疲れを癒す、君とのキス [現代ファンタジー/癒し/ケモノ/妖怪]
疲れて重い足を引き摺るように動かし、家へ向かう。
時折上司の愚痴なんかを呟いて。
ただひたすらに、暖かい家へ帰ることに全力を注ぐ。
「ただいまー」
「佳奈ちゃん、おかえりー」
無事家に帰ると、そこで待っているのは一匹の犬。
愛する我が愛犬、ロロである。
「お疲れ様」
「ありがと。もう限界で眠いのよね……」
「ここで寝ないよ〜? せめて顔だけでも洗っておいで」
「は〜い」
我が家の愛犬は他とは違う。
人の姿に変われるのだ。
まぁ、最初は当然驚いたけれど、慣れれば気にならないし、留守の間家事をやってくれてたりして。
変われるとわかった前とは逆転し、むしろ私が世話をされている始末。
しかしこの状況は割と楽しく、案外悪くはないので、やめるつもりも犬に戻れと言うつもりもない。
「あ〜サッパリした」
「お化粧取らないで寝ちゃうと、お肌に悪いんでしょ?」
そんなことどこで覚えた? なんて思って驚いた顔をすると、この前佳奈ちゃんが言ってたと帰ってくる。
いつ言ったっけ? と思いつつ、そういえば言ったようななんてうろ覚えの記憶を探った。
「ロロの言う通り。お化粧はね、お肌に悪いの。しかもね〜、面倒なんだよね……。化粧するのも、落とすのも」
「じゃぁ、なんでするの?」
「女の子が強くなれる武器だからよ!」
社会人にとって化粧はマナー。
でも、中学や高校では化粧はご法度。
こんな矛盾だらけの社会でも、化粧は女に勇気と力くれる優れものだ。
私にとってもそうであるように。
「女の子って大変なんだね。犬のメスもそうなのかな?」
「う〜ん、どうなんだろ? でも化粧はしなくても、身だしなみは気をつけてるんじゃないかな。毛繕いとか」
動物の中でも、身だしなみに気をつける子は多いと聞く。
メス、つまり女の子たちは割と気をつけているのではないだろうか、と言う推測である。
私はいまいちその辺りには詳しくないので、なんともいえない。
動物間のことだから、こういうのはロロの方が詳しいのではないだろうか。
「そうかも。俺もたまにやる」
「ロロは何もしなくてもカッコいいよ〜!」
わしゃわしゃと、ロロの頭を両手で撫でる。
我が家の愛犬はとってもカッコいい。
そしてめっちゃ可愛い。
流石に他所様に、この姿を堂々と見せながら『愛犬です』とは言い難い。
というか信じてもらえないだろうな。
少し残念な気もするが、独り占めできると思えば気分は良いので気にしてない。
家に男が居ると騒がれては面倒なので、近所の人には従兄弟の男の子と一緒に暮らしていると説明してある。
親戚とはいえ男女が一つ屋根の下で暮らすのだ。
大丈夫かと聞いてくる人はいたが、まぁ大丈夫だろうと返しておいた。
まぁまず、従兄弟なんていないんだけどね。
「もう寝るの?」
「うん。流石に今日は疲れたからね」
「いつもより帰ってくるの遅かったもんね」
「でも、明日、明後日は休みだから、いっぱい遊ぼうね! お散歩行こう!」
「やったぁ!」
あ〜……可愛い……。天使がいる……。
就寝前の眠気と合わさって浄化されそう。
今夜はいい夢が見れそうだわ。
「佳奈ちゃん。寝るなら、いつものしよ!」
「いつもの……あぁ! あれね」
ロロの言う『いつもの』とは、就寝前に毎回やっていることだ。
犬の頃か毎晩やっている。
お互いがお互いを大好きだという証明と、幸せを願ったもの。
「おやすみ。ロロ」
「おやすみなさい。佳奈ちゃん」
お互いの鼻と鼻をくっつける。
犬でいう挨拶なのだが、一般には『鼻キス』ともいう、とても可愛らしいものだ。
疲れた体に、カッコよくて可愛い愛犬の笑顔と、愛らしい鼻キス。
あぁ、今日も幸せだ。
明日がいい日でありますように。
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