《八話》喪失②

「来たか……その様子を見ると、今日はお前らだけのようだな。死人が出たと噂に聞いたが……友人だったのか?」

「友人でなくても、知人が突然亡くなればおかしくはなりますよ」


 どんよりした眼差しのセオを見てもマルバは肩を竦めるだけだった。


「そうか? そうかも知れんな……。だが、訓練はこれ位では止まらん。分かっているだろうが次の判定はニ日後だ。それまでにレベルを10までに上げておけ……そろそろ要領もつかめてきた頃だろう?」

「血も涙もないな、あんたらは……」


 セオは悔しそうに睨んだが、マルバは意にも介さず笑い、手を振った。


「さて、俺も用事があってな……お前達ばかりには構っていられん、もう行け」

「待って下さい……」


 ――聞いておかなければならない事がある。そう思ったアキは、背を向けようとしたマルバを呼び止めた。

 

「何だ、聞きたいことでもあるのか?」

「昨日……労役を課されることになった班があったんじゃないですか?」

「もっと直接的に聞いたらどうなんだ? 自殺者の所属していた班……それが労役を受けた班だと確認したいんだろう。その通りだ」

「……一体彼らに何をさせたんです……?」

「担当の監督官では無いから詳しい事は知らん。だが、ろくな仕事で無いとはいっておこう。死体の処理、新薬の実験動物替わり、奴隷代わりの殺人ショーや、売春宿に放り込まれる奴もいる。酷いもんだろ、ハハ……」

「――ふざけんな!」

「馬鹿ッ! ……やめろ」


――白刃が風を切った。飛び出そうとしたセオを横合いから組み付いて、地面に倒す。


斬撃が彼の髪を数本飛ばして通り過ぎる……牽制なのか本気か微妙な所だ。

細身の長剣の方の、切れ味の良さそうな刃をしっかりと見せつけるようにしてからマルバは鞘に戻す。

目の前でくるくると円を描くように振られた切っ先は金属では無いのかやや透けており、セオの喉は生唾を飲み込むように動いていた。


「良い判断だ、トカゲの。そっちの坊主も少しは身に染みたか? 《陰海ウィゲル》の中じゃどうか知らんが、こっちじゃあ俺達の方がまだまだ上だ。もう少し腕を上げてから突っかかって来ることだな。結局、《ケスラ》が有る限りどうにもならんわけだがな」

「くそっ……お前ら。何なんだよっ!」

「セオ、頭を冷やせ……!」


 苛立ちを地面にぶつけたセオは、そのまま立ち上がるとアキの顔も見ずに一方的に言い捨てて走り出す。


「……夕方までには戻るっ。少し一人にさせてくれ!」


 こうして一人に残されたアキは途方に暮れた。

 

「ふん……貴様も苦労しそうだな。丁度いい……一度差しで話をしたかったところだ。座れ」


 体のいい口実だったのか、用事があると言っていたはずのマルバはその場に座り込み、懐から取り出したのは……酒瓶だ。

 アルコール臭に顔をしかめるアキだったが、少しでも情報を得ようと同じようにしゃがみこむ。


「お前らも、学校だの学院だのに配属されていた奴らなんだろう? カイシャインとか言う奴らよりかは明らかに年代が若いしな。こちらとしては軍務経験者が欲しかったんだがな……そうそううまくはいかんもんだ」


 やはり、こいつらはこちらの世界の事をある程度把握している。明らかに複数の人間がこちらに訪れている口ぶりだ。


「教えてくれませんか。僕らはこれから何をさせられるんです? 魔物と戦ってLVを上げて、それで、ウィゲルとやらを攻略させる? 何というか漠然とし過ぎてて、しかも、やり方が随分と……言っては何ですがお粗末な感じがする。もっとうまく扱える方法もあるんじゃないんですか? わざわざ士気を下げるような真似をして僕らを追い詰めて……追い詰めて?」


 追い詰める……そのこと自体が目的の一部である可能性もあるのか?

 その思考を断つように、赤くなったマルバが膝を叩く音だ。


「ハッハッ、お前は中々聡いな……流石は《型主フィース》と言った所なのか?」

「《型主フィース》……?」

「お前達のような奴らの中に現れる、特別製の事さ。ウォルナンド極導――銀髪で仮面の人が言ってたろう、今年は豊作だって。ありゃお前らの事さ。お前ともう一人……」


 マルバはフードの上から頭を掻きながら思い出したように指を立てる。


「あぁ……ナミ? ミナミ? ミナ……ト、そうミナトだ。そいつもお前と同じ《型主フィース》のはずだ」

「え……でもあいつは、僕みたいに変化したわけじゃ……!」

「さあなぁ。俺も詳しくはよく知らんよ……数が多い訳じゃないから、この目で見たのは初めてなんだ。稀に後天的に変じる場合もあると聞くし、何らかの法則があるのかも知れんがな」


 港と同一視されたことに気分を害したアキの目付きは鋭く尖り、やや呂律が怪しくなったマルバは、酒臭い息を吐き出しながら嗤う。


「おっかねえなぁ、人を食い殺しちまいそうな目をしてるぞ? 《型主フィース》に関しては、個体数が少ないのと、確認されたのがここ数十年……《ケスラ》が造られてからの話だからな……。大したことは分かっていない。特記事項にて《型主フィース》だと確認された者は、上手く育てば大きな戦力になる、そんな程度のもんだ。目が掛けられてんのはそう言う訳さ」


 上手く育たなかった場合……それが以前ウォルナンドが言っていた、転移者達の反乱だったのだろうが、そんな事はどうでも良い。


「前に言っていた、晰人会導士団リムシャール・マイズって言うのは、どういう団体なんです? 国の軍隊みたいな、そんな感じですか?」

「よく覚えていたなぁ。晰人会導士団リムシャール・マイズってのは、この世界の各国の垣根を越えて跨る、魔導士達の大きな団体だ。だが一組織と言っても侮るなよ。その戦力は各国の国軍と比較しても遜色ない。だがこの組織の存在意義は、あくまで外敵……もっと言ってしまえば《紫輪ニルン》からの侵略を止める事にある。その為だけに作られた組織なのさ」


 マルバは灰ローブに取り付けられた肩章を見せてくれた。世界地図らしきものと重なる、各頂点に違う色があしらわれた五芒星。そして中央には一際大きく輝く金色の星。


「我々は今現在アーレ=メリアにあるほぼ全ての国での活動を許されている代わりに、その活動内容は魔物の駆除と《クァジ》の攻略に限定されている。お前らは初期訓練チュートリアルが終わり次第、各地に現出した残り八つの《クァジ》のいずれかの攻略へと送り出される。そして、その深奥にある鍵を取得すれば、《クァジ》はその姿を閉じる……ここまでは確認済みだ。そして、全て揃えることができれば、大陸からあの忌々しい黒い裂け目はすべて無くなり……」

「……? それで?」


 途切れたマルバの言葉のその先は結局、明らかにされなかった。

 彼は張り詰めた息をふっと抜くと、おどけて手を広げた。


「どうなるのかね。《紫輪ニルン》が閉じ魔物の出現が止まるとか、神様が降臨して全ての人間に救いをもたらすとか、色々言われているがね。俺らみたいな使い走り程度には知らされんのさ。そういう事はな」


 続いて彼は、導士団マイズの構成を説明してくれた。


「この組織、晰人会導士団リムシャール・マイズのトップは五人の至導と呼ばれる御方たちだ。それぞれが五つの大国の方面の《裂》を担当しているが、この方達は総本部から殆ど姿を現わさない。実質的な指揮を執っているのが、その下に着くウォルナンド殿のような極導達だな。彼が今、お前達が担当することになるア=カヅル国方面の司令官ということになる。そしてその下に俺達上導や、他の者が付いている」


 マルバ曰く、その下は、上導、中導、下導、未達(見習い)と言う順番で階級が別れており、一応彼がこの訓練部隊の責任者ということになるようだ。

 アキ達は訓練終了後、下導扱いとして、導士団マイズへ編入されるらしい。


「残念なことに階級は上がらんが、その代わり貴様らにはIPという点数が支給される。その辺りは訓練終了後、配属された部署で説明を受けるからその時に聞け」


 情報欄にも確かにその項目はある。 

 何かの物資や権利と引き換えにできる点数なのだろう。


 戦ってIPとやらを溜め、自分の生活水準を維持する……まるで傭兵の様な生活だ。

 それから抜け出そうとするならば、全ての元凶を消さなければならない。


「もしその……全てを《裂》とか言うのを閉鎖して魔物の影響が無くなったら、僕らはどうなるんです? 元の世界に還してもらえるんですか?」

「それもまた、俺達の知る所ではない。そもそんな事になれば導士団マイズ自体の存在意義も無くなり、俺達もどうなるか分からんのだ。まあ目的が無いと士気の維持もままならんし、何らかの対価は用意して貰えるだろうがな。だが、甘くは見るなよ。今期……お前らの召喚で都合何度目か教えてやる」


 マルバは厭らしい笑みを浮かべる。


「二百七十九回目だ。《紫輪ニルン》が確認されてから二百年余りの間、通算で七千三百五十名余りが召喚され、この世界でその命を散らし……あるいは今も身を賭して《クァジ》の攻略に挑んでいる。第二百七十九期・界渡人攻略隊第五班が、お前らの呼称になるだろう、無事訓練が終わればな。……召喚の儀式は年に二度行われるから、お前達が死ななければその内後輩を拝むことになるかも知れんぞ」


 後輩云々はどうでも良いが、二百七十九期……延べ七千人以上の人間がこの世界に召喚されているというのは、アキからすれば驚くべき事実だった。

 確率の面からしても絶望的に思えたが、閉じ方を知っているということは、それを成し遂げた人間がいたということ……興味本位だが聞いてみることにする。


「……今までいくつ、それを閉じることが出来たんですか?」

「はは、脅かし過ぎたか。だが、全く望みが無い訳じゃない……特にお前にとっては。ここ十数年の間にも一つの裂が閉鎖されているしな。今閉じられているのは一番と、三番だったか……それを為したのがお前みたいな《型主フィース》が率いてた班だったんだ。そういう意味でお前さんはまだ可能性が有る方だろう?」


 ――たった二つ。


 先が思いやられる言葉だった。

 まだこの世界でうまく馴染みながら生きていくことの方が現実的だ。

 気分が明るくなるような材料は得られず、うんざりして来たアキは情報を整理しながら天幕に戻ろうと腰を上げた。その背中にマルバが声を掛ける。


「一つ忠告をしておこう。お前にはもしかすると他国の担当官やら、異界人解析部やらから横槍……引き抜きが入るかも知れんが、全て断っておけ。良いように言われるが、実際は体のいい実験動物として扱われるのが落ちだ。それにウォルナンド極導は従わないものに関して容赦せん方だ。地の果てまで追い詰められて消されるぞ」

「はあ……それは随分と有難い忠告で。涙が出そうですよ……」


 アキはそっと目を瞑り、口の後ろの丸い穴――形の変わった耳を両手で塞いだ。

 


「――っ! ふ~……アキ君でしたか。お帰りなさい……ごめんなさい、慣れるまでにはまだ時間がかかりそうです」


 天幕をくぐったアキに、カホは悲鳴を出しかけて、胸をなでおろす。

 今の自分は怪人トカゲ男なのだ……部屋の中に入って来たら、普通は身の危険を感じるだろうと、思い、配慮の足りなさを恥じる。


「……いいさ、仕方ない」


 カホの膝の上、顔まで毛布をかぶって寝ているイツミが見えた。

 身じろぎすらしない。


 親しい友の死――その衝撃は間違いなく彼女の心に暗い影を落とした。

 この先彼女が、戦って行けるのかすらわからない。あるいは自暴自棄に班員を巻き込んでしまうことすらあり得る。


「セオ君は?」

「ちょっと、色々あってね……日暮れまでには戻るだろう。聞いていた通り判定日は二日後だから、今日一日は自由にしよう」


 カホに事情を説明し、アキは定位置に座り込んでしばしマルバの話を整理しようとした。

 だが、もの言いたげなカホの視線を無視することが出来ずに、渋々言葉を掛ける。


「何? 言いたいことが有るならはっきり言ってくれ」

「いえ、その。私も気が紛れなくて……少しだけ話に付き合って下さい。アキ君はどうしてそんなに落ち着いていられるんです? あんな風に……人が」

「別に、平気だって訳じゃ無い。それに、それを言うなら榎木だってそうだろ」

「……思い出させないで下さいよ」


 カホは背筋をぶるりと震わせた。


「死ぬとか……考えるのもっと先の事だと思ってました。大学で勉強して、働くようになって……結婚とか、して子供ができたりして、歳をとって。当たり前の毎日を過ごしていったずっと先に最後の結末としてそれがあるのかなって」


 身じろいだイツミから手を離し、彼女は声を小さくした。 


「でも、そうじゃ無くなってしまったんですね。今、本当に後悔してます。もっとやりたいことがあったのに……死ぬ気でやっておけば良かったのにって。恥ずかしいとか、諦めた方が楽とか……今じゃ無くても――そんな言い訳をしてたら、本当に手の届かない所に行ってしまった。目的とか度外視で、ただ生きる為に……努力しない生きていけないようになってしまった。なんか、それが無性に怖くて」


 彼女はいつの間にか冷や汗を浮かべた額を、手の甲で拭い、ぎゅっと眉を寄せた。

 誰もが内心で不安を抱いていても、直視しないようにして心の平衡を保っているのに、カホは自らそれと相対しようとしている。


 ――不器用すぎる。

 ついアキは慰めになるような言葉を探すが、上手く浮かんで来ない。

 何せこの先の展望などアキ自身にも見えないのだ。

 仕方なく気休めを口にするしかなかった。


「思い詰め過ぎだ……。あくまで基本は今日までやって来たように、魔物を駆除することが僕らの仕事だ。生死は意識しなくていい……。自分の役割をこなすことに集中して、どうにか訓練を乗り切る……それだけを今は考えていればいいと思うよ。ところで、それ……」


 カホはずっとイツミの頭を乗せ、居住まいを正したままなので、いい加減疲れないのだろうかと思ったのだ。


「いつまでそうしてるつもりなんだ? 疲れるだろ……そんなに仲良くなったでも無いだろうし」

「……意外な気遣いですね?」

「違う、ただの打算だ。変に疲れて両方ともダウンされたらこっちが困るからね」

「本当かなぁ……」


 にまっと意地の悪い笑みを浮かべたカホはイツミが深く眠っているのを確認すると、彼女の耳にそっと蓋をして小さい声で言った。


「……アキ君の言った通りです。私、あんまりイツミちゃんのこと好きじゃなかった。いえ、嫌いでした。いつも高圧的で……大きい声で人の事なじったりして、我儘で身勝手で。そんな場面しか見て来なかったから……でも」


 それには概ね同意だ。彼女の教室内での振る舞いはとても褒められたものではなかった。

 彼女の悪い面しか知らない二人しか今傍にいないのが何とも皮肉めいている。

 それなのに……彼女はイツミを弁護した。


「イツミちゃん、すっごく悲しんでましたよ。自分の事ばっかり気にして、辛いときに傍にいてあげられなかったって悔やんでた。それを聞いて、この人も友達はちゃんと大事に出来るんだって思って。そんな事聞いたら放っておけないでしょう……」


 カホはたどたどしくその先を続ける。


「寂しいですよ、仲のいい友達が急にいなくなるのは……。学外ですけど、私にもとても仲良くしてくれた友達がいて、もう二度と会えないから……悲しいです」


 彼女はそれだけ言うと、頭を振って髪を……短いボブヘアを纏めた髪留めに触れた。


「コウタ君が出て行った時にもイツミちゃんが言ってましたけど、おかしいんですよね、私達。なんでこんなに簡単に人を嫌いになれてたんだろう……無関心でいた方が、楽だし、簡単じゃないですか?」

