第32話 まさか・・・ 4

 ここからのことは、すっかり私自身の弱さが招いてしまったことなんだけど。


 どうにも私という人間はへなちょこに過ぎる奴なもんで、情けないことにすっかり参ってしまったんだよね。


 『赤ちゃんの心臓が止まってるかもしれない』

 『6割以上は死産か、流産する』


 頭の中を駆け巡る嫌な言葉を、全く無視することができない。


 帰宅し車を停め、そこから出ようとした瞬間。

 グルグルバットで30回回ったくらいの凄まじい眩暈に襲われ、そのままシートに倒れ込んだ。


 同時に内臓をえぐり出しそうな吐き気が込み上げてくる。


 車内に備え付けていたゴミ袋に、胃が空になっても吐き続けながら、頭の中は『赤ちゃんが死んじゃうかもしれない』っていうおっかない言葉しか浮かんでこなくて・・・・・・。


 とにかく助けを呼ばなきゃ、とテレワーク中の連れに連絡するも繋がらない。


 ダメ元で我が子にかけてみると、運がいいことになんとワンコールで繋がった。


 「やばい・・・助けて」


 必死でその一言を絞り出したのに、言い終えるより早く返事すらないまま電話は切られてしまった。


 うぅ・・・酷いよ。

 なんで切っちゃうんだよー。


 心細くなって涙ぐんだ瞬間、車のドアが勢いよく開けられる。


 「大丈夫!?吐いてるの?救急車呼ぶ?」


 外から吹き込んできた空気はとても冷たいけれど、私の背を撫ではじめた娘の手は酷く熱を持っていて、涙がぼろぼろこぼれ落ちる。


 心なしか、眩暈と吐き気が急激に収まってきた気もする。


 「ちょっと待ってて、すぐ来るから」


 いったんドアを閉め家の中へ入った娘は宣言通り、すぐに戻って来てくれた。

 尋常でない私の様子に、急いで連れを引っ張ってきてくれたのだ。


 ところが、私の様子を一目見た連れは、すぐさま眩暈止めの薬やら心臓の薬やらを取りに家に戻ろうとするものだから、私は慌ててしまった。


 力の入らない手でどうにか連れの腕を掴み、首を横に振る。

 再びグラグラと目を回しながら、彼の白い手をやっとのことでお腹へ持っていくと、連れはわずかに目を見開いた。


 「・・・そうかもしれないと思ってた」


 なんだか誇らしげな様子で口にすると、さっさと携帯を取り出す。


 「救急車、呼ぶ」


 ひぇえええ!

 いきなりそう来たか!?


 だいたい、眩暈と吐き気で救急車って呼んでいいもの?


 それに、娘が背を撫でてくれているおかげか、少し落ち着いてきた気もするんだ。


 いまいち正確な判断ができないまま、私は慌てて連れを止めた。


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