ふたりの王・ふたりの姫
反撃の狼煙
真夜中。
港町センケーゲの、共同便所の裏。
隠し扉のそば。
ブ
『探し物なら、拙者におまかせを』
あいつならきっと……!
あたしは叫ぶ。あいつの名前を!
「シロカゲーっ!」
シャアァァッ、スチャッ!
その名前の通り白い影が、風切りの音を響かせて降り立った。身長20センチを越える巨躯、俺っちを王と仰ぐ天才ネズミ、シロカゲが空中に浮かぶあたしを
「シロカゲ、参上いたしました」
げえっ、こいつ、いつのまにか潮風になびく赤マフラーまでつけてやがる! その雄姿に、脳内にテーマソングまで聞こえてきた気がする。なんか悔しくなるほどカッコいいぞ! ネズミのくせに!
「シロカゲ、もう判ってると思うけど……」
「ヒト族の特職女たちを探すのですね。おまかせください」
「……どうするつもりだ?」
こいつ頭はいいけど、ズレてるから聞いとかないと。
「センケーゲの全ネズミに召集をかけ、ありとあらゆる暗がりに潜らせましょう。小ぎれいな鎧の女と小ぎれいなローブの女の、ヒト族二人組を探し出せ、と伝えましょう」
「おおっ! そりゃスゴイ! でも、そんなアバウト……いいかげんな指示で上手くいくか?」
「残念ながら、並みのネズミは冒険者にも劣る知能です。これ以上複雑なことは理解できません。後は、拙者のスキルで補完いたしましょう」
「お前のスキル……確か前にも聞いたけど……?」
馬車の屋根の上で、こいつの身の上話を聞いたっけ。
「並みのネズミでも未来の危機を予知できるように、拙者はネズミが関わる過去の出来事を幻視できます。もちろん限界はありますが、ネズミが見たこと、体験したことは、まるでその
「……忍術かよ」
「
「シャーッ! にゃんだそいつ!」
闇に響く猫声。
空中で振り返ると、いつのまにか立って歩くデカ猫、ケットシー族のマヌーがそこにいた。不審者?を見て毛を逆立てている。
慌てて店を飛び出したあたしを追っかけてきたんだな。
「こいつはシロカゲ。見ての通り本物のネズミだ。あやしいヤツじゃない……どう見てもあやしいけど。それより聞いてくれ、ブ
「そりゃ大変にゃ! おいらは何をすればいい?」
ああ……マヌー……
やっぱりお前は友だちだなあ。
あたしだってまだ信じられないようなことをいきなり言ったのに、ぜんぜん疑いもせず、最初に出た言葉が「何をすればいい?」だもんな……
ちょっと目から汗が出たよ……
「マヌー様、陛下の御友人である貴方様に、お願いしたいことがございます……」
二本足で歩き、喋るデカ猫が叫んだ。
「うわっ、ネズミが喋ったニャ!」
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冒険者。
小さき者クラインが言うところの、いわゆる反社の連中にも弱点がある。
実はそれは、まっとうに生きているヒトと同じものだ。寝ている間に家に火を付けられれば死ぬ。家族を狙われれば従う。衛兵やギルド長のように立場が上の者には弱い。実態はどうあれ自分を『いいひと』だと思いたい。思わせたい。
まっとうなヒトであっても手段を選ばす必死で反撃すれば、彼らを下すことは不可能ではない。その手段は彼らが振るう暴力と確かに同じではあるが、
そして、赤毛の特職少女フレーメもまた、そのような暴力のひとつを持っていた。同僚であるブ
「
呪文と共にその小柄な身体に、たちまち魔法のちからが
白ゴブ娘の
平均的な趣味の男なら、バニー
美少女の恐るべき締め付けが大人の男を襲った。異世界チキュウの『けんちくじゅうき』にも匹敵するちからの締め付けが。
「……ぐわぁああ!」
バキバキッ! ブリブリブリ!
断末魔の叫びと共に、男のあばら骨と腰骨が砕ける音と、その肛門から盛大に糞便を噴き出す音が響いた。彼は異世界チキュウの『まよねーず』の袋詰めのように絞られたのだ。
ズボンの尻をもっこりと膨らませた糞便には、大量の血と内臓が混じっていた。部屋には
しかし、ドールヒがもし下着を脱いでいたら、部屋の環境はもっと酷いことになっていただろう。
5を数える時間で切れてしまった
「大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
白ゴブ娘はさっきまで折れていた首の骨をコキッと鳴らして答えた。
それにしても、とフレーメは思った。
ブ
この
ゴンゴンゴン!
ドアを何か固い物で激しく叩く音と、部屋の外にいる弟分らしき男の必死な声が聞こえた。
「兄ィ! すげー声が聞こえたけど、まさか殺してないよね? 俺、もう冷たいのはヤダよぉ!」
続いて、カギを開ける音が聞こえ、すぐにドアが開いた。入口を越える背丈の大男が、かがみこむように入ってきた。その手には抜き身の室内剣が握られていた。大男が持つ剣は、まるでナイフのような大きさに見えた。欲望に
そして彼は部屋の惨状に気付いた。
「……ああっ、てめえら兄ィに何を! このヒトデナシめっ!」
冒険者の
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俺っちたちは駆けた。夜の港町を。
まあ、
「いやあ、『シャルル・ブーツ』は最高ニャ!」
ケットシー族に名前のみ伝わる魔法の長靴、プチ羽飾りが可愛い『シャルル・ブーツ』。もと探索者のフレーメが言うにはダンジョンが生成した複製だそうだ。ガ〇プラ
マヌーの走る速度は確かに上がった。二本足でも四つ足で走るのと同じくらいのスピードが出る、って触れ込みだったけど、最初から四つ足で走ってもらったら、本物の馬並みの速度でやんの。振り落とされないようにしがみつくのが大変だ。スゲー!
すばやさ+2って感じ?
シロカゲの頼みを聞いたとき、マヌーがちょっと渋い猫顔をした。ダチの俺っちが直接頼むんならともかく、初対面のネズミ(なんだそりゃ)の頼みなんだから当然だよな。そこで交渉としてブーツを直してやったんだ。やってみたら修理は5分ぐらいでできた。こんなに喜んでくれるなら、すぐ直してやればよかったよ。
ブーツはサイズが合うかどうか心配だったけど、マヌーが猫足を入れたとたん魔法の輝きがピカッて、吸い付くようにサイズがあった。シロカゲによると、これはレア装備アイテムには付き物の能力で、自動で寸法を調整する機能だそうだ。直した魔法陣に含まれていたんだな。
カッコよく言うなら、
「うひゃあ!」
通りすがりの酔っ払いが奇声をあげ、魔灯ランタンを放り投げて尻餅をついた。俺っちたちに驚いたのだ。そりゃそうだ。数十匹の街ネズミの群れ……その数はどんどん増えてくる。その集団の先頭には、かん高い不思議な声で鳴きながら疾走する巨大な白ネズミ。群れの中央で走るデカ猫。その背にはドクロの指輪を王冠のように被ったネズミ……俺っちが乗ってるんだもんな。
それにしてもシロカゲも凄い。こういうこともあろうかと、あたしがライブしてるときにセンケーゲのネズミたちを掌握してたらしい。
そのパワー恐るべし!
「どこに行くんだ!?」
潮騒と風切りの音に負けないように俺っちは叫んだ。シロカゲは『ついてきてほしい』としか言わなかったんだ。まあ、土地カンがないからどこそこの建物とか言われても判んないけど。
「倉庫街です!」
倉庫街。港町には付き物の施設といえよう。前世日本のTVドラマだと、なんか犯罪がらみでよく出てくる場所だ。密輸やら麻薬取引やら銃撃戦とか。
……まさか、ブ
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