「……多分、敵を作って、自分がそいつらより上だって安心したいんだよ。自分はまだマシ……こいつらに比べればって。簡単に承認欲求が満たされる」


 生理的、防衛的本能とは別口の、自身を肯定する為の他者への嫌悪。

 人と人との関わりが減った現代では、相対的にお互いを認め合い必要する事が減った。その弊害の一部分がそういうものとして出やすくなっていると言うのを、アキは聞いたことが有った。


 誰も自分を認めてくれない努力を続け……自分を高みへと導くよりか、赤の他人を貶めて、自己肯定する方が何倍も楽だから。

 無関係の他者よりか、自身の心の安定のために批判する敵や見下せる人間を求めてしまう……全てではないにしろ、半ば無自覚にそうしてしまう部分が人間にはある。


 高度に情報が発達した社会において、より自分が上下のどの位置にいるかが分かりやすくなった。人々は日々、他者という物差しを手に、自分を計り続けている。そうしなければ取り残されてしまうという恐怖が常に有り、その中で自分を貫くことの、なんと難しい事だろうか。


「……自分の価値を決めるのは常に周囲の人間で、周りの人の匙加減一つで晒されて一気に地獄行き。だから学校ではお行儀よく周りと協調しろって教えるんだろうけど……実際に生きる為には他を蹴落とそうと目を光らせて行かなきゃならない。そんなの、矛盾してやしないか。……いや、ごめん、脱線してるし、偏見じみてる」


 カホは嫌がらずに聞いてくれていたが、感情的になって募った不満をぶちまけた自分をアキは恥じた。 

 それを慰めるようにカホは首を振った。


「謝ることなんて。そう見えてしまうのは、アキ君のせいばかりじゃないでしょう? 皆が自分で自分の居場所を選べる訳じゃないんですから……。だから余計、苦しかったのかなって思います。学校に行きたいなんて思うこと、ここ最近は無かったですから」


 あの数か月は、多くの生徒の心に傷を残したのかも知れない。


「だから私、あそこから抜け出せて、少しだけほっとしました。ああもう、あんな重たい空気の中に、顔を俯けて登校して、息を潜めて過ごす毎日を過ごさなくて済むんだって。さっき言った通り、死ぬのは本当に怖いです。でも私、あの空気の中にはもう、戻りたくない。死ぬのと同じ位嫌かもしれません。だから私、今度からは自分の居場所も、立ち位置も、どうするかも自分で決めようと思って。こ、こんな腕輪嵌められて、言えることじゃないかも知れませんけど……」


 カホは左腕に嵌めた《錠》をさすりながら言う。


「私、自分の意思でここにいて、頑張ってるんだって言えるようになりたいんです。気持ちだけは、自由でいたい、でないと生きてる意味が、生まれた意味が感じられないまま終わっちゃうと思ったから。そして、周りにいる人も……そうであって欲しいなって思いますよ」


 彼女は、決意を秘めた眼差しをアキに向ける。


「ア、アキ君も一緒に戦ってくれませんか? もし頑張って戦果を挙げれば、もしかしたらあのリム……何とかの人達も見直してくれるかも知れませんし。そうすれば……少しは自由に」

「そんなのは、無理に決まってるよ……」


 銀髪は言っていた。アキ達を恐れていると……。


 実際にどれくらいの被害が反乱で起きたのかは知れないが、わざわざそんなものを作り出す程だ。アキ達の存在は彼らに兵器か何かとして映っているのではないだろうか。

 どんなに従順になったとしても、彼らが手綱を緩めることは有りそうにない。


 それに――仮に彼らが戒めを解くことが有ったとしても、アキが今までの事を水に流して一致協力する理由などどこにもない。

 アキが彼らに協力するのはあくまで、そうしなければ自分の身が危ういから。それが無ければ他の面々とわざわざつるむなんてことは有り得ない。


「僕は君達が嫌いだ。許せないとまで思ってる。利害の一致で手は貸しても、本心から協力なんて絶対に出来ない。分かったらこの話は終わりだ……」

「アキ君、それじゃあ何も……! あなただって苦しいだけじゃ……」

「もういい。外に出て風に当たって来る」


 それだけ言うと、アキは頭を冷やしに再び外に出た。




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