第8話 森の中にて
「はあ、でも慎吾様は一角黒熊の気配がわかるんですね。本来なら熊が捕食している獣ですら、熊が気配を消したら全くわからないって猟師の間では、昔から言われているのに。」
「それは猟師が下手くそなんだね。草木の振動や虫の鳴き声が止まるから、すぐにわかる。なんなら、これだけの巨体が近寄って来て、地面の振動に気がつかない方がおかしい。」
「無理ですよう。人は賑やかなんですから。」
「無理では無い!」
俺がほんのちょいと声を荒げると、お嫁さんがビクッと肩を窄めて上目遣いでこっちを見る。ちょっと可愛い。
「剣術を目指す者ならば、全部身につけなさい。とりあえず足捌き、殺気察知。この二つだけで、大抵の奇襲攻め受けの対処が出来る様になる。」
「ほへぇ。」
「それに。」
肩で俺の耳の薄毛を突いて遊んでいるピヨちゃんを、手の動きだけで指先まで導いた。
「ピヨ?」
「ピヨちゃんが全く怯えていなかった。これは言うまでもなく、捕食される側の弱い野生動物の、俺に対する信頼感の表れだ。サユリさんが俺の弟子を名乗るならば、せめてここまでは精進しなさい。俺が居なくても、俺達が今後作っていく大切な仲間を守っていける様に。出来ないのなら、諦めて俺の妻だけを真っ当すれば良い。」
それを言うと、サユリの顔が引き締まった。
「私はたしかに百姓の出の素人剣術家だし、食べられなくなって慎吾様に泣きついた愚か者ですが、誇りは持っているつもりです。我が旦那様、我が師匠に見捨てられない限り、私は精進を続けます。」
うん、良く言った。
「なら、毎日素振り1000回な。」
「ぇ“」
器用に小声で驚いたお嫁さん。
「それも一本歯の下駄で。」
「ぇ“ぇ“」
「じゃないと、夜に可愛がってあげない。」
「えぇー!」
そっちの方が不満なのね。
という訳で、今日は街道を通らずに森の中をこのまま進みます。お嫁さんの足元は編み上げの黒いブーツ踵高め。
草履だと壊れちゃいそうだし。
お嫁さんは軽鎧を脱がされて、矢絣の着物に袴姿の防御力が頼りなくて不安不満そうだったけど、俺の好みで可愛い可愛いと愛でていたらすっかりご機嫌になって飛び跳ねている。
この辺は普通の15歳の少女だ。
「このまま何処まで行くんですか?」
「後ろからなぁ、誰かついてくんだ。」
熊を突き殺したぼっこを担いで、後ろ手で後方を指す。
先っぽにピヨちゃんが止まって遊んでいるけど。
「誰?」
「この国には知り合い居ないからなぁ。一応人間っぽいけど。」
「ぽい?」
「足音からすると二足歩行してる奴が1人。けど、人間とは限らないし。」
熊や猿は二足歩行するしね。
その通りだった。
茶色い髪を腰まで伸ばし、耳はまるで鰓の様に大きく広がり、ミニスカートのお尻からはちょこんと尻尾が覗く、でも見た目は仮装した女性に見える謎の人だった。
ピヨちゃんの様子は?
担いだぼっこを胸の前に持って来たけど、俺の顔を見て首を傾げている。信頼のありすぎというのもなんだね。
野生がほんの数刻で完全に無くなっちゃたよ。
お嫁さんの様子は?
俺の服を摘んで大口を開けている。
この人は何故これほどまでに、あんぐりしてる事が多いんだろう。
面白そうだから、人差し指を口の中に入れてみた。お嫁さんにちゅーちゅー吸われた。
すぽっと引っこ抜いて、その指をちゅーちゅー舐めてみた。
「うぎゃー!恥ずかしいから舐めないで下さい。」
「俺の指だもん。俺がいつ舐めようと構わないだろう。」
「だって今私が冗談で舐めたばかりなのに。」
「お前の口の中に好きなものを入れる権利を俺は持っている。今にもっと凄いものを咥えさせてやるから期待しとけよ。」
「普通、そこは覚悟しておけでは?」
「お前に損はさせないから。」
「なら良いです。」
良いんだ。
「で、あんたは誰だい?なんか竜みたいな姿してるけど。」
「慎吾様。竜人の方ですよ。」
「知らんもん。」
「はっ!」
あ、お嫁さんに馬鹿にされた。
これは意地悪ポイントに加算される。
「意地悪ポイントってなんですか?」
「ポイントか貯まれば貯まるほど、焦らしプレイの時間が長くなる。」
「出過ぎた口をきき過ぎましたぁ!」
即座に土下座するお嫁さん。ノリの良い人は好きですよ。
「!!だったら!」
「加算はあっても減点される事は有りません。」
「そんなぁ。」
「あの、そろそろ話しかけてもよろしいでしょうか?」
竜人さんとやらが俺達の夫婦漫才にツッコミを入れて来た。
というか、言葉が通じるんだ。
「私の名前はアリサと申します。見た通りの竜人です。」
だから竜人って何?黄色いドラゴンとは別種族?俺が知っている限り、鶴は人間に化けれたな。狸や狐もそうだったかな。
「慎吾様。元の起源が共通ですが、竜人さんは魔獣のドラゴンとは別進化を遂げた人に近い種族です。」
おや驚いた。この世界で進化論が通用しているとは。
「しからばさよう。私は竜人アリサ。竜人エラル族族長の娘です。」
また随分と時代がかった口調だね。うちのお嫁さんも知り合った時はサムライ口調だったな。5分で崩れたけど。
「エラル族!」
おお!お嫁さんが反応している。これは解説を期待…出来るのかな。うちのお嫁さん馬鹿だからなぁ。
「誰が馬鹿な嫁ですか!」
ほら、馬鹿だから話が逸れた。ここはアリサの話を聞くだけ聞いて断るルーティーンをだね。
「馬鹿な嫁でも賢い嫁でも構いませんが、出来れば私の話をば。」
「どうせ、私は馬鹿な田舎娘ですよお。幼年学校にも通わず、剣を振り回してましたから。」
「ふむ、アリサさんとおっしゃる。」
「自分の嫁の愚痴ぐらい亭主なら聞きなさい。」
そろそろ面倒くさい。ピヨちゃんを頭に乗せるとぼっこでお嫁さんの股座を突いた。
「ぶぎゃ。」
お嫁さんの会陰のツボを突いたら、涙目になって座り込んでしまった。
女の子座りして首がプルプル震えてる。
「あの、大丈夫なのですか?」
「大丈夫。(性的快感で)ちょっと腰を抜かしただけです。で、アリサさんとおっしゃる。」
「はあ。」
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