第3話 面接

 ニシカワは昼食を終え、事務所に戻ってコーヒーを飲みながら、机の上のパソコンに時間ごとに出てくる各売り場の売り上げを確認していた。事務所といっても事務机が4台と事務椅子が4脚、それと壁際にこじんまりした打ち合わせなどをする為の小さいテーブルとその横にパイプ椅子が数脚立てかけられている殺風景な部屋であった。ニシカワの机の上もパソコン1台と贔屓ひいきのプロ野球チームのカレンダーと写真盾がひとつあるぐらいであった。

 ニシカワは数値の確認を終えると腰を上げ売り場に出ていった。そしてしばらく商品をチェックしながら店内を歩いていると呼び止められた。

「店長ちょっといいですか?」

「はい。」

「今日アルバイト希望の高校生がふたり面接に来ますので、面接官よろしくお願いします。」

 そう言ってきたのは入社3年目で、ふたりいる主任のうちのひとり、正社員である木村オサムだった。

「あっ、はいはい、わかりました。それで約束の時間は何時ですか?」

「えーと・・・? 確か4時だったな? いや・・・それとも5時だったかな・・・? うーん6時か? そんなわけないか・・・。えーと確か・・・。」

 ニシカワが尋ねると木村は頭をかきながら左右のポケットに同時に手を突っ込んで、ゴソゴソと何かを探しているようにしていた。しばらくそうしていたのだが結局何も見つからなかったようで諦めた表情をした後、かなり焦った顔をして言っていた。

「すみません、すぐ事務所に戻って調べてきます。ちょっとここで待っててもらってもいいですか?」

「事務所に何かを取りに行くのなら、私もいっしょに行きますよ。」

 ニシカワはそう言って木村の背中を押すようにして売り場を後にし、ふたりは事務所に戻った。

「あれ? どこ行っちゃたのかな? 確かこの引き出しに・・・。いや待てよ、こっちかな・・・?」

 木村はここでも何かを必死に探していたのだが、どうやっても見つからないようで、その姿を見てニシカワはあきらめの表情を浮かべながらも、木村を落ち着かせようとした。

「木村さん、木村さん、今じゃなくて大丈夫ですから、後で知らせくれればかまいませんよ。」

 それでもかなりテンパってしまっている木村の耳には西川のその声は届いていないようで、無駄な事だと思うのであるが再びポケットに手を突っ込んで探し物をしていた。

 ニシカワはしばらく木村に付き合っていたが、やがて完全に何か諦めた感を出しながら言っていた。

「あぁもういいですよ木村さん! 何時いつでも大丈夫だから、木村さん落ち着いて、その人達が来たら声掛けてくれればいいですから。」

「わかりました。」

 木村はポケットに手をつっこんだままひと言とだけ言い、再び頭を掻きだし何故かそのままどこかへ行ってしまった。

「ふうー。」

(人はいいんだけど、ちょっといい加減で大雑把すぎるんだよな。興味があることはとことんやるみたいなんだけど、それにすぐテンパるし・・・。)

 深いため息をついた後心の中でそうつぶやきいていた。

「本当は俺が本人にしっかり言ってあげなくてはいけないんだけどなー・・・。」

 そして独り言を言いながらニシカワ自身も頭をかいてしまっていた。



「えーと。今までに何かアルバイトの経験はありますか?」

 こじんまりとした部屋からその声は聞こえてきた。ここは一応応接室と言う名目になっているようで、本来は大手食品メーカーである親会社からの訪問者や常連のお客様を通す部屋であったが、今はここでアルバイトの面接が行なわれていた。

「夏休みにモットバーガーで働いてました。あと近所のコンビニでもバイトしたことがあります。」

 園子は元気よくはっきりとした口調で質問に答えると、 

「そうですか。高校2年生なのに、アルバイト経験豊富ですね。えーと、前田さんでしたね。」

 ニシカワは履歴書を確認して、笑顔で園子に向かって言うと、もう1枚の履歴書に目を移した。

「それではえーと、花本さんは?」

「すみません、私は・・・、私はずっと部活やってましたから、バイトの経験はありません。」

 さやかはこわばった表情で答えた。 

「部活? そうなんだ部活か? 何部なの?」

 さやかは聞こえてはいたがその質問には答えないでいた。

「そうか、そうか、何部でも関係ないよね。アルバイトに関係ない質問は答えなくて大丈夫だから。」

 さやかの態度を見てニシカワの方が何故かオドオドしながらフォローを入れてしまっていたが、面接なので続けて聞いていた。

「でも、あれ? まだ2年生だよね。部活終わってから働くってことでいいのかな?」

(もういい加減にしてよ、またここでも部活のことか、この人嫌なことを聞くな。)自分から部活のことを話していたのも忘れてさやかは、少しイラっとしてしまいそれがもろに顔に出てしまっていたようだ。

(あぁ! もう! 来なければよかった。園子アルバイトなんかに誘わないでよ。)

 

「あっ、また私が何か嫌な聞き方しちゃったのかな? ごめん、ごめん。ただアルバイトに入れる時間が知りたかっただけなんだけど、だから一応アルバイトと関係ある質問だったんだけど、私の聞き方がいけなかったね。ははは・・・。」

 その表情を見てニシカワは、再びフォローするようにニシカワ作り笑いで誤魔化して言うと、さやかはボソッと答えた。

「わたしもう部活辞めてますから。」

「あぁ、そうなんだ。じゃあ、えーと、仕事内容の話に移るけど、ふたりともうちでは主にレジを打って接客することが中心の仕事になりますが、レジだけだと飽きちゃうだろうから、たまに売り場への商品の品出しとか、系列のコンビニの応援とかありますけど、大丈夫かな?」

 ニシカワは話を業務内容の説明に切り替えると、園子はまたまた元気よく答えていた。

「はい、大丈夫です。さっき言ったように接客はモットバーガーでやってましたし、レジもコンビニのバイトで経験済みです。」

「えーと、花本さんのほうはどうかな?」

 ニシカワはさやかの顔色をうかがうように、少し気を使いながら質問すると、さやかは力の無い小さな声で返事をしていた。 

「はい、大丈夫だと・・・思います。」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る