第6話 初夜

さっき結婚したばかりの、新しい俺のお嫁さんは常に俺の後方2メートルを歩いている。

折角の新しいお嫁さんなんだから話しかけたいんだけど、話難くてしょうがない。

「サユリさん?」

「何ですか?」

「そんな何処歩いてると話づらい。」

「見てるんです。」

「何を?」

「私が手に入れた夫の人と師匠の人をです。」

「見るのは構わないけど、俺つまんない。」

「私はさっきまでお腹空いてお腹空いて独りぼっちで、もうドラゴンに食べられるつもりだったんです。なのに今はもう大切な人が出来て一緒に歩いている事が嬉しいんです。だから貴方を見てたいんです。」

「俺もサユリを見てたいんだけどな。」

あ、サユリの顔から火が出た。この人、攻められると弱いな。


まだ明るい時間に次の街に入る事が出来た。

とはいえ、夕べ泊まった街とは賑やかさに雲泥の差がある。

昨日のアレは遊郭メインの街だったんだなぁ。

「このくらいが普通の街ですよ。この辺は国の辺境ですから。地元民用の街ですから。」

そうですか。

「宿もせいぜい2~3軒あればいい方かな。」

んならば。宿場のメインストリートを往復して、良さげの方の宿に泊まる事にした。


「いらっしゃいませ。」

おっちゃんが受付をしている。フロントと言うよりは番頭と言った方がよく似合う風貌をしている。

「夫婦者だ。金に糸目をつけないから静かな部屋を頼む。」

「でしたら離れがございます。お二人でしたら金貨1枚頂いていますが。」

「いいよ。ご飯はどうなっているかなぁ?」

「いずれもお部屋でお召し上がり頂けます。」

「分かった。一晩世話になる。」

「ありがとうございます。」


離れがございますの離れは、所謂「悪さ」をする専用の別棟らしい。

二間続きで、片方は腰が沈んで立ち上がるにも億劫なソファと、何やら白いクロスのかかったテーブル。

もう片方は寝室になっていて、部屋の面積の殆どをベッドが占めていた。

何人寝れるのよ。

まぁ、何人もで寝るんだろうね。

うちのお嫁さんがベッドを見て硬直しちゃった。

サユリさんはかなりのむっつりスケベらしいので、色々妄想しちゃったんだろう。色々ね。


それなりの晩御飯を食べて(サユリさんは感激してたけど、この人貧乏舌だから)備え付けのお風呂に入り、ベッドに入った。

お嫁さんはガチガチに硬直してる。でも、大人しく全部脱いだ様で、ベッドサイドの籠に着ていた物がきちんと畳まれて全部入っていた。

「あのその、優しく、優しくお願いします。」

「優しくするのはやぶさかでないけど。」

「や、やぶさかでないって最初から頑張っちゃうつもりなんですか?」

「ああいや、花嫁さんを初夜でぶっ壊すつもりはないけど、覗かれてんなこの部屋。」

「え“」


単なる覗きなら金取って(一人金貨一枚)で見せても構わないんだけど。

「私が構います!」

気に食わないのは、奴らが殺気を纏っている事なんだよな。それも濃密な。


「君って何処かの悪い組織の美人局だったりする?」

「私はただの百姓女ですよう。剣術馬鹿の。なんなら今すぐ試してくれれば、もれなく血が出ますよう。」

「ならば何処かで恨みを買う様な大暴れをしたとか?」

「私が剣を奮ったのは、実家の案山子と野の猪と狼だけです。」

「そんなんでドラゴンに立ち向かうつもりだったんかい。」

「だからあの時はお腹空いてたし、ヤケクソだったの!」

ですか。まぁ、新婚夫婦の初夜を邪魔されるのは気に食わないので、退場して頂きますけど。




翌朝、俺はお嫁さんをお姫様抱っこで街道を歩いていた。

「どうしてこうなるの?」

それは俺が聞きたい。サユリちゃんが腰を抜かしたのでこうなった。

他にもおんぶやら、ファイヤーマンキャリーやら、足首持って引きずるとか案を出したのだけど、抱っこでとリクエストされたので。

「違うわよ。幾ら初めてとは言え、私がこんなに弱いとは思わなかった。」

そりゃ人それぞれだ。ましてや俺は、エルフやらドワーフやら魔族やらとも渡り合った、経験値カンストの百戦錬磨なんだから、土地の小娘如き硝子細工を操るみたいにそうッと触れててもこうなるわ。

魔族の女なんか、そりゃもう凄かったんだぞ。よく勝てたな俺。


因みに賊はもういない。

お嫁さんの初物の、少し小ぶりだけど白い綺麗なおっぱいを見てテンションが上がったので、手加減が出来なかった。

成層圏を超えて吹き飛ばしちゃったので、今頃電離層をうろちょろしてるだろ。


あと、何故か宿の人間が誰も居なかった。

おかげでまた朝飯を食い損ねた。

他の客が困って宿内を歩き回っていたけど、先払いしてる俺達には関係ないし。


「それで、私は何故こんな格好をしているんですか?」

お嫁さんを素っ裸で抱き上げる訳にもいかないので、俺のシュミの格好をして貰った、というか腰が抜けて動けないのを良い事に勝手に着せた。

昨日は羽織袴と言ったけど、それじゃあ噺家になっちゃうから、矢絣の着物に紺の袴に変更。

所謂はいからさんだ。足元は白い足袋。

袴から覗く白い足袋は、なんとも背徳感をそそる。良いね。良いね。その内お願いしよう。

「あと、おっぱいにも被せをして貰うから。サラシというのもいいけど、ちゃんとしないと俺のおっぱいが垂れちゃう。」

「このおっぱいは、私のおっぱいです。」


白い足袋ならば白い草履というのもいいし、はいからさんを追求するならば編み上げのブーツというのもいい。

すっかり街道を旅する人の見せ物になって、顔を俺の胸に埋めるお嫁さんの柔らかい肢体を両手で味わいながら、本当の夫婦になった俺達は隣の街に向かった。

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