第5話

 土曜日の夕方16時頃、私は妹の住む街に向かうために電車に揺られていた。

 妹、花音かのんに会うのは数ヶ月ぶりだ。そんなもうすぐ会うはずの花音から一通のLINEが私のスマートフォンに舞い込んだ。


=LINE1件目=


『お姉ちゃん、何時ごろになる? 早く来てよ。私待ちきれないよ。大事な話なのに』


 私はせっかちな花音に呆れたが、返事を出さないとまたうるさいと思い返信を出した。


『ごめんごめん、16時過ぎちゃうね。もう少しだから待っててね』


そう打ち終わると手土産を膝に置き、私はスマートフォンを片手に、今夜20時から、彼氏の拓海たくみとの食事をどこにいくのかと気になり、グルメナビサイトを見ていた。


川口。川口です。と車掌のアナウンスが鳴り、駅に停まる。ドアが開き、乗客が流れ入ってくる。座って俯いていた私の足元に乗客がなだれ込んできた。


「あれ? 知恩ちおんちゃんだよね?」


 声がする方に顔を上げると、拓海が私を呼んでいた。


「あっ! 拓海くん、なんで? 食事はまだだよね?」

 私は少し慌ててびっくりした表情で拓海に言い返した。

「うん、20時からだよ。ちょっと用事でね。知恩ちゃんもどこかにいくの?」

 拓海が笑顔で聞き返す。

「うん。妹のところよ」

 笑顔で言って話始めた。


 すると、妹のアパートがある駅に着く。拓海も同じ駅に用事があるようで同じ駅で降りた。だが、方向が違うのかお互い挨拶をしてこの後の食事デートで会うことにした。


 路地を曲がり、私は妹の花音のアパートに着く。チャイムを鳴らすとキーを回す音がして扉が開いた。

「遅い。お姉ちゃん遅刻ね」

「ごめんごめん。で、花音なんの話?」

「まあ、いいからちょっと入ってよ」

 せっかちか私の話を無視してアパートの中に入れる花音だった。

「コーヒー? 紅茶?」

「ああ、気を使わないでよ。と言いながらも手土産を持ってきたので紅茶と言い、テレビのない8畳ほどの部屋のソファーに座る。妹の部屋に来るのは久しぶりだ。

 私は手土産のロールケーキの箱を開けて取り出した。プーンと甘い香りが漂い、イチゴの何の変哲もないロールケーキだったが、匂いでおいしさが増した。

 妹の花音は果物包丁と紅茶をもってテーブルに置くと、部屋のソファーに腰掛けた。


「で、なんの話よ。大事な話って」私はケーキも楽しみだったが、花音の大事な話が気になり聞く。

「まあ、ロールケーキをまずはいただきましょう。時期にわかるから」


 そう促されロールケーキを切っていく。二等分か、四等分にすればいいものを、何故か花音は三等分に切った。

 美味しそうに食べる花音をみて、私は悩み事相談なんじゃなのかと、切り出してみた。


「花音、悩み事あるんじゃないの?大事な話って一体なに?」

 私は、堪え性がない性格でもあったので花音に聞き返す。すると花音は嫌味な顔をして果物ナイフを持ち、等分したケーキを更に勢いよく切って私を驚かせた。


「何? お姉ちゃん、自覚ないわけ。あーあ。このコソ泥が」

「えっ。どう言う意味?」

「どう意味も、こう言う意味もない」

「えっ」

 花音はいきなりスマートフォンを取り出し誰かに電話をしだした。相手とつながったようだ。

「もしもし? もういいわよ。入ってきて」

 そう誰かに言った。すると玄関の扉が開く音がする。


「お邪魔します」

 男の声がした。なぜか拓海の声に似ていた。

 いや、似ていたのではなかった。部屋の扉を開くとそこに拓海が立っていた。

「ど、どういうこと?」

 私は呆気に取られ聞き返した。

「そう言いたいのは、私の方」

 妹は捲し立てながら、果物ナイフを私にむけた。

「知恩ちゃん……。妹って、花音のところだったのか?」

 あっけらかんと聞き返す拓海の言葉に私も苛立ち、なぜかキッチンへ駆け込み、出刃包丁を取った。馬鹿馬鹿しさが増してきたが、なぜか私と妹の花音は、触発し合って、怒りを拓海に向けて、同じタイミングで言い放った。

「拓海、あんた、私たちのどっちが大事なのよ!」

 事情によっては、20時の食事などキャンセルだと息巻いた。



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