ある日、仲間を追放する。そして今日も、剣を振る。
もろ平野
そして日々は続く
「アリスの嬢ちゃんは、昨日まで、かい」
シエルス王国、王都の冒険者ギルド本部。そこで俺たちパーティー『月夜の時計塔』に声を掛ける人があった。
「ギルドマスター……はい。あいつも、昨日付けで『追放』です」
蓄えたひげをさすりながら、「そうか」とだけ言ったギルドマスターが、少し寂しそうに見えた。でもそれは、きっと自分達の裏返しなんだろう。
「散々駄々こねられましたけどね。なぁ、ドルフ、エテナ」
と、生まれてこの方三十数年の付き合いになるパーティーメンバーに投げかけてみる。
「毎回どいつも離れたくない、まだここに居たい、って言ってくれるんですが、アリスは輪をかけてひどかったんでさぁ」と、重戦士のドルフ。
「男共はまだ良いんですよ、話して終わりなんですから。私、毎回泣き止んで寝るまで一緒ですからね?」と、魔法使いのエテナ。
そして剣士の俺、セフィル。
「まぁ、あいつなら天辺までいけるでしょう。俺たちはもう、足枷ってやつです。……毎回言ってるな、これ」
つい昨日まで、『月夜の時計塔』にはもう一人のパーティーメンバーがいた。名は、アリス。俺と同じ剣士で、そして俺とはかけ離れた才能を持ち、花開かせた少女。
「お前たちもAランクパーティーだろうに、そこまで言わせるとはな。毎度のことながら、お前たちのパーティーから追放される子らは皆、末恐ろしいよ。……アリスの嬢ちゃんで、何人目だ」
「えーと、ファティナ、カイル、ジーク、セレナ、カレン、……で、アリスなんで、6人ですね」
「そうか。……ギルドマスターとしては、褒めるべきなのだろうがな。元冒険者としては、単純にそこまで割り切れないものだ」
『追放』。それは、冒険者の中で受け継がれてきた一つの文化である。パーティーの中で、もっと上に行ける、そんな成人前のメンバーに限って『追放』という制度がある。
お前はもっと強くなれるよ、だからウチを抜けて前に進め。そんな意味に、冒険者のひねくれが加わって『追放』と呼ぶのだ。そしてその後強くなって再開したならば、追放された者は感謝とひねくれを持って「ざまぁみろ!」と言う。ちなみに普通に抜ける場合、あるいは『追放』と逆の意味での離脱であれば、特に何の呼称もない。
そしてそういう意味であるから、『追放』されることは一つの名誉とされ、した側も美徳ある行為として受けいられる。だから例えば俺たちのような、Aランクパーティーからの『追放』なら、断ることは普通、無い。
「どういうわけだか、毎回毎回、示し合わせてみてえに同じこと言って断りやがる。おかげで説得も大変なんすよ、ハハ」
「こちとら下り坂のパーティーに下り坂のメンバーしかいねえんだよつっても聞かねえんだぁな」
「私たちから『追放』された子たちが今Sランクパーティーで主力を張ってるのを見れば、どっちが得かくらい分かるでしょう、なんて言ったらそれまた全員怒るし」
俺に続いて、ドルフ、エテナも続けて言う。それをギルドマスターはただ、静かに聞いていてくれた。
「だから、……『追放』なんて、断るもんじゃないっすよ、ほんと。湿っぽくなっていけねえや」
「……アリスの嬢ちゃんは、『金獅子』が勧誘に本腰を入れるそうだ。ちょうどあそこも去年、剣士のラクテルが抜けちまったからな」
「Sランクパーティーの金獅子なら、安心です。……今日はファイアドレイクを狩ってこようかなと。今日護衛依頼とか受けても身が入らなそうなんで」
「分かった、そうすると良い。……じゃあ、私はこれで行くよ」
「うす。……ありがとうございました」
ギルドマスターは背中越しに手を振り、ギルドカウンターの奥に消えて行く。
「絶対絶対、ぜっっったいに、強くなって、『ざまぁみろ』って言ってやるから、楽しみにしてて下さい……!」
昨日の夜、そう言ったアリスの顔を思い出す。
「ほら、行くぞセフィル。今日は稼いで飲むぞ」
「急がないと良い狩場、取られるわよ」
一人分の空間が無くなって、それでも仲間たちが俺を呼ぶ。
「ああ、今行くよ」と、二人の仲間に答えた後。
「……楽しみにしてる、アリス」と、小さく俺は呟く。
ある日、仲間を追放する。そして今日も、剣を振る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
作者より
お読み下さり、ありがとうございました。
感想など頂けると幸いです。
普段はラブコメを書いております。『妹に勧められて歌ってみたを投稿したら、大人気歌い手になってしまった件』、毎日更新続けておりますので、そちらも是非よろしくお願いします。
ある日、仲間を追放する。そして今日も、剣を振る。 もろ平野 @overachiever
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます