第4話 アルバイト決定
その後いくつかお決まりのやりとりがされて面接は終了した。
「では、おふたりとも来週から来てもらおうかな。初日は入社の手続きした後メインの仕事になるレジに関する教育が中心になるけど、なんていったってレジが打てないと仕事にならないからね。でもおふたりとも若いから多分呑み込みが早いと思いますよ。時間は今日と同じ時間でどうかな? 都合悪ければ別の時間も考えるけど、どうかな?」
ニシカワはふたりの顔を見ながら聞いた。
「大丈夫です。よろしくお願いします。」
「お願いします。」
ふたりは顔を見合わせた後すぐに頭を下げながら返事をしていた。
「それでは、後は主任の木村さんが色々説明してくれるからよく聞いてください。わからないことや、心配なことがあればその時に質問して聞いてくださいね。では、木村さん呼んできますんでここで待っててください。」
そう言うとニシカワはソファーから腰を上げ部屋を出て行ってしまい、きさやかと園子は応接室にふたりきりで残された。
「さやか、ちょっと緊張したよね、でも店長さん良い人ぽくて、優しそうな感じでよかったよね。」
園子はそう聞いてきたが、さやかはにはあまりニシカワの印象は良くなかったようだった。
「そうかな? 何か優柔不断で八方美人的な感じがしたけど・・・。」
それでも何か気になったようで首をかしげていた。
「でもなんか・・・?」
「でも何?」
すぐに園子が反応したが、さやかは言いかけた言葉を飲み込んで誤魔化すようにしていた。
「いや、何でもない」
「そうかな、良い人だと思うんだけどなー。」
園子は再び言うと、面接の緊張感から解放されて、足を投げ出し大分リラックスした態勢でソファーにもたれかかるようにして腰かけていた。
「コン、コン、コン」
しばらくするとドアをノックする音が聞こえ、園子は驚き飛び上がってしまうと、部屋のドアが開き頭をかきながら男性がひとり部屋に入ってきた。
「主任の木村です。この後は私が色々説明しますけど、質問があればその都度聞いてください。」
早口でそう言うと木村はさやかと園子の向かいにドスンと腰かけた。
ニシカワは面接を終えてから事務所に戻ってパソコンに表示されている数値の確認作業をしていた。
「あの子大丈夫ですかね?」
ふたりへの説明を終えた木村が事務所に戻って来るなりぶつぶつと言っていた。
「どうかしましたか?」
「どうもこうも、前田さんの方は元気もあって、ハキハキしていてすごくいいと思うんですけど、花本さんの方はなんだか人の話聞いてるんだか聞いてないんだか。反応が薄いというか。何なんですかね。」
ニシカワが聞くと少し腹を立てた様子で木村は言っていた。
「あぁ、私もそう思いましたが、何とかなるでしょう。レジ打ちの人員も常に不足してますから、こうやってアルバイトの面接に来てくれるのは有難いですよ。」
そんな木村を見てニシカワがフォローを入れるも、木村はそれでもまだ心配そうに首をかしげて何かぶつぶつ言っていた。
「でも 大丈夫かな・・・?」
「まあまあ、木村さん。しっかりお客様の前に出られるように、あのふたりの教育お願いしますね。」
木村に社会人としての自覚と責任感を持たせようとそう声を掛けたのだが、当の木村はそんなニシカワの気持ちをわかるはずも無く、まだ不安そうにしていた。
「わかりました。でも大丈夫かな?」
「木村さん! それが木村さんの仕事ですよ。」
今度は少し強めにニシカワは声を掛け事務所を後にし、売り場へ向かって行った。
(伝わったかな? いきなりは無理かな?)
「さやか、アルバイト決まってよかったね。」
いつにも増して元気な声で園子が話し掛けてきた。
「なんで?」
さやかはいつもと変わらない感じで返事をしていた。
「だって、さやかやることなくて、いつもボーっとしていて、なんだか毎日つまらなそうだから、思い切ってアルバイトに誘ったんだよ。」
さやかにとって意外な言葉が園子の口から出てきた。
「えっ、何。私のため?」
さやかは驚いて聞くと、園子は憮然とした顔をして答えていた。
「そうだよ! 当たり前じゃん!」
「私のこと心配してくれてたの?」
さやかは今言った園子の言葉は園子の本心だろうと感じてはいたが、何か信じられなくて聞き返してしまっていた。
「えっ! 気付かなかったの? 私たちいつからの付き合いだと思ってるの? もう信じられないん!」
園子は今度は誰が見ても怒ってるのが分かるように頬を膨らませて、そっぽを向いてしまってたのを見てさやかは少し慌てて謝っていた。
「ごめん。ごめん。でもありがとう。本当にありがとう。」
(この子は何を考えてるのか本当にわからないな。でも、さすが幼馴染だ。私の気持ちとか全部わかってるんだな。)
さやかはそう思うと何かとてもうれしい気持ちが心の中から湧き出して、久しぶりに自然と微笑んでいた。
「さやかがちゃんと笑った顔、久しぶりに見たような気がする。」
園子はさやかの顔を見て同じように笑っていた。
「そうかもね。」
さやかは笑顔のままなずいてからポツリとつぶやいて園子の顔を見ていた。
「じゃあ、バイトでわからないことがあったら、この経験豊富な園子さんに何でも聞いてちょうだい。」
園子は自分の胸を”ポン、ポン”とたたきながら仁王立ちのポーズをとっていると、
さやかは素直に頭を下げてお願いしていた。
「はい、お願いします先輩。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます