第4話 嫁入り志願

宵の口だと言うのに、明らかに家庭の主婦が雑談をしながら買い物をしている。

宵の口って言っても、普通ならばもう夕食を終えてる時間だと思う。

「この街は宿場町と一緒に遊郭もやってるからね。ほぼ一日中動いているんだよ。」

さっきの主婦も花魁か?飯盛女か?

「まさか、ありゃ普通の何処かの母ちゃんだ。」

それは助かる。あれが夜出てきたら萎んじゃうよ。

「で、どんな宿をご所望だね。」

「清潔ならどこでもいいよ。」

「なら、安宿よりも高い方が良いな。」

親父が案内してくれたのは、紅の曙亭。

「この街で二番目に高い宿だ。」

「ふむふむ。」

二階建ての木製建物。二階にはバルコニーが設置されて、かなり明るい灯りがガラス窓を通し亭見えている。昨日の宿が薄暗いランタンだった事からも、アレよりもマシと言う事はわかる。


「本当に女は要らないのかい?」

「うん。特に必要ない。」

「なんならうちの娘を世話すんぞ。今年学校に入ったばかり。男っ気のないホカホカの処女だ。」

「昨日の宿でも処女を差し出す奴がいたけど、この国の処女ってのは随分安く手に入るらしいな。」

「情けねえ話だけどな。俺達はそんなに裕福じゃないんだ。息子はともかく、娘なんざ家業の足しにもならない。だったら、お前さんみたいな強くて金持ちな男に妾でも良いから押し付けたい。」

「一晩だけってんなら良いけどさ。俺は旅人だ。旅の途中で、生理が始まりました生理が来なくなりました妊娠したみたいですお父さんって言われても困る。」

「ふーむ。一晩だけなら良いのか?」

「俺は精気が強いみたいで、一発で妊娠させちゃうぞ。3ヶ月先なんか俺がどこいるかわからない。」

「養育費込みで払ってくれるなら、一晩でも二晩でも幾らでも好きに可愛がっていいぞ。」

「娘が聞いたらグレるな。」

馬鹿話を楽しんでいたけど、馬に引っ張られて親父は帰宅の途に着いた。馬に呆れられる飼い主。


で、俺は受付の黒ぶちメガネなお姉ちゃんに話かけた。

「一晩空いているか?」

「高い方ならね。」

「安い方とどう違うんだ?」

「安い方は女がつかない。」

「高い方で構わないが女は要らないなぁ。」

「そりゃ困る。男性へのサービス代でこの宿と女は潤っているんだから。」

宿じゃなく遊郭の方じゃねぇか。あの親父。

「分かった。女代も払うよ。ただし女は抜きだ。代わりに牛蒡料理を食わせてくれ。」

「なんで牛蒡?」

「さっき、いや、なんとなくだ。」

「牛蒡料理くらい厨房に頼めば幾らでも用意できるけどさ、本当にアッチの方は良いのかい。もしかして男専とか?」

「いや、普通に女好きだけどさ、明日は明日で忙しいからとっとと寝たいだけだよ。土地の者に清潔な宿と聞いてきたんだ。綺麗なベッドがあれはそれで良い。」

「なんだいなんだい。だったらあんたは寝てるだけで良いよ。あたしが全部してやるから。というか、あたしにやらせろ。あんたとやりたい。」

なんだ、お姉ちゃんがお相手してくれるのか。

でも残念。

「次に来た時に頼むわ。その時には死ぬ死ぬ言わせてやるから。」

「あんたのアッチ強そうだからね。あたしにはわかるんだ。後で勝手に忍び込んで行くから覚悟しときな。」

いや、俺は寝たいんだが。神様がいつコンタクトとってくるかわからないし。

金貨2枚を払うとさっさと部屋に向かう事にする。


結果的に言うと、お姉ちゃんは忍び込んで来た。

俺は仰向けのまま、パンツを剥かれたまま、何もしなかったが、何処かで習った房中術を試してみたら、お姉ちゃんは白目を剥いてあっという間に気絶してしまった。

俺の方はちっともスッキリしてないままだぞ。仕方なくがない、布団代わりに「繋がったままのお姉ちゃんを被って」寝る事にした。

神様はまだ来そうにない。

あと、牛蒡料理はイマイチだった。きんぴらが食べたいなぁ。


翌朝、割と元気に目が覚めた。

お姉ちゃんはいびきをかいてまだ寝てた。そういえば俺の習った房中術って、相手に強烈な性的快感を与える代わりに、相手の体力や精力を吸収出来ちゃうんだっけ。お姉ちゃんを揺り起こした。

