第12話 おはようございます

結局、お嫁さんは朝まで起きなかった。

折角、ビーフシチューをじっくりコトコト煮込んでたのに。

ほら、牛肉が口の中で解けちゃう。

しょうがないから、ピヨちゃんには梨とお米。チビドラゴンには血の滴る生肉をご馳走して寂しい夕食を終えた。

二十世紀梨とあきまこまちがお気に入りになったみたいなピヨちゃんが、ずっと俺の周りを走り回ってたけど、飛び方忘れた?

「ピヨ?」

そうですか。


「むにむに。」

お?起きたかな。

「おはようさん。」

「おはようございます慎吾様。…………!

ああーーー。」

朝からうるさい。

「朝になってるじゃないですかあ。」

気持ちよさそうに寝てたからね。俺、一晩中起きてたけど、君はずっと熟睡してたよ。

「たしかに気持ちよく熟睡出来ましたけど、夫婦的には気持ち良くありませんよお。一晩損しました。」

そうですか。そっちですか。


まぁ起きたなら、顔を洗ってらっしゃい。

ビーフシチューを温め直すから。

「あのう、私が寝る前とは家の中が全然違うんですけど?」

お嫁さんが寝っぱなしでつまらなかったから、少しリフォームして遊んでました。

「平屋が3階建になる事をリフォームとは言いません。」

何だよう。ちょっと木造を鉄筋コンクリート作りにしてフロアーを増やしただけじゃん。

「あとなんか小さな竜が増えてるし。」

ああこれはピヨちゃんが育った「ピヨ」途中で出て来たら嘘がつけないじゃん。

「ク?」

「ああしかもなんか、私が寝てる間に仲良くなってるしぃ。」

変なところにヤキモチを焼くお嫁さんでした。 


「それでこの人は誰ですか?」

チビ竜を誰呼ばわりする、なかなか素敵なうちのお嫁さん。

「多分、昨日の竜人さん達のお使い竜。なんか用がある時は頼めばアリサ嬢まですっ飛んでくよ。」

「クウ?」

「その割には、やたら慎吾様に懐いてますけど?」

俺が一晩煮込んだビーフシチューをウマウマと食べながら、きちんと突っ込んでくる。

この娘、ちゃんと正座してお箸で頂いているあたり、百姓と言いながら育ちは悪くない。

懐いているというのは、右肩にピヨちゃん頭の上にチビ竜が乗っかってくつろいでいるからだ。

「まぁ、そこら辺はピヨちゃんに倣えという事で。おかわりは?」

「はい、頂きます。初めて頂く料理ですが、とっても美味しいです。」

それは良かった。

「食べ終わったら、しましょう。」

しません。いつ昨日の村長さんが来るかわからないでしょ。

「ちぇっ。」

多分俺に一番懐いているの、お嫁さんじゃないかな。

「当たり前です。」


「おはようございます?あの?その?たしかに粗末な空き家を提供致しましたが、何かご不便をおかけしましたか?家が家でなくなっているんですが?」

おや、村長さんおはよう。お嫁さんを引き剥がしといてよかった。

「ああ。夕べね。あの家燃えちゃった。」

「はあ?」

「慎吾様?」

「正確には燃やされちゃった。村に帰ったら点呼取ってみい。おばさんが1人足りないから。」

「とととととと…」

村長さんがおかしくなった。

「夜中に放火して明け方様子を見に来てたけど、なんか逃げちゃったけど。」

そう。俺が寝ないでビーフシチューを煮込んでいたのは、竜人の中から強烈な殺意を感じたからだ。

お嫁さんが疲れて熟睡してるのに、起こしたら可哀想じゃん。

だから、ガワの木だけ燃えるままにして燃え尽くしたら鉄筋コンクリートで作り直した。


村長さんとお嫁さんが目を丸くしてる。

俺達は竜人のお家争いに介入したんだから、こんな事だってあらあな。

「誰?というのは後から解りますが、何故客人様を害そうとしたんでしょう?」

「それはこの娘が教えてくれるよ。」

頭の上でピヨちゃんと遊ぶチビ竜を抱き抱えた。重たいんだけど。

「女性に重たいとは失礼じゃの。」

「りりりりりり…」

「ちっさい竜さんが喋ったわよ。」

「伝書竜が喋るなど聞いた事ありません!」

「そりゃこの娘伝書竜じゃないもん。」


と気がついたのは明け方だけどね。

お嫁さんが起きるまで普通のお使い竜だとばっかり思ってた。」

「慎吾様は何故気がついたの?」

「だってこの娘女の子だもん。」

「え?」

「放火犯が逃げちゃった後は本格的に暇になったから、寝てるお嫁さんにいたずらしょうとして怒られた。」

「いたずらされてもいいのに。」

「つがいなのは知っておったけどな。それでも夫婦和合でなければならん。」

「伝書竜の貞操観念を初めて知りました。」

「村長さんや。この娘伝書竜じゃないよ。」

「は?」

「そろそろ正体を表しなさい。」

「仕方ないのう。この身体が一番楽なんじゃが。」


むくむくむくむくむくむくむくむく。

意味不明な音がするとチビ竜は妙齢の女性になった。

「あの?どなたでございますか?」

「んー?竜が女になるなんか一つしか無かろう?」

「………。まさか。」

そのまさかだよ。

「はあ、この方もエンシェントなドラゴンさんですか。昨日の方とは別人さんですね。」

うちのお嫁さんに全く緊張感が無い件について。

村長さんなんかガクガク震えちゃってるよ。

「仲間に人間が介入するけど構わないか?と聞かれてな。面白そうだから見に来たんじゃよ。」

「仲間さんて昨日のドラゴンさんですか?」

「うむ。ドラゴンのつがいはあたしだけだから手を出すなと言われてな。思った以上の化け物だったから一晩ウズウズしとったわい。

人間のつがいよ。お主は守られてるぞ。当たりの雄を引いたな。」

「やだもう。ドラゴンさんたら、照れちゃうじゃ無いですか。」

うちのお嫁さんがエンシェントドラゴンとガールズトークに華が咲いている件について。


「あの、どういう事なんでしょうか?お話しを聞いていると神龍様がお二人いらっしゃるようですが?」

ああ、うちに1人お妾ドラゴンがいるから。

「……。一応ですね。昨日助けて頂いた竜の姉妹は私の娘にあたりまして、双方とも貴方様への入り妾を希望しておりまして、どんな男なのかと男親として力こぶを作って待ってたのですが。なんなんですかあんた?迂闊に関係持たれたら神龍様と穴姉妹になるじゃないですか。」

そんちょーさんの言う言葉じゃないなぁ。

「面白い!」

面白いんだ。

「貴方様に娘達を貰って頂ければ、くだらない竜人の騒動に巻き込む事もなくなる。」

はあ。

「貴方の種を貰えば竜人を超越する立場になる。その上で放棄を宣言すれば強大な魔王の妻妾としての安全な生活も確保出来る!」

誰が魔王だ誰が。

「慎吾様。」

「主。」

そこの嫁と竜、うるさい。

大体、俺達は新婚三日目なんだから。もう少しですね。


「ところで放火犯を捕まえて処分しないといけませんね。」と気持ちを持ち直した村長さんが提案してきたので。

西の谷に、目玉と鼻と唇とおっぱいと女性器が削られて死んでる竜人がいるからそれだよ。

「え?」

さっき、うちのお妾さんから連絡があった。

『捕まえようとしたら力加減間違えて、爪で賊の前半分削ってもうた。すまんすまん。』

だそうです。

「お妾さんとは、ひょっとしてもうひとかたの神龍様ですか?」

「ありゃ強いの。あたしなんかじゃ足元にも及ばないじゃろう。」

『追伸・このおばさんを舐め狂わそうとか思ってたんだけどなぁ。失敗失敗。』


「…神龍様ってなんなんですか?」

「変態。」

「神龍様を妾にしている貴方様は?」

「大変態。」

ギギギギギギ。

この国の人は時々ゼンマイ仕掛けになるみたいだ。今日は村長の番か。

「この方の奥方の貴女は?」

「大変態に調教され始めた村娘ですが?」

「…うちの娘達も変態になるのだろうか。いや、二人共もう成人。昼夜の区別はつけられるだろう。変態になるくらいで安泰な生活が送れるのならば、性人になるくらい大目に見るべきか。アリサの方は男勝りだしそうそう堕ちる事も無さそうだけど。」

ぶつぶつ言い始めたお父さんごめん。

妹の方なら、もう堕とした。

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