第11話 蛇

蛇。

それが竜人さんが教えてくれた「もの」だった。

腰を抜かしたアリサ嬢とお嫁さんはそれぞれが引き取る事になった訳だけど、竜骨剣が俺への謝礼とならなかったので、こんなんが居ますよって教えてもらった。竜人では敵わない化け物で、ほとほと途方に暮れて数百年だそうだ。途方に暮れ過ぎだろう。(刀は一応お嫁さんが貰った)

たあいえ、ぶっちゃけ、物より情報の方が好きな俺です。それもこんな化け物情報が。

「蛇ですか?」

お嫁さん曰く、蛇は里でよく食べたそうだ。

「頭を潰して皮を剥ぎ、燻製にすると美味しいの。だって、貧乏村には貴重なお肉だったもん。」

だったら食べ応えがあるかもよ。

竜人さんの話はイマイチ的を得なかったけど、40メートルくらい、ああこの世界の単位が分からん。そうだな、例えるならお嫁さん25人分くらい?

「え"」

あと頭が8本あるって。

「…それって魔獣ではありませんか。」

所謂、八岐大蛇だね。

古事記に出て来る神代のモンスターがこの世界にまで出てくるとは興味深い。

「まさかそれを?」

竜人達や(この世界の)エンシェントドラゴンでさえ手に余るらしいから面白そうだ。

うちのドラゴンちゃんなら敵うかな。



「まさかまさか女性だったらどうするの?」

うちのエンシェントドラゴンちゃんは雌だってわかってたし、人化したらあの通りお綺麗さんな事がわかってたら手をつけたけど、今回のは純粋にモンスターだから退治するだけだよ。

あとね、今までの経験からするとお楽しみがあるんだ。

「お楽しみ?」

「そ、お楽しみ。」


とはいえ、蛇の巣は歩いて2日はかかる山の中だとか。遠いな。

懐の中のピヨちゃんは、寒さですっかり毛並みが膨れ上がってる。

ちょっと声を掛けると

「ピヨピヨ。」

と元気そうではあるけどお腹空いてないかな?林檎をあげると嬉しそうに突き始めた。

頭に毛糸の帽子を被ると、お腹いっぱいになったピヨちゃんは潜って寝てしまった。

平和平和。

「さっきまで森の上を飛んでた小鳥とは思えないなぁ。」

君も昨日までは腹を減らした処女だったけどね。


夕暮れが近づく頃、どこかの村に着いた。

「ふむふむ。ここはまだ竜人の村か。」

「じゃあ宿屋は無さそうね。」

さっきの寒村に比べると、それなりに賑やかな村ではある。

竜人達は道を行き交い、子供と思しき小さな竜人も見受けられる。

俺達人間族が歩いている事に、多少の好奇心は示すものの、特に敵対や排斥の動きはない。

そういえばアリサ嬢は普通に人間族の居住域を歩いて俺達に接触して来たな。

この世界では、人間族と竜人の差異は人種ので差異くらいにしか認識されないのかな?

うちのお嫁さんも、特に警戒もせず(俺の袂は握ってるけど)むしろ好奇心旺盛にキョロキョロしてる。

マンガ日本昔ばなしや合掌造り村で見た事のある程度の密度で、木造平屋建てが道の両側に建っている風景だ。

店舗は見た限り一部調味料や燃料を扱う店しか見当たらない。


「それにしても、なんで慎吾様の後ろには誰かいつも誰かいるんですかね。」

「うん、昨日からお嫁さんの申し込みと厄介事の持ち込みばかりだ。」

「あ“う"」

身に覚えがあるお嫁さんが悶えてる。

「別に結婚の申込みに来た訳ではござらんぞい。」

うん、俺も竜人のおっちゃんを抱こうとは思わない。


「お初にお目に掛かる。当村の村長にてお見知りおきください。」

「村長さんに用は無いんだけど?」

「これ!慎吾様!」

「構わん構わん。私が来たのは、我が父と娘達を助けてくれた礼をしに来ただけじゃよ。」

「誰か助けたっけ?」

「昼過ぎの事をもう忘れたんですか?」

昼過ぎっつうと、愉快な竜人の姉ちゃんがカッコ付けてるのを引き剥がした件かな?

「その他にもあるでしょ!」

【サムライっぽい竜人姫の本性がただのツンデレ娘だった件について。

性感帯をちょっと突っついたら腰を抜かしました。】

「何よそれ。」

うん、昼過ぎにあった一連の流れに題をつけてみました。


「その竜人姫の祖父が私の父なんです。」

そんな人居たっけ?

「いらっしゃいました!その方を助けに私達は竜人の里に来たんでしょ!」

ふーむ。覚えているのはツンデレ姉ちゃんとその配下?の人達。それとツンデレ姉ちゃんの姉ちゃんがいたなあ。

「そのツンデレ?姉ちゃんの姉ちゃんさんと一緒にいらした竜人さんが居たでしょ。」

………?盛大に首を傾げる俺。

首を傾げたので、ピヨちゃんも起きてきて毛糸の帽子から首だけ出して傾げている。

「慎吾様は女性しか興味無いんですか?」

とまぁ、お嫁さんを揶揄うのはここまでにして、

「礼ならば充分貰ったぞ。うちの嫁の得物としては立派過ぎるだろう。」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

ありゃ、揶揄い過ぎたかな?それにしても器用な混乱の仕方をする。

仕方ないので抱きしめてあげる。ついでに房中術をちょいと流用して性的快感を身体に流してあげよう。

ほら、目の焦点が合わなくなってきた。


「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。これも俺達のやり方だから、で?何の用だい?礼なら要らんよ。」

「いえ、礼はさせて下さい。我が父の件のみならず、お恥ずかしい話ですが竜人社会の内乱を寸でのところで止めて頂き、更には長年の懸案であった蛇を退治て頂けると。あなた様方は竜人が抱える問題を全部解消しようとしてくれる。」

全部、もののついでなんだけどなぁ。

「あなた様方には容易い事なのでしょう。ですから、もう一つ叶えて欲しいのです。私達竜人はそこまで通りがかりのヒトゾクの助けを必要としてしまった。なのに大した礼も出来ない。実はこれが無駄に誇り高い我々竜人には耐えがたい苦痛なんです。我らをもう一度助けると思って礼を受けて貰えないだろうか?」

面倒くさいなぁ、もう。


面倒くさくても敵意の無い人まで退治するわけにもいかず、一夜の宿を頼んだ。

馬鹿やってるが、イベント満載過ぎたお嫁さんの体力がそろそろ尽きそうだったのと、実は竜骨剣を少し弄りたかったからだ。

村長には彼の家に招待されたが、俺達が新婚2日目と告げると色々察してくれて、村はずれの廃屋に案内してくれた。


廃屋ったって無人になって数日らしい。

なんでも住人は本城に騎士として旅立ったとか。

炭や水や布団を運び入れてくれたから一晩泊まるだけなら充分だ。

お嫁さんにはひとまず寝てもらった。飯が炊けたら起こすと言うと、素直に布団を敷いて直ぐ様夢の中に落ちていった。

「さて」

傍らに待機しているチビ竜に声を掛ける。体長30センチ程のちんまい竜であるがよく人に懐く愛玩竜で伝書竜の役割も果たしているとか。

恐らくコイツが昼の村から知らせを飛ばしたんだろう。

「お前が何の為に俺達にくっついているんか知らんけど、覚悟は良いな?場合によってはこき使うぞ?」

チビ竜は俺が薄くかけた圧力を気持ち良さげに受け取ると、喉の奥でクルクル鳴き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る