じゃないとパンツが履けない。

「おい、出てくぞ。」

「次もあたしを指名しないと串であそこの穴を刺すんだからね。」

物騒なツンデレお姉ちゃんだな。大体あんたを指名してないし。 

腰が抜けて立たなーいと騒ぐお姉ちゃんの頭にお姉ちゃんのピンクパンツを被せて部屋を出た。

チェックアウトの時にフロントにいたオッさんに、

「相方が起きないくらい遊んじゃたから、迷惑料だよ。」

と金貨をもう2枚渡して街に出た。

「あれに勝っちゃうなんて、兄さんは化け物か?」

なんかケッタイな評価が聞こえた気がしたけど

さて、今日はどうしよう。



宿場町と言うだけあって、大きな街道が貫いている。

あ、朝飯食い忘れた。まぁ姉ちゃんが片付けてくれるだろう。俺が部屋を出る時は頭にパンツを被ったまま、起き上がれなーいと手の代わりに足を振ってくれた愉快な姉ちゃんだったな。正面から足を振ったから、両足の真ん中が丸見えだったけど。

などと回想していると、周りからどよめきと悲鳴が巻き上げる。

なんだい?暴馬かな。時代劇だとそんな場面が…しまった見た事なかった。


「空だ空。空を見ろ。」

分かりやすい説明セリフを叫んで、冒険者と思しき兄ちゃんが街に逃げて行く。

ふと気がついたら、老若男女、旅人が街まで逆走していく。

俺は素直なので、兄ちゃんの忠告に従って空を見上げた。

「ありゃなんだい?なんか黄色い羽根の生えた爬虫類が飛んでるように見える。」

わざわざ声を出して質問してみた。けど、逃げる事に夢中で、誰も相手にしてくんない。寂しい。


「あれは黄色ドラゴンと言って下級の竜種です。」

あれ?返事をしてくれた人がいる。

顔を声の方に向けると、頭をポニーに結んだ女の子(どう見てもまだ10代)が刀の鯉口を切って、同じく上空を睨んでいる。

惜しい!

「何が惜しいんですか?」

彼女は上空から目を離さず返答してくる。

「うん、その風体ならばそんな軽鎧よりは似合う服があるなぁと思ったのが、どうも口に出ちゃったらしい。」

「随分と軽薄な方の様ですが、一刻も早い避難をお勧めします。あのドラゴンは火を吹きます故。」

テンプレ通り分かりやすい竜だった。 

「微力ながら私が時間を稼ぎます。貴方は直ぐに逃げて…って何をなさっているんですか。早く逃げなさい。」

「ん?丁度いい石を探しているんだ。」

「貴方馬鹿ですか? !!。 口が膨らんでる!火が来ます!私の背後に隠れて!」

「これくらいかなぁ。ほいっと。」

「へ?」

ああああ。せっかく俺か認定するのもやぶさかでは無い美少女の顔が面白い事になってる。

格好といい容姿といい、80点は挙げられる美少女なのに、何かあちこち残念だ。

「ああああ貴方、何をしたんですか?」

「ん?」

黄色い爬虫類がふらふらと墜落してきた。言うまでもなく、今拾った石で竜の脳天を貫通させたのだ。

脳みそが頭にあって良かった。

昔の怪獣図鑑だと変な所にある設定の怪獣がいたからなあ。

「んじゃ、あと宜しく。アレもう死んでんだろうし。」

「いやいやいやいやいやいやいやいや。あり得ないし。今、石で竜を撃墜したみたいに見えたけど、気のせいだし。貴方何者だし?」

言葉使いがギャル化してるし。なんだよ、磨けば剣術美少女設定なりそうなのに。残念!残念少女!

「何か失礼な事を考えてませんか?」

いやいやいやいやいやいや。

「私の真似をしない!」


現場をほったらかして旅を再開する。

だって何やら人が集まって来ちゃったんだもん。

でも困ったなぁ。案の定と言うか、サムライ少女が跡をつけてくる。

よくあるパターンだと、弟子入り志願か敵討ちの手助けか。 


しばらく歩いて街道から人影が消えた所で、娘が俺を追い抜いて頭を下げて来た。

「お願いがあります。私を嫁に貰って下さい。」

「いいよ。」

「へ?あ、あのせめて理由を聞くとか、一度は断るけどか。」

なんでこの娘は少し意表を付くと間抜けになるのだろう。残念!

「嫁にすんのは構わないけど一つ条件がある!」

「ななな何でしょう。私はまだ処女なので夜の方は優しくして貰えれば、何でも受け入れますが。」

また処女をくれる人だった。

「俺の条件はただ一つ!俺の好きな服装でいる事だ!

(具体的に羽織袴で、語尾にござるをつけてくれると俺の性癖のど真ん中だ)。」

「あの、羽織袴って何ですか?」

しまった。考え事がまた言葉に出てた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る