第28話 花の香

数日前から状態が変化していたカナさん

庭いじりが大好きだとご家族から聞いていた


私が夜勤をしていた冬の寒い日に旅立たれた


ご家族は、覚悟していたからと亡くなられてからの段取りをきちんと決めていた

真っ暗な寒い中、ご家族と共に自宅へ帰られた

夜勤者でカナさんを乗せた車をお見送りした


夜勤中にご自宅へ退院されたときには

翌日の日勤で片付けなどをすることになっている


でも、カナさんの病室を軽く片付けようと、

お見送りから戻ってその足でカナさんの病室へ向かった


病室へ入る数歩前からとてもいい香りがした

「?何かスプレーした?」3人の夜勤者それぞれがそう思った

誰もスプレーなど使っていない

ご家族もスプレーをした様子はない

もし、使っていたら、お見送りの時点でわかる

病棟にある消臭スプレーは、この香りではない

真冬で窓も開けていない

花の香りがする時期でもなく、病院周囲にいつの時期も花の香りがしたことはない


カナさんが帰られてから花の香りがした

とてもいい香りだった


3人の夜勤者みんなが

「カナさんが大好きな花畑にいるんだね」そう言って

しばらく3人でその香りを嗅ぎながら病室で手を合わせた


花の香りがしたことはこの1度だけ







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