華麗なるボディプレス!

 港町センケーゲの、探索者の店にて。

 たちは掘り出し物を求めて、商品モドキの山をひっくり返す。


 デカ猫マヌーが伝説の(笑)レア・アイテムを入手、ブ装備用のヘルムも決まった。後はこのの鎧と、赤毛娘フレーメの装備だな。


 フレーメのぶんは本人にまかせるとして、ブの鎧かあ……

 こうも色々並んでると、ワケわかんなくなりそうだ。う~ん……


 ガン〇ラ形態モードの僕は、ガン〇ラのように小さくもメカメカしい両手で、腕組みをして考えてみる。見上げると、小首をかしげる白ゴブ娘の緑色の瞳と目が合った。


 このに着せる装備ふくか……


 よし、自分が何を求めているのか、ちょっと、おさらいしてみよう。


1.基本はビキニ・アーマー。


 みたいな、安っぽいゲームキャラのヒロインのような肌色多め、露出過多のデザインだな。特職娘たちのスタイルはヤバいから、きっと似合うと思うし、フレーメの言う通り、戦女神バルキリよそおうことができるだろう。


 真冬だから寒いだろうけど!


 かつて「弁当」という差別用語で呼ばれていた戦女神バルキリは、簡単に言うと「探索者の愛人」だ。泊りがけでダンジョンを攻略するイカレた男たちを、身体で慰安するのがその役目。赤毛娘フレーメもそうだった。余談だけど、前の主人たちを「おにいちゃん」と呼んでたそうだ。


 昼も夜も!


 探索者どもはあまりにもイカれてるので、もし、自分たちのモノである戦女神バルキリに危害を加えられると、メチャクチャ怒る。モンスター相手に鍛えた腕とダンジョン産の魔道具で、徹底的に報復する。だから、フツーのヒト、いや冒険者みたいなならず者でも、追い詰められない限り手を出さない……と、聞いている。


 つまり、戦女神バルキリには、実質的な防御力はないけど、精神的な防御力がある、ってことだ。……反社の刺青みたいに。


 もちろん、傭兵とか沢山雇えるなら、そのほうがいいに決まってるけどさ。情けないけど大人の男が怖いのストレスも増えるだろうし、だいいち……そこまでのカネはない。


 そこまでのカネはない(泣)!


2.ポジションの問題。


 まず、ニンゲン族だけど小人コビトの自分は……しっとり、すべすべの、ぼよよんの、ほかほかの、いい匂いがする、ブの胸元にいつも収まる必要がある。べ、別に好きで収まってるんじゃないぞ。仕方なくだかんな、仕方なく!


 特にガン〇ラ形態モードのときは、すぐに消費するMPのチャージのために、ブの莫大な魔力の源たる心臓のそばに居る必要があるんだよな。


 ガン〇ラ形態モード以外のときも、なにかとお騒がせなは、ある程度……姿を隠しておくほうが無難だと思うんだ。まあ何を今さら、とは思うし……さっき白い船を調べたときみたいに必要があれば、いくらでも露出するんだけどさ。


 でも、必要でもないときまで目立つのは違うよな。


 前世のイキったタレントが、プライベート時にかけるサングラス程度には、注意を払う必要がある、ってことだ。


 さらに。


 よわよわの自分を守り、なおかつ、それなりの機動性を確保するためには、自分の指示で動いてくれる、つよつよの誰かにくっついてるほうが都合がいい。まあ、ブはニンゲン族のフツーの少女と変わりない強さしか持ってないけど……無限の自動回復能力がある。

 ブ本人が言っていた通り、の盾……攻撃や事故の衝撃からを守る盾として働いてくれる。前世の高級車みたいに、衝撃を跳ね返すんじゃなくて、吸収するタイプの装甲になってくれるんだよな。


 申し訳ないけど。


 その用途のためには、やっぱりブの胸元にいることがちょうどいい。崩壊する白い塔から逃げたときみたいに、彼女の手でも守ってもらい易いもんな。


 以上の点から考えると、求める鎧のうち、胸部装甲には十分な居住スペースが必要になる! それ以外の部分はフレーメと同じでいいだろう。アンバランスなのはしょうがない。戦女神バルキリだもん。


3.機能性の問題。


 で、胸部装甲には、その広さのほかに、自分が安全に快適に過ごすための機能が備わってなきゃいけない。クッションやシートは今までと同じでいいけど、視界と通気をどうするか。ありがちだけど、小さな穴をいくつも開ける、という方法でもいいんだけどