第9話 竜王戦

「いつから俺に逆らえる様になった?」

鄙の庵を挟み、ひとりの竜人が吠えていた。

本来なら素足で上がる板の間に、泥だらけの土足で踏み込んでいる。


ここはとある竜人の集落。先代が戦で負傷し領主を引退後、彼を慕って彼の部下達が彼の閑居に集い暮らす鄙びた山裾の寒村である。

僅か数棟の木造家屋が集うこの寒村は、今滅びの時を迎え様としていた。

重装歩兵の竜人兵が村を包囲していた。

竜人兵を指揮する1人の竜人が、年老いて盲いた元領主に剣を突きつけている。

盲いた竜人は、その見えぬ目を竜人に向け静かに1人の竜人を背後に護っている。


彼は竜人界の中央に於いて、百戦百勝と言われる武の天才であり、武勲を重ね次期領主を確実なものとされている竜人界の若き覇王。

自ら「竜王」を名乗り、日々現領主に圧力をかけていた。

そして現領主に次期領主の言質を取ると、次に考えたのは嫁である。

同衾する女は、そして同衾を希望する女は絶えなかったが、所詮平民の娘である。

そこで思い出したのが、先代領主の孫姉妹である。現領主とは親戚関係にあり、見目麗しく穏やかな性格とも言う。

ならば、その孫娘を嫁に取れば現領主とも姻戚になり、正式な禅定となるではないか。


現領主からの連絡を受けた孫娘のうち妹、アリサ嬢が俺に助けを求めて来た。

と言う訳だ。

何で俺かって?

竜人の領主になるには、彼らにとって神龍たるエンシェントドラゴンの神託を受ける必要がある。逆に言えば領主として認められた竜人は必要な時に必要な神託を領主に授ける。

そうして俺の存在を知り、アリサ嬢が自ら追いかけて来たと言う事だ。


グチャ。

「またまぁ、竜人ってのは下品な生き物なんだな。プロポーズするのに剣で威嚇しないと挨拶する勇気もないんだ。」

グチャ。

「何だ貴様は。」

グチャグチャ。

その竜王様とやらの背後に控えていた2人の竜人が剣を抜いた。

メキョキョ。

「ついでにプロポーズするのに1人じゃ出来なくて友達に付き添ってもらうとか、男としての肝っ玉も小さいな。極小だ。お前の男性器そのものだ。」


「は、たかが人間如きが俺に御大層な事を言う。」

剣を老人に突きつけたまま「竜王」様とやらが俺の顔を睨む。

「そりゃ、たかが人間如きに殺される中途半端な激弱糞竜人どもだからな。」

「は?馬鹿かきさま。人間如きが偉大なる竜人に勝てるとでも言うのか?」

「外見てみ。お前が連れてきた竜人、さっき全部叩き殺してきたから。あとは、ここに残るお前ら3人だけだぞ。」 

背後に控えていた2人の従者が、俺に剣を向けたまま窓から外を見る。

そこには、村を包囲していた重装歩兵が1人もいなかった。ただ、重装の黒い「お煎餅」が沢山転がっていただけ。

無論、俺が重力魔神に命令して全員厚みをゼロにした。

「………竜王様、外には誰も居ません……」

従者の1人が声をやっと絞り出した。


「あと、お前の城だっけ?あの谷底にあるちんまいの。城ごと潰してきた。ま、全員死んだろうな。」

「…お前…何をした…」

「ちょっと頼まれたからな。そこの娘さんの妹さんと、コイツに。」

昼からずっと持っているぼっこで窓を指すと

窓から金色に輝くドラゴンが顔を覗かせる。

ドラゴンの背には、ピヨちゃんを肩に乗せたうちのお嫁さんとアリサさんが乗っている。


「俺の使い魔だけどね。」

金色ドラゴンの姿に皆固まっている。

おいそこの従者。口は閉めた方がいいと思うよ。

「なななな何故だ。何故幻の神龍が人間如きに従っている!」

「俺が勝ったからな。タイマンで。」

何処の世界かは覚えてないけど、その世界を滅ぼそうとしていたのが、目の前にいる金色ドラゴンだった。

ドラゴン退治がその世界の神さまの願いだったから、5分で倒して3日3晩性的に攻め抜いた。

ドラゴンちゃんの身体が痙攣して気を失った時、俺はドラゴンちゃんとのテイムに成功した訳だ。

アリサ嬢の話から、幻の神龍とやらが「うちのエンシェントドラゴン」ではないかと思い、本人に聞いてみたら“同族の気まぐれ“との返答だったので、同族とやらに許可を取って竜人界に強制介入したわけだ。

あれま、竜王とやらに一歩も引かなかったお爺さんと姉さんが土下座してるよ。

「あとさ、その幻の神龍様とやらは、お前を領主とは認めんとさ。」


これが決定打だった。

「竜王」様は次期領主だからついてきた2人の従者が離れた。

どれだけ強かろうと、神龍に認められない竜人は領主にはなれない。


「…何故、何故こうなる?…」

「ん〜。急ぎ過ぎたのと、ここいらがお前さんの器の限界だったんだろ。戦にゃ強いが王の器でないが為自滅していった武将なんぞ、歴史をひっくり返しゃ幾らでもいる。」

「認められないな。認めたくないな。だからお前を殺し、神龍を殺し、俺が新しい竜人の世界を作り直す。」

その意気や良し。でも残念ながら、お前じゃ無理だ。弱いから。


剣を振り上げて俺に飛びかかったてきたので、とりあえず右手を剣ごと叩き斬ってみる。ぼっこで。

右手は剣ごと窓から外へ飛んでった。

窓を開けたのはうちのお嫁さん。

ナイス。とサムズアップ。

肘から先が無くなった自分の右手を呆然と眺める「竜王」様。ほれ、今は決闘中だぞ。

次に左手、右足、左足をぼっこで切り落とす。

たちまち達磨になった「当代最強の竜王様」をぼっこで窓から纏めて一本足打法で打ち出すと、最後はエンシェントドラゴンが焼き殺した。


「ありがとうございます。神龍様。そして貴方様。」

お爺さんが深々と頭を下げる。孫姉妹も。

「んじゃ。後始末は任せるわ。俺がアリサ嬢に頼まれたのは爺さん達の救援だけなんだ。あの竜王様とやらの一族は皆殺しにしちゃったからこれから大変だろうけど。」

あ、2人くらいいたな。あれどうなったかな。

「エンシェントドラゴンが踏み潰したわよ。」

相変わらず仕事に漏れが無いエンシェントドラゴンちゃんと、お嫁さんだった。

「俺はただの人間だし、エンシェントドラゴンちゃんは神龍とは同じ仲間だけど別人だから、これ以上竜人界に介入する事はないよ。」


竜人界の前領主は礼にと、アリサ嬢をくれようとしたけど、

「一応お嫁さんとは結婚して2日目で新婚なんだ。ゆんべ初夜だもん。お妾さんは拒まないけど、もう少し新婚生活を楽しませてくれ。一年くらい経って身体が空いてたら考えるよ。」 

そう言って俺達は鄙びた里を後にした。

…ここどこ?エンシェントドラゴンちゃんで飛んで来たからよくわからない。


「慎吾様さぁ、普通竜王とかって割とラスボスだと思うのよ。まさか半日もかけずに一族まとめて瞬殺するとか、絵物語でもあり得ないから。あのアリサさんだって普通ならばヒロイン枠で、私のライバルとかになるパターンだと思うの。」

丸々出番の無かったお嫁さんがブー垂れてる。色々使っちゃいけない単語を出してね。だってアイツら弱いし、時間取るだけ無駄じゃん。あ、弱いと言っても一応、あの竜王様とやらは貴女より腕は上だよ。

「普通の人間なら最初から竜人に敵いませんよう。なのになんで私の旦那様はエンシェントドラゴンを使役しているんでしょうか。しかもあんなに美人でおっぱいの大きい人。」


そりゃエンシェントドラゴンちゃんは、俺の妾だし。気を抜いていると俺ですら負ける性豪だもん。逝かせるのに3日かかったんだってば。

エンシェントドラゴンちゃんは、竜人の元領主が、アリサ嬢を俺の妾として差し出そうとした時に人化して見せた。

赤い長い髪と豊かな胸と、内臓入っているのか疑わしい括れた胴体を見せつけて、場に居た3人の女性達を絶望の縁に追い込んだ。

「我が主が求めた雌ならば何も言わんが、我が主に色目を使う雌は許さない。」

とだけ言うと、俺の耳たぶを甘噛みしたまま消えていった。妖艶過ぎる笑みを俺に見せつけて。

だからお前の愛撫は強烈過ぎるんだよ。新婚2晩目でお嫁さん壊したらどうすんだ。

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