第34話 まさか・・・ 6
吐き気と眩暈がだいぶ収まってきた。
とはいえ、ようやく首を横に傾けることができる程度に回復したくらいのもので、とてもじゃないけど歩けそうにはない。
「家、入りたいけどこれじゃ無理だな」
私がつぶやくと、娘はさっさと車から降りてしまった。
おや?と思う間もなく、運転席のドアが開けられる。
「おんぶする。乗って」
あらやだ!
なんて逞しい子!
男気溢れる娘の行動に、私は思わずフッと笑ってしまった。
「駄目だよ」
「余裕だって」
そんなわけない。
高校生のこの娘っ子ときたら、部活のやりすぎで腰を酷く痛めてしまっているんだから。
「早く。・・・この姿勢してる方が辛いんだから」
誰に似たのやら、我が子はみんな頑固だ。
自分のことはフニャフニャにいい加減なことばかりしているくせに、人のこととなると全く譲らない。
これは絶対に折れないヤツだな。
幾度か同じような問答を繰り返したが、やはり娘は頑として譲らない。
「連れを呼んできて?」などと促してもみたが、「自分が背負う」の一点張りだ。
このままじゃ娘の方が凍えてしまう。
「ありがとう。無理しないで。玄関まで行ければ大丈夫だから」
エンジンを切り娘の背に乗ると、見た目よりも大分力強い娘は安定した足取りで、玄関どころかそのまま家の中へ入ってしまう。
そういえば、「クラスの男子に腕相撲で全勝した」って目を輝かせてたな。
女子高生が喜々として語るには、恐ろしく色気のない話だったけど。
そんなことをうすぼんやりと思い出しながら、目が回らないようほとんど目をつぶったままでいると、私たちの気配に気づいた連れが慌てて部屋から飛び出してきた。
「かわる」
半ば無理やり娘の背から私を引き取り、今度は連れが私を背負って、二階の寝床まで運び始める。
これには驚愕した。
なんといってもこの連れ。
そもそも人前で私に触れることは絶対にないんだから。
それが家族の前であっても、他人の前であっても絶対に!だ。
いつもなら、指の先っちょがチョンと触れるだけで、死ぬほど嫌そうに私の手を振り払ってしまう。
けれどこの時の私にはそんな驚きや嬉しさなんてものを思う存分噛みしめ続けている余裕は、これっぽっちも無くて。
布団に潜り込むと、結局そのまま翌日の昼過ぎまで、私は死んだように眠り続けてしまった。
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