第10話 ででで

な〜んにも考えずに飛んで来ちゃったので、ここは何処だか分かんない。

ちょっと寒いらしくピヨちゃんは俺の懐に潜ったまんまだ。

俺は平気だけど、お嫁さんが寒そうだったので外套を着せてあげた。ついでに帽子を被らせて見たら陸軍少尉みたいになった。

加藤ー…!


「慎吾様は寒く無いんですか?」

「ん〜。このくらいなら。」

極地を2週間ばかりノースリーブで歩き回った時と比べるなら。

「で。ここは何処なんだろうね。行きはうちのドラゴンちゃんに乗って来たからなぁ。」

「神龍様にもう一度出てきて頂く訳にはいかないんですか?」

「あいつな、結構な方向音痴なんだ。俺やあいつは構わないけど、平気でショートカットするんだ。あいつの判断で。」

「それが何か問題でも?」

「水の中とか、火山の火口とか行くけど?」

「え“」

「あとあいつ女もイケる口だから、というか女の方が好きだから。男を受け入れるの俺だけ。」

「えーと?」

「いつまでも寝ないで済むし、いつまでも舐め続けるから、俺が監督してないと女の子壊れちゃうんだ。それでも良いなら頼むよ。さっきの有り様じゃあ溜まってるみたいだけど。」

「しゅ、修行です。歩きましょう師匠。」

「俺も溜まったら行くけどね。ちょうど隣にお嫁さんいるし。」

「ちょっと待って下さい。まさか私達の最中に神龍さんが乱入してくるとか…。」

「あり得るなぁ。あいつ快楽主義者だから。さっきだってイキったガキ(竜人)を追い込みたいからノリノリだったし。」

「何で神龍がノリノリなんですかあ。」

「そういう女だから、女をヨガらせる事が快感な訳。あいつを満足させられるの男では俺だけな訳。」

「…神龍さんを満足させる人とお相手してたら、そりゃ腰も抜けるわけかあ。」


「ででで。」

俺は背後に群れなす竜人さん達に前を向いたまま話かける。

「君達は何の様かね。特にヒロイン候補から脱落したアリサ嬢?」

「ヒロイン候補脱落言うな。思わしげに登場しといて、主人公夫婦に口を挟む事も出来ずに退場する残念竜人言うな。」

そこまでは言って無い。

「ハアハア。」

ほら、興奮し過ぎ。お茶飲む?

「何処から湯呑みを出したんですか⁉︎それに中から湯気立ってるし。」

やばい、この娘面白い。うちのお嫁さんと違ってちゃんと突っ込んでくるし。

「はいはい、返しが甘い嫁で悪う御座いました。」

「いや、私が見る限り延々と会話が止まらない夫婦に見えたけれど、」

その中に混じりたいと?

「面白そうだけど疲れそうだ。」

疲れたらマッサージするよ。効果はうちのお嫁さんが確認済み。

「腰が抜けて立てなくなりますけどね。」


「でででで。何の用ですか?」

「そうでした。貴方達と話してると、ちっとも話が進みません。」

それ、俺のせいかなぁ。どっかの竜人ちゃんのノリが良過ぎるせいもあるよ。

「誰が竜人ちゃんですか⁉︎」

ほら、ノリが良い。

「〜〜〜コホン。改めまして、お礼を申し上げます。先代竜人領主、エラル族が孫娘、アリサが全竜人に代わり申し上げます。…というか、お礼くらい言わせなさいよ。なんなのよ。神龍様を使役する人族なんか前代未聞よ。」

一気に口調が砕けたけど。

「これが私の地なの。お爺ちゃんが昔どんだけ偉かろうと、私達にはただの優しいお爺ちゃんだし、私達はただのお爺ちゃんの孫。私達は偉くもなんともないの。変な輩からお姉ちゃんを守ってくれてありがとう。お姉ちゃんは貴方になら身を任せても良いって目がいっちゃってるわ。何かした?」

いや、見てたろ。あれ以外の事は何もしてないぞ。

「慎吾様に守られた女性はみんなそうなっちゃうんです。何か変な匂いでも出してるのかしら。」

そうなっちゃったお嫁さんが言う事じゃあ無いなあ。


「コホン。つきましてはお礼を致したく

「竜人ちゃんの貞操とか要らないよ。」

「そう人の話を遮ってまで女を否定されると悲しいのですが。」

だからうちは新婚さんなんだってば。

「だから他所様の新婚家庭を邪魔する事はしませんよ(今は)。」

「なんか付け足したか?」

「いいえ。」


「こちらを。」

アリサ嬢が差し出したのは一振りの刀。

片刃反り有り波紋いり。この世界では両刃の剣しか見ていなかった。

鞘から抜くと刀身を睨んだ。

「刃は鋼じゃ無いな。竜骨か。」

「竜人の中で稀に生まれる先祖返りと呼ばれる者の背骨。竜人の先祖返りは即ち竜であり人ではなく。それゆえに理性なく母親に誅せられる。先祖返りの身は一族郎党の穢にとなる。って言うのが竜人に伝わるお話。多分私のご先祖さまの骨よ。」

「ご先祖の死骸を俺に押し付けようと。」

「…ごめんなさい。人族から見るとそう取られちゃうんだ。」

「ああいや、俺からすっとただの刀だから。この。」

と、昼から振り回しているぼっこをひらひらと振る。

「ぼっこと変わらん。竜骨って言われても文字通り竜の骨としか思えん。」

「竜人のみならず、この国では貴重かつ無敵な剣だけど?」

「多分、俺が本気で振り回したら折れちゃう。」

「え“」

アリサ嬢の首がギギギと音を立てて、うちのお嫁さんの方を見る。

お嫁さんは視線を逸らしながら

「多分ほんと。その棒一本で一角黒熊を一撃で退治したし。」

「あなたはどういう人を亭主にしたのよ。」

「規格外。」

「みたいね。」

「あっちの方も。」

「…凄いの?」

「そこらの処女なら契っては投げ契っては投げ。」

お嫁さん、千切るの字が違ないかな。

「やばい、貴方に興味湧いてきた。」

お姉ちゃんはどうするんだよ?

「姉妹丼というのも良いかしら。」

後ろにいる竜人達がドン引きしてるぞ。


「それにしても困ったわね。この剣以外にお礼できるものなんて竜人の姉妹丼くらいしか無いわ。」

うん、要らない。というか礼が欲しくて助けた訳じゃない。

「カッコいい言い草だけど、じゃ何で助けてくれたの?」

「なんとなく?」

「何故疑問形なのよ。」

「いや、俺からすっと大した手間でも無いしな。強いて言えば暇だったから?」

「暇つぶしに助けられる竜人社会ってなんだろ。」

「だからうちの旦那は規格外なの。要らないって言い出したなら本当に要らないよ。」

おお、さすがは我が妻。夫の気持ちを察してくれる。

「だから私にちょうだブハ!」

なんだろうこの欲の塊。思わずぼっこで女陰を突いちゃった。

「貴方、自分の妻にも容赦ないのね。」

「つうか、女房が醜い事言った。謝る。」

「わ、私はこの剣を受け取って貰えるなら貴方でも奥さんでもどっちでもいいんだけど、

…ねぇ本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫。ちょっと腰が抜けただけ。」

「どうやったら棒で突くだけでそうなるブハ!」

「こうやって。」

うちのドラゴンちゃんも人間状態の時は変わらなかったからお嫁さんと同じとこを突いてみた。

案の定アリサ嬢も腰を抜かして涙目で首をプルプル振っている。


「あ、あのう。」

後ろにいた竜人達の中から一人おずおずと手を挙げて話しかけてきた。

助かる。やっと話が進む。

「彼女は大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫。ただ腰が抜けただけ(何で突っつかれただけで逝っちゃうのよ)」

「そおいう人なんです。エンシェントドラゴンにだって勝った人ですから、女の身では永久に敵いません。」

「そこの面白可笑しい女の子達はほっといて、何か用かな?」


「貴方様では竜骨の剣では保たないと仰られる。」

「ああ、これは刀だからな。本物の達人になると曲げる事すら無く斬れる。だが、俺は基本的に身体のポテンシャルで斬る。刀のポテンシャルを潰すあくまでも実戦型なんだ。逆に言えば、こんな木の棒でも十全なんだよ。」

「しかし、我が主様よりきちんとお礼をするように言付かっております。見れば奥様は剣士とお見受け致します。是非奥様への御礼としてお受け取り下さい。」

「そうまでいうなら貰うけどさ。うちのお嫁さんが今回やった事って窓を開けただけだよ。」

「構いません。妻の物は夫の物です。」

何そのジャイアニズム。

「貴方様には、なんならその姉妹丼とやらを。」

いりません。

「だから食い気味に私の女を否定するなあ。」

「あんなケタタマシイの要ります?」

「一応、我が集落ではおひいさまなんですが。」

「そこ!一応言わない!」

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