妄想能力者と現実能力者の討伐戦

忽那 和音

青春編

入学編

Episode Ⅰ (1-1)

「ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ」

 部屋の中に、目覚まし時計の音が鳴り響く。

 窓の向こうは新しい一日を知らせる明るいがある。

 カーテンで閉ざされた部屋の中に入ってくる。

 窓の下にはベッドがある。布団がムズムズと動いている。

「ほらぁ! 早く起きなさぁい」

 エリス・ヴァルツコップは朝食作りも終わりに差し掛かり、扉何枚越しに廊下の距離も考えず大きな声で呼ぶ。

布団がムズムズと動く。

「うん〜」

 エリスの声に反応するように呻いた。

 布団から出てこない。

 呼び始めて十分ほど経った。

 平日の朝に彼女を待ちきれずキッチンから離れた。

「ドン! ドン! ドン!」

 階段床を叩きつける激しい音を足下から放つ。

 ダイニングで束の間の時間を痛々しく感じる。

 部屋の前に着いた。

 エリスは三回ドアをノックする。

 ドアノブを握り締めゆっくりとドアを開けた。

「キィ―」

 錆びた音がドアを開く度に鳴る。

 エリスは部屋の扉を開いた。

 お越しにきたエリスの目の前には少女が一人立っていた。

 彼女はセーラー服を着て身支度を終えていた。

「おはようございます。お母様」

 娘は母に体を向けて丁寧に一礼した。

「おお、おはよう? あっもう準備出来ていたのね。な~んだ」

 何事もなかったように階段を降りた。

 エリスはまさか、彼女が起きているとは思わなかった。

 つい最近まで、年齢的にもまだ小学生の娘が今までとは考えられない。

 そんな今朝を迎えていた事に内心、信頼に欠けていたと反省する。

 額を軽く抑えて戻ってきたエリスを見る。

 朝から大騒動にならずに済んだためか、胃が軽く感じる。

 カップを手に取り、微糖コーヒーを一口飲んだ。

 荷物を持ち、娘も下へ降りてきた。

「それじゃあ、今日は入学式だから、早く食べちゃいなさい」

「はい」

 荷物を玄関に置く道中の彼女とエリスの間には顔を合わせられるほどの隙間があった。

 娘は答える。

 純粋にニコッと微笑んでいた。


 彼女の名前はアテナ・ヴァルツコップ。

 ヴァルツコップ家の一人娘。

 ベージュの艶のある髪は肩くらいの長さ。

 身長は百三十五センチメートル。

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