第13話 おやおや

「でさ。」

村長さんにビーフシチューを勧めながら、お嫁さんに竜骨刀を渡した。

「美味しいですね。コレ。肉は牛ですか。」

「一晩じっくりコトコト煮込んだから、肉も野菜も口の中でとろけるよ。」

「慎吾様。これって…。」

鞘から本身を抜いたお嫁さんが絶句してる。

ふーん。百姓娘とはいえ女性剣士。ホンモノを見分ける力はあるわけか。

「ああ、少し研ぎ直して見た。そこら辺の人間なら鎧ごと切断出来るから気をつける様に。」

「私、兜割なんか出来ませんよう。」

「そのうち素手で岩を割れる様にする予定です。」

「あなたは嫁と弟子をどうしちゃうんですか?私は剣士に憧れてはいますが、化け物になるつもりは無いんですけど?」

「俺の弟子になったら、自動的にそこまで行くからお楽しみに。」

「お米も美味しいんですが。初めて食べました。」

「魚沼産のコシヒカリの新米をお釜で炊いたからね。始めちょろちょろ中ぱっぱ。」

「あの、慎吾様?」

「お米ってこんなに美味しいんですね。」

「あのあの。」

「だろ!美味しいお米を作ってくれた新潟県の農家さんに感謝を。」

「ちょっと話を聞いて…。」

「新潟ってどこですか?」

「ああ、俺の郷の…

「聞いて下さい!!」


嫁と村長さん、二人の話を同時に聞いて答えるって、俺聖徳太子じゃないんだけど。

「誰ですか?その方?」

天井天下唯我独尊。

「別人だと思います。」

何故わかる村長?

「それより慎吾様?外が…

「4人だね。」

「はい。」

「は?」

気がつくのが遅いよ村長。ただの調教途中の村娘(本人談)な人間のお嫁さんが気がついたのに。あなた、人間よりは発達器官の発達した竜人でしょう。


4人とは、言うまでもなく敵。

敵と言っても俺にとっては全く物足りないんだけど、この村を治める村長さんにはちょっとショックだろう。

雄が1人と雌が3人。あれはなんだろう。

全員、筒を持ってるな。

飛び道具かな、おおぅこの世界には飛び道具が存在するのか。それは面白い。

「!」

村長さん気がつくのが遅いよ。

ほら撃ってきた。大筒?バズーカ的なものなのかな。

外で爆発音が響いてる。火薬がこの世界にはあるわけか。剣と魔法の世界じゃないんだな。

まぁ、俺がこさえた建物には傷一つ付かないんだけど。

おやおや。それだけで慌ててるよ。


お嫁さんが素早く刀を寄せて立ち上がろうとするから袴の裾を掴み、村長さんも漸く事態を把握したか、窓に近づこうとしているのを「まあまあ。」と尻尾を掴んで呼び止める。

受け身を顔で取ったお嫁さんと村長さんが、声にならない声で抗議しようとするところに。

「もう一杯シチューはどうだい?」

「いや、それどころじゃ

「あるよ。」

「は?」

「ほら、サユリさんも。ちゃんと最後までご飯を食べなさい。」

「じーーーーーー。」

何ですか?

「私の名前をなんか久しぶりに呼んでくれたから。ちょっと嬉しかったんです。」

「お二人の夫婦仲が良い事は認めさせていただきますが、今?敵が攻めて来ているのですよ?」

「この館は難攻不落なのです。」

「慎吾様がそう言うのなら。」

「いやいやいやいやいやいやいやいや。そこのおもろい夫婦!我らこれでも竜人ですぞ。戦闘力たるや。

「儂が行こうか?」

「神龍様。私の話を遮らないで下さい!」

「いや、神龍ちゃんが出てったら全部終わっちゃうから、ただでさえうちら3人で竜人世界滅ぼせる戦力があんだよ?」

「私は滅ぼしませんが?というか、戦力に見て貰えるんだ。ちょっと嬉しいです。」

「滅ぼされるのはちょっと困ります。」

ちょっとなんだ。


という訳で、窓からは4人の竜人が刀やら槌やらで館を壊そうとする姿を見ながらのんびりと食事を終えました。

「大筒は城崩しと言われる攻城兵器の筈なんですが。何でこの家には通用しないんですか?」

「んー?特別な原料を練り合わせた強固な素材を鉄製の細かい棒を大量に柱にしてあるから、そこら辺の岩より硬くなってるのと、俺が強化魔法を掛けてるから。」

「魔法とか当たり前に使わないで下さい。」

「村長さん。うちの旦那様に当たり前や常識を求めちゃいけないと思うの。」

「なんで貴女はこんな方をご亭主にしようと思ったのですか?」

「んー。お腹空いてたから?」

「はい?」

「お腹空いてふらふらしてたら、黄色ドラゴンを石で撃墜してる慎吾様を見たの。なんかもう女の本能で全てを捧げたくなったわ。」

「…アンタらもうお似合い夫婦だよ。さっさと結婚しろ。」

したんだよ。おととい。


「で。アイツらに見覚えはあるのかな?」

「いずれも村の者です。女達は竜王に憧れていた者。私が正直始末に困っていた者です。男は、なんでしょうか。」

「差し当たり、放火魔女の亭主ってとこかな。」

「なんと!ならば放火魔とは彼女だったのか!」

「誰?」

「いや、伝書竜の世話をしている者で、竜王が父の隠居領に攻め入った事に憤慨していた者だったのですが。」

まあ、大体大事件の犯罪者ってそうだよね。

まさか、あの人がとか。

大人しい人だったのにとか。

本人の事なんか何も知らない周囲が好き勝手な事言ってるだけだし。


「どうしますかねえ。」

「うーん。俺達や村長を殺せなければ行き場失ってどうなるかなぁ。」

「行き場を失う?とは?」

「んー。竜王とか言うあの愉快な兄ちゃんの本拠地と親類縁者、全部潰しちゃったから。」

「…それはちょっとやりすぎでは?」

「うちの神龍ちゃんがやりました。」

「儂ではないぞ。」

「呼んだか?」

「おや姉者。」

呼んでないけどね。うちのドラゴンちゃんが来ちゃったよ。放火魔で遊んでたんじゃなかったの?姉者?

「エンシェントドラゴンまで希少種になるとな、会える事すら奇跡なんじゃ。その繋がりだけで肉親扱いとなる。儂より格上のドラゴンじゃから姉者じゃ。」

「というか、エンシェントドラゴンとひょいひょい契りを結ぶ我が主がおかしい。」

「「たしかに」」

お前らうるさい。大体、こっちのドラゴンちゃんにはまだ手を出してないぞ。

「エンシェントドラゴンを餌付けた段階で契りだ。全く浮気者を主にすると気もそぞろになろうと言うものよ。おい、人間嫁!自分の亭主くらいきちんと管理しとけよ。」

「私は確かに嫁ですが、慎吾様は師匠でもあるので。後、女なのでお布団の中で色々焦らされたら敵いません。」

「うむ、それはわかる。」

君ら何言ってるの?

「主も大変じゃのう。人間を妻とし、ドラゴンを妾とするとは。姦しいじゃろ。」

面白いよ。そこら辺は男の甲斐性という事で。

「お主は甲斐性がありすぎじゃ。」

「あの。神龍様がお二人も居る事にもう理解が追いつかないのですが、事態収集はどうなるのでしょう。」

「え?ああ、もう終わったよ。」

「はい?」

俺に害をなそうとする存在は、ドラゴンちゃんが来た段階で全て排除されるから。


あーあーあーあー。

雄の竜人さんの両手がなくなってるよ。生きてるかなぁアレ。

あれ?雌の方は?

「さっき1人力加減間違え勿体ない事したから、アタシのオヤツとして捕獲してある。逃げようとしたから重力魔法を使っての。」

なんで貴女が俺の相棒の力を使えるの?

「主の力はアタシの力だ。」

ドロボー!ドロボーエンシェントドラゴン!

「アタシの心を盗んで行った大泥棒が何を言う。」

なんだそのカリオストロ。

「あの3匹はまだ若いからたっぷりと遊べるので。では、遊びに行ってきまあす。頂きまあす。」

ああ、頂かれちゃうのか。可哀想に。

「神龍様は我らを食べるのですか?」

「儂は食べんぞ。霞を食っとる故。」

「いや、さっき最高級神戸牛のロース肉を食べてただろうに。」

「いやいや、アレは儂と主の契りじゃ。主に抱かれたいとこじゃが、姉者にヤキモチ妬かれたら儂死ぬでの。」

そんな事、うちのドラゴンちゃんはしないと思うけどなぁ。

「何言っとる。主が相手にせんから竜人の娘で楽しもうとしとるんじゃないのか?」

「ああ、うちのドラゴンちゃん両刀使いだから。」

「なんと!」


「あの。神龍様って両刀使いなんですか?」

「何を言うか竜人の村長。そもそもエンシェントドラゴンは孤独な存在故、番う相手などおらんでな。溜まった時には適当に見繕うが儂が雌とは限らんのよ。」

「女性にしか見えませんが。」

「脱いだらさぞかし立派なものがあったらどうする。」

「お尻を押さえて逃げますな。」

「あははは、安心せえ。儂は雌じゃ。食べる方でなく食べられる方じゃ。折角の雄じゃからつまみ食われしょうと出て来たら、嫉妬深い姉者に釘を刺されたのでな。大人しく愛玩竜に戻るから安心せえ。」

「色々常識はずれな事満載なんですが…伝説ってなんですかねえ?」

「諦めない事さ!」

「よくわからないけど、とにかく私の娘2人を早いとこ頂いて下さいね。」

よくわからないけど、年頃の娘を抱えた父親の言う事じゃあないだろう。

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