第31話 まさか・・・ 3

 「そもそも僕、ニトロなんて使ったことないし。そんなの飲んでどんな風になるかなんて知らないよ。メニエールの薬も見たって何なのかよくわかんないから。薬飲みたいなら、そっちの病院に行って、もっと弱い薬にしてもらえるように頼んでみたらいいじゃない」


 鼻で笑いながらの医者の返答に、叫び出したいようなもやもやした塊が腹の底から噴き出してきて、私はたまらず問いかけた。


 「私の歳で子供を産むのは、そんなに良くないことですか?」


 私の感情などそっちのけで、爺ちゃん医者は呆れたようにハハハと笑った。


 「産むのが良くないことっていうかねぇ。だいたいその年で自然妊娠なんてないし。そもそも妊娠自体ほぼできないんだから。妊娠したとしても6割以上は途中でダメになっちゃうし。ほとんど出産までいかないよ」


 「・・・・・・」


 「中で死んじゃったとしても、流産や死産の処理はそんなに急ぐ必要はないから。その時はうちでやってあげるから、慌てないで言ってきてください」


 「・・・・・・」


 「他に何か質問ありますか。なければもうこれでいいでしょう。一週間後またきてください。ああ、それからこれ、持ってって」


 言いながら、お爺ちゃん医者は指の背で押しのけるようにして、机の上のエコー写真をこちらに弾いてよこした。


 なんでこんなに冷たいんだ?

 それに、うちでは診れないっていいながら、紹介状も書いてくれないってどういうこと?


 そりゃぁ、私は若くなんてない。

 正真正銘の42歳なんだから。

 だからって、40代での妊娠は、そんなにコケにされるような酷い事なのか?


 嬉しかった気持ちも、お腹に感じていた温かさもあっという間に再びしぼみこんで冷え切っていく。


 内診しかしていないのに、1万円弱というかなり高額な診察料を取られたことに疑問を持つ余裕もないまま、凍える指先を擦りながら帰宅した。

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