第29話 30年ぶりの歯みがき

「歯みがきは?」

異動になった精神科で勤務初日に、先輩へ聞いた

食事が終わっても、だれも患者さんが歯みがきをしていない


「してないよ」

絶句した

「歯みがきは大事ですよね。」

「・・・・そうだね」

それ以上の会話が成り立たない


歯みがきを業務に組み込むように動くことにした


歯ブラシ、歯みがき粉、コップ

それらを保管するケース

ケースを置く場所

消毒をどのタイミングでどんな方法で行うか考え提案


病棟師長や介護主任に話をして歯みがきの大切さを伝え

物品を揃える方法を検討


業務が増えるため、かなりの不満が職員から出た

仕事を増やされたと言われた


「歯みがきせずに過ごせます?今日から、ずっと歯みがきせず出勤できます?」

「私はできません。私たちだってやっていることですよ。患者さんだって歯みがきして、口をきれいにして過ごす方が気持ちがいいですよね。」

言われたら言い返した。生意気だけれど、言い返した


歯みがきを提案し、実行されるまで6か月かかった


全員の歯ブラシがそろった日、昼食後に歯みがきをしていただく


40年以上入院している、一番入院期間が長いキクさんが

「30年ぶりに歯みがきした。」そう話され、笑っている


3回歯みがきを業務に組み込むのに3年かかった


3回の歯みがきに3年って・・・今では笑い話だが

30年ぶりの歯みがきって・・・・・・・ホラー話よりコワイ実話・・・

















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