ウサギ美味しいあの山

 港町センケーゲの、探索者の店にて買い物中。

 白ゴブ娘とのカンケイに思いをはせていたは……


「じゃ~ん、見て見てご主人さま!」


 フレーメの声に、はっとして顔をあげた。

 品さだめを終えたのだろう、いつのまにか新たな装備に着替えた赤毛娘が、僕とブの前で。


 見せつけるように、くるり、と回った。


 「……」


 じゃ~ん、という擬音は、吟遊詩人が奏でるジングルを口まねしたのだろう……って、あまり関係のないことを思わず考えてしまうほど、僕は絶句した。


 いいのかよ、これ?


 フレーメの新たな装備は、ひとことで言うと、「バニーガール風のアーマー」だった。……いや、「アーマー風のバニーガール」かな? 


 アーマーの素材は基本的に革で、防御力を上げるために薄く細長い金属板を幾枚も綴じている……あるいは、綴じているように見せかけている。固定してるのはヒモやバンド。各パーツが微妙に色合いやデザイン感が揃ってないのは、たぶん中古の寄せ集めだからだろう。


 よく探し出して集めたよな~


 ただ、よく見ると擦り切れてるところがあるし、ずいぶん汚れてる。それでも美少女が着ると、ダメージジーンズみたいな謎のオシャレ感があって良い感じなんだよな。


 しかし……

 なんでバニーガールなんだよ!


 みたいな転生者が伝えたのか、それとも逆にこの世界ナッハグルヘンを前世に持つ地球人が元の衣装を作ったのか知らないけどさ、絶対これって偶然の一致じゃないよな。


 それに、こいつと出会ったときにも、お仲間も含めてそのコスを鑑賞させていただいたときにもシミジミ思ったけどさ……戦女神バルキリってのはホントに異世界エロコスなんだよな。


 それが目的コンセプトなんだから仕方ないけど。仕方ないけど(喜)!


「このつのうさぎアーマー、ウワサだけは聞いてたんだけど、今まで着たことなかったんですよね~ あれっ?」


 僕があまり反応しない(実はもう一部のみ反応してる)のに気付いたフレーメは、イタズラっぽい目つきでニヤリとほほ笑むと、色々なポーズをとり始めた。


 高く上げた足は、太もものあたりで斜めにカットされたロングプーツに覆われてる。腰を回すたび、小さなポンポン尻尾がフリフリ動く。ひらひら振り回す両手のその手首には、なんかギミック付きの巨大カフス。頭には揺れるウサギ耳のカチューシャ、その真ん中には短いつの、たぶん本物の角ウサギのヤツがちょこんと付いている。ハイレグのアンダー付きビスチェは、ボンデージ感がありながら身体を捻るのにも支障がない。おいおい、そんなに飛び跳ねたら、M字形の胸当てから大きすぎる中身がポロリするぞ!


「……フレーメさん、素敵です」


「えへへ、そう? ほれほれ、ご主人さまも褒めてくれていいんですよ?」


 おいフレーメ、ブのお世辞を真に受けるなよ。こいつの美的感覚は信用できないぞ。なにしろ、自分のことを不細工だと思ってるんだから。


 でも……


「ああ、うん……いいんじゃないか」


 こんなエロ装備コスをした美少女と一緒に街なかを歩くことを想像したら、顔から火がでるような気がするほどはじぃけど、とりあえず僕は褒めてやった。嘘つくなよ、スゲーいいだろ、と身体の一部から反論があったが……


 とりあえずお前は落ち着け。


「邪魔するぜ……なんだ、客とは珍しいじゃねえか」


 突然、店の中に響いた粗野な男の声に、半アゲで油断していた僕は恥ずかしさのあまりビクッと震えて谷間の奥に引っ込んだ。おそるおそるローブの合わせ目から覗くと、武装した連中がどやどやと船に乗り込んで来たのが見えた。


 探索者じゃない。冒険者どもだ!


 僕の反応を敏感に察知したブは、すばやくフードを降ろしてうつむき、1歩後ろに下がった。フレーメは腰に手を当てて、チベットスナギツネのような目つきで男たちを見つめている。マヌーのやつは……少し毛を逆立てながらブーツをしっかり抱えていた。


 マヌー、たぶんそのきちゃないブーツは取られないと思うぞ?


「があーっ!」


 妙な叫び声を上げて、あのドワーフ族の店員が奥から飛び出してきた。そして酒瓶を振り回しながら、酒臭い息を冒険者どもにブレスのように吐きかける勢いで怒鳴り散らした。


「帰れ帰れ!炉に水入れるんじゃねえよ酢腐れどもがぁ!あたしゃ契約なんて絶対にしないからね!とっとと出てかないと金床ぶつけるよ!」


「ちぃ……っ」


 リーダー格らしき男が、ドワーフ娘のあまりの剣幕に舌打ちをした。


「お前のために言ってるんだぞ。ハノーバじゃあスタンピードが起きたそうじゃないか。いざというときは冒険者ギルドが守ってやるからよ」


「はんっ、ギルドは何もしなかったって聞いてるよっ、柄折れのハンマーがほざくんじゃないよ!」


「いつまでも断れると思うなよ。ホンゴ様はお怒りだからな」


「そうだそうだ。お怒りだ」


「シュベスタも無い夜は気を付けろよ!」


 冒険者どもは捨て台詞を吐き、船を出て行こうとしたところで、連中の下っ端らしき男がフレーメに目をやった。


「おっ、姉ちゃん、いい乳してんなあ」


 そう言った男の手が、赤毛娘の胸に伸びたところで……


身体強ゾンダークア……」


 ボカッ!


 成敗するための身体強化の呪文をフレーメが唱えるより早く、リーダー格らしき男が不埒ふらちな下っ端を殴った!


 ガラガラガラ……


 殴られた男は武具の山に吹っ飛ぶも、他の男たちに小突かれながら起こされた。


「クラーケ頭、ヒト前で弁当に手を出すヤツがあるか。実家にサラマンダー這わせられるぞ。……素敵な嬢ちゃん、すまなかったな」


「悪かったな、可愛いウサギちゃん」


「その鎧、似合ってるぜ」


 傍目はためには紳士な台詞を残して、ならず者たちは出て言った。


「フレーメ、いまの褒め言葉は……」


「大丈夫、判ってるから。あいつらは何時いつだってクチだけさ」


「にゃあ、店主。連中が言ってた『ホンゴ様』って誰なんニャ?」


 ドワーフ娘は顎髭を撫でると、マヌーの質問に吐き捨てるように答えた。


「センケーゲの裏稼業を仕切ってる顔役さ。ドでかいゴブリン野郎だ」


「ゴブリン……」


 白ゴブ娘が消え入りそうな声で呟いた。


「それよりさ、お客さん……」


 彼女はバニー姿のフレーメとブーツを抱えるマヌーをちらりと見た。


「買いたいモノは決まったみたいだね。じゃあ……」


「あ、もうちょっと待ってくれ!」


 横着してローブに引っ込んだまま、僕は叫んだ。

 まだブのぶんの装備、と言うか、装備の素材が決まってなかったぜ。


「んんっ?」


 ドワーフ娘が首を傾げた。


「あんた、その声……男だったんだね。伝声管じゃ女の声っぽく聞こえたし、なよなよしてるから戦女神バルキリかと思ったよ。やっぱりどこぞの御曹司だろ? じゃあ、決まったらもう一度呼んどくれ」


 おや……ああ、そうか、僕の声をブの声だとカン違いしたみたいだな。店員はまた奥に引っ込んだ。またヒック!という声が聞こえた。


 あ、そうだ。

 思いついたこと言っとかなきゃ。


「フレーメ、マヌー、ブ、聞いてくれ。作戦がある。協力してくれ」


 こそこそ小声で打合せのあと、僕たちはふたたびガラクタの山に取り組み、シマシマの日差しが傾くほどの長い時間をかけて、ようやく必要になりそうなモノをそろえたのだった。


 ふう~ ホコリっぽいから喉乾いたぜ。腹も減った!


「もういいかい……」


 ちょうどいいタイミングで、赤ら顔の女店主が現れた。伝声管とやらで様子をうかがってたんだな。僕たちや冒険者どもが来た時も、すぐ奥から出てきたもんな。まあ、そんなことはどうでもいい。


 結局、は以下のアイテムを買うことにした。量が多いので宿にデリバリーしてもらうこと前提だ。


 シャルル・ブーツ(複製品)一足。

 つのうさぎアーマー一式。

 角うさぎ鎧のボディだけ一着。

 角うさぎ鎧のブーツだけ一足。

 バルキリの羽根兜1個。

 革の胸鎧3着。

 革のガントレット1対。 

 旅マント3着。

 ジャケット2着。

 長袖シャツ2着。

 旅ナイフ3本。

 丸盾1個。

 折れた両手剣(数打ち)1本。

 両手剣の鞘1本。

 長槍(数打ち)2本。


 もちろん、全部中古で、ボロボロで、汚れている。だと言うのに、ドワーフ娘ときたら、とんでもない値段を吹っかけてきやがった。


 交渉開始だ!

 自分だけで思う存分値切ってみたかったんだよね!

 今のシチュなら、それも叶う。馬の取引をボられたリベンジもある。


 この店とは関係ないけど!



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