無い。

 別紙の紹介本を見る。

 細かく部活動の内容までは分からなかった。

 同時にこれがしたいという強い気持ちはない。

「ねぇ。アテナ! わたしと部活やらない?」

 ミツキから問いかけられた。

「ごめん……。ミツキちゃん」

 申し訳なさそうに小さな声で言った。

「私……どうしても、分からないんだ」

 部活の事で思い煩っていた。

 アテナは言った。

「もう少し考えさせて……」


「うん。けど、わからない事があったらいつでも言ってね」

「ありがとう。ミツキちゃん……」

 サーシャは生徒達に言った。

「部活調査用紙の提出に締め切りはないので、よく部活を見てから提出してください」

 担任は昼食について説明する。

 各自お弁当を持ってきている人は教室とテラスで飲食が可能。

 学食を利用する生徒達は階段を下りて、南西なんせいにある食堂に行って食べる事ができる。

「起立!」

 日直の一人が号令をかけた。

「礼! ありがとうございました」

「\\\ありがとうございました‼ ///」

 生徒達と担任は礼をした。

 下げた頭を上げた。

「キーン、コーン、カーン、コーン」

 同時に校舎中にはチャイムが鳴る。

 三時間目の授業終わった。

 休み時間に突入した。

 生徒達は一時、教室としてのまとまりを解散した。

 陰光大学は中学から大学まで生徒向けに必ず一つ、学生食堂が設置されている。

 他大学でも、食堂が置かれている。

 高校も稀に食堂が併設されている。

 だが、陰光大学には中学から存在している。

 理由は、遠方から登校してくる生徒の支援。

 朝が苦手でお弁当を作れない。

 また、作るのがめんどくさいという理由で作られた。

「ねぇ。アテナ」

 ミツキが声をかけて来た。

「お弁当持ってきた?」

「うん。持ってきた」

「私も持ってきた。一緒に食べよう!」

 ミツキはアテナと一緒に昼食を食べたいと声をかけて来た。

 二人は一緒に机をくっ付けた。

 椅子に座り、手を合わせた。

「頂きます」

 お弁当の蓋を同時に開けた。

「ミツキちゃんのおいしそうだね」

「えへ~。そう〜。えへへ」

 ミツキは照れながら嬉しそうに言った。

「でも、アテナのもおいしそうだよ」

 獲物を狙う目をしながら言った。

 ミツキのお弁当には、ミニトマト三個。

 紙カップの中にナポリタンとミートソースの二つのパスタ。

 ご飯は、ケチャップ味のチキンライス。

 通称、トマトスペシャル弁当というお弁当だ。

 アテナのお弁当はミニトマト二個。玉子焼き二個。

 ベーコンのアスパラ巻き二個。

 ご飯はきのこがたっぷり入った、きのこの炊き込みご飯というお弁当だ。

 圧倒的なトマト臭のするお弁当にアテナは疑いながら聞く。

「ミツキちゃん。いつもこんなお弁当なの?」

「まさか~、今日は特別だよ」

 ミツキの言葉に安堵した。

 トマトは健康にいい食べ物。

 しかし、そればかりを食べるというのは感心できなかった。

「私……、初めてだよ」

 アテナは突如一人歩きに聞こえる言葉を言った。

「えっ。何が?」

 ミツキはすかさず聞き返した。

「友達と話すの……。こんなに楽しいお昼は初めてだよ」

 アテナは顔を上げて笑って言った。

「ありがとう。ミツキちゃん」

「えっ。ああ、えっ。うん」

 ミツキはアテナの穏やかな日が差したような笑顔に戸惑った。

「もー、いきなりなんだよ! 急に言われると恥ずかしいじゃないか」

 少々顔を赤くした。

 その後も、二人はお昼を楽しんだ。

「キーン、コーン、カーン、コーン」

 中学の校舎中にお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 い組の生徒が続々と教室に戻ってきた。

 四時間目の授業が始まる。

 四、五時間目は同じ授業内容。

 しかし、座学で勉強したわけではなく、地味だと感じる退屈な作業だった。

 五時間目終了後。

「先生! なんで帰れるんですか?」

 三列目の前から二番目にいる、金城きんじょう さとるがサーシャに問いかけた。

 サーシャは淡々と理由を述べた。

「先生達の会議があります。なので、今日は通常より早い下校となります」

 会議開始に合わせて、欠かさず行われる掃除は無しになった。

 アテナの経験上、生まれて初めての事だった。

 一体、この学校には何があるのか分からない。

 アテナが所属する四班とミツキの班は担任に呼ばれた。

 別室の資料運びを手伝ってほしいとの事だった。

「よし! 終わった……ミツキちゃん……?」

 ミツキの方へ顔を向けただが、様子がおかしかった。

「はっはっはっ」

 ミツキは荒れた呼吸をしながら荒々しい運転後の車のような息を吐く。

「大丈夫? ミツキちゃん……」

 アテナが声をかけた。

「はっ、うん。はっは~、こういうの苦手でさぁ。早く終わらせたかったんだ」

 ミツキは瞬間的に書類を書く作業を終えた。

 その反動で息を切らしながら言った。

 二人は教室に戻ってきた。

「ねぇ。アテナ~。明日はテストだよ。勉強してる?」

「うん。けど、テスト範囲は今まで勉強した事だから問題ないよ」

 アテナは学校指定リュックに荷物を詰めながら言った。

「そっか。まぁお互い頑張ろう……」

 ミツキはそう言って、通学路を渡っていく。

 アテナは帰宅した。

「ただいま~」

 玄関についてすぐに挨拶する。

「おかえり~。今日は早かったはねぇ……」

 ちょうど台所にいた母親が言った。

「はい! 今日、授業終わりに雑用業務をしたんです。そしたら~」

 帰宅後、今日の早下校に対する不満を言った。

「まぁ、太っ腹ねぇ。良かったねっ。早く下校出来て」

 エリスは一瞬、少しびっくりした。

 それでもにこやかに言った。

「良くありません。私はもうちょっと、学校に居て皆と一緒に勉強をしたかったのです。なのに、なのに」

 アテナはとても悔しそうに言った。

「まぁ。仕方がないじゃない。先生方の事情なら何も言えないは」

「もーお母様!」

 学校の用事に抗えなかった悔しい気持ち。

 怒り・欲は一、二時間では収まる事はなかった。

 アテナは夕食を終えた。

 自分の部屋へ戻り部活調査用紙をカバンから取り出した。

 淡い黄色のシャーペンを手に取り、勉強机の椅子に座った。

 私は何のために、何をするために、この陰光中学校に来たのだろう。

 それは、あの人のようになりたかったため。

 その人は体が小さく弱々しくとも、しっかりとしした精神の持ち主。

 あの人の能力は誰よりも強い。

 この日本中・地球中・宇宙中・異次元中。

 あの人以外に強い人はいないとアテナは思っている。

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