第7話 ファミレス(窮地)

 男は少し身を乗り出し、囁くように真希に言った。

「実は由衣さんも我々の仲間でして。化石の回収は彼女に任せてあったんですが、大学の方の担当に変わりましてね。で、代わりに私が来たということなんですよ。だからいくら待っても彼女は来ません」

 真希はあまりのショックで、目の前が真っ暗になった。唯一の希望であった由衣が、この男の仲間だとは……。だからここへは来ない……。

 ――由衣との待ち合わせは、私と彼女しか知らないはず。それをこの男が知っているということは……、私は騙されていたのか。だから彼女は石のことを訊ねた。もしかしたら家を荒らしたのは彼女かもしれない。それなのに私は彼女を頼って……。

 そう思うと真希の心に、ふつふつとこれまでに感じたことのない怒りが湧いてきた。

「絶対に渡しません。人を騙して、家まで荒らして、何が民間レベルの努力ですか。そちらが法的手段をとると云うんなら、こちらもそうさせていただきます」

 真希はそう言うと、店内中に聞こえるように叫んだ。

「すいません、警察を呼んでください。この人が私にまとわりついて、身の危険を感じています。助けてください」

 男は、チッと舌打ちをした。どうやら詰めを誤ったようだ。男は近寄ってきた男性店員を片手で制すと、上着の内ポケットから手帳を取り出し、店員の鼻先に突き出した。それは、最終手段として用いることにしていた偽の警察手帳であった。

「私は警察の者だ。この娘はこう見えて窃盗の常習犯で、署への同行を打診していたところだ。これから署へと連行する。邪魔するとどうなるか分かるな」

 男は店員をどすの利いた声で恫喝した。店員は思わず後ずさりして、そのまま向かいのテーブル席にドスンと腰を落とした。

 真希は、絶対連れて行かれてたまるものですかと、鞄を胸にしっかりと抱き、身を固くして椅子の奥隅に身構えた。

 男が、諦めろとでもいうように片方の口の端上げて、真希に近づこうとした時、他のテーブル席に座っていた数名の者たちが勢いよく立ち上がった。

「そこまでだ、動くんじゃない。お前を公記号偽造容疑で逮捕する」

「お前たちは誰だ!」

「ほら、本物の警察手帳を見せてやる」

 そう言って、男を取り囲んでいる男性たちの一人が、先ほど男が店員にしたように、警察手帳を鼻先に突きつけた。

 男は観念したのか、さして抵抗もせず手錠を掛けられ、引きずられるようにして、外に連れ出された。外では黒塗りのバンが数台のセダンに囲まれていて、ちょうど中にいた二人が連行されるところだった。

 真希はただただ震えが止まらなかった。

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