第5話 嫁事情
実は、俺がワタリになってからは何回か結婚している。俺は常に旅人という訳ではなく、神様の依頼内容によっては何年も定住する事があるからだ。
俺は別に聖人君子では無い。女が抱きたくなったら、商売女を買うし、そこらにいるお姉ちゃんを口説く。
中にはそのまま同居に至った女性もいた訳だ。
処女処女言ってるけど、それこそ処女を開発して自分好みに身体と性格をカスタマイズした事は一度や二度では無い。
だって俺は(どうやら)死ぬ事が出来なそうだし、ワタリから抜け出す事も出来なそうだ。
その見返りとして神様からは金と女と能力に不自由しない契約を結んでいる訳だ。
でないと、終わりのない旅に俺、おかしくなるもんね。ストレス発散の為の、ありとあらゆる手段を俺は持っている訳だよ。
その世界の仕事が片付いた時、大体の場合は妻と子供及び周辺の者の記憶を操作して、俺が大昔に死んだ事にしている。
中には例外もあり、とある世界では妾腹の姫として冷遇されていた王族を王の懇願で引き取り、辺境伯として王女と10年近い結婚生活を送った事もある。
その時は精力的に子作りをして家族を増やし、領内の殖産興業及び教育事業に力を入れて、王国そのものよりも俺領の勢力を盛んにしてみた。
で、俺がその世界を去る時は、我が領内に神の祝福をたっぷり掛けた。
義父たる王と妻たる王女には最初から俺が旅人であり、いつか旅立つ事を言い含めていたし、神の祝福は俺の子供達まではかかる様にしていた。
つまり、孫は知らん。3代目で勢力が広がるのか滅亡するのかが分かるのはどこの世界でも同じだ。
目の前で頭を下げている少女は、長い黒髪も綺麗だし真っ白な頸もなんとも言えない色香が漂っている。
単純にやりたいかと言われれば、やりたいと答える。
子供を作らず旅夫婦で居れば良い。
どうせ今までの世界で戸籍のある世界はなかったし、いつも一緒にいれば、それは夫婦だから。
「貴女を嫁にするのは構わないけどさ。」
「しししし失礼した。私の名はサユリ。名もない農民の出だ。幼い頃から畑を耕すより剣を振る方が好きだった。」
「なるほど、男勝りで鍬一つ振り上げない馬鹿娘か。
おおかた親に勘当されて、武者修行と言いつつ何とは無しに冒険者にでもなったのは良いけど、結局は食い詰めてなんならドラゴン相手に剣の一つも振るいながら殺されても、もうそろそろいいかな。そしたら変な男がドラゴンを瞬殺しちゃって、その絡繰なり技なりを知ろうと後をつけてみたものの、特に考えがあった訳でなく、腹も減ったしなんなら身体を代償に飯にありつこうかな。待てよ、弟子入りするのも良いな。いっそこの男の妻になれば飯も技も手に入れられるかも。うん、だとしたらこのおぼこい身体が武器になる。そうしよう。決めた!
って事かな?」
ほらまた、口が開けっぱなしになってる。
「………95点……」
「あとの5点は?」
「……おぼこい故に、貴方の後ろ姿で色々想像してたら色々と身体の方がまずい事に……私は、その、一人で…」
ただのど助平なサムライガールだった。
まぁとりあえず飯にしよう。
異次元ボックスから好きなものを取り出してもよかったのだけど、さっきあって今プロポーズされた少女に何やらとバラすのもアレなので、手頃な石を拾って空に投げた。
鷲の様な大型の鳥が頭上に落ちて来たので、右手で掴むと風の魔法で毛をむしり、ナイフで内臓を処理して、火の魔法で炙った。
ここまで10分かからない。
さっき俺のお嫁さんになった馬鹿娘サユリはポカンと口を開けたままだった。
俺の新しいお嫁さんは一応美少女と言っていいのだけど、トンマな顔をする時間が多すぎて困る。
「いやいやいやいやいやいやいやいや。無いから。
普通なら弓矢で一日かけて鳥を追い、捕まえた手で羽根を剥き血抜きをして内臓を抜き、焚火や調理場で調理して美味しく食べるから。猟から料理まで片手で10分で終わっちゃう人なんかいないから。」
「貴女の旦那様はしちゃう人だから。早く慣れないと口をポカンと開けたまま出産しちゃうから。」
「…アッチ早いの?」
「夕べ花魁一人、気絶して、腰抜けて朝立ち上がれなくなるまで遊んで、迷惑料を払ったけど。」
俺自身は何もしてないけどね。
「…気絶ってしちゃうの?」
「逝きっぱなしで合間開けないと、身体と精神が保たないみたいね。俺は攻める方だから受ける方の感覚はわからない。」
「えとあのその。改めて私は一人以外はまるっきり経験ないから、その、慣れるまではお手柔らかに。」
「別にここで今すぐ開戦する訳じゃあないんだ。ほら、良い匂いがしてきたから飯にしよう。考えてみたら俺は朝飯を食って無い。」
「私はその、一昨日の昼から、その。」
「ああ食え食え。どうせ夫婦二人じゃ食べきれねぇだろ。」
「ふ、夫婦って…」
「結婚しようって言ってきたの貴女だし、夜の生活を想像して一人で興奮してるのも貴女だし。」
「…なんで貴方は平然としてるのよ…」
おお、ジト目だ。俺の新しいお嫁さんは表情豊かな様だ。これはからかい甲斐がある。
「んー。俺の新しいお嫁さんになりたいって言う人は一応可愛いし、なんか企んでても企んでなくても面白い事になりそうだし、処女なら処女で色々楽しんじゃうつもりだし、身のこなしを見てれば弟子として育てても面白くなりそうだし。」
「かかかかかか可愛いとか…テレテレ。そんな事言われた事ない。それに、私一応女だから色々興味もある。弟子にしてくれるなら望外過ぎて、私もう私もう。」
大した口説き文句も入ってないんだけど、耐性がないんだろう。
まだ、なぁ〜んにもしてないんだから。そこで両足をもじもじして真っ赤にならないの。
ほら、鳥が焼けた。食うよ。
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