第33話 まさか・・・ 5
「待って。さっきより落ち着いてきてるんだ。・・・少し、様子を見たい」
全く納得がいかない様子の連れは、眉間にしわを寄せた。
「嘘だ」
「嘘じゃない。・・・話だって、ほら。だいぶしていられるようになったんだから」
「無理してる」
「そんなこと、しない。嘘じゃない」
幾度か同じような問答を私と繰り返していた連れだったが、ふいに「あっ」と・・・いう
「少し待っていて」
何を急いでいるのか、あわただしく車のドアを閉めて行ってしまう。
仕事中に連れてこられたものだから、何か急用を思い出したのかな。
そんなことを考えながら、ぐらぐら揺れる景色が辛くて目を閉じる。
ものの一分も経たないうちそっと車のドアが開かれた。
直後、身体に何か柔らかなものがギュッと巻き付けられる。
どうやら連れは家の中から私の毛布を持ってきてくれたようだ。
厚めの毛布を隙間ができないよう、丁寧に私の身体に巻きつけながら、連れは怪しい事このうえないと言わんばかりに細くこちらを見つめている。
「落ち着いてきてる?本当に」
「うん。・・・ありがとう」
私を口元までしっかり毛布にくるみ、車内の温度をだいぶ高めに設定して、シートのヒーターまでオンにすると、連れは小さくため息をついた。
「何かあったらすぐ呼んで」とかなり強めに念を押し、さらには娘という監視役を車内に残すことを決めると、ようやく連れはしぶしぶ仕事へと戻っていく。
連れの姿が玄関に消えると、間を空けることなく今度は娘が声をかけてきた。
「ねぇ。もしかして、妊娠してるの?」
「・・・ああ。鋭いな。よくわかったね」
「さっき、お腹触らせていたでしょ」
少しの沈黙のあと、隣からクツクツと笑い声が聞こえてくる。
「ねぇ!本当に!?めちゃくちゃ嬉しいんだけど!」
「まじで?」
「まじだよ!えー!どうしよう!」
あまりの娘のはしゃぎように、私は小さく噴き出した。
下の子の出産からかなりの年月が経ってしまっていたし、娘は俗にいう難しいお年頃。
どんな反応をされるのかなんて想像できなかったし、爺ちゃん医者の件もあったものだから、正直言ってこんなにも素直に誰かに喜んでもらえるなんて・・・そんな期待をする気持ちがこれっぽっちも持てなくなっていたんだ。
「嬉しいよ。そんな風に想ってくれてさ」
時折助手席から沸き出す、娘のクツクツ笑いを聞いているうち、柔らかい気持ちで胸の内側がどんどん膨らんできて、頬が緩んだ。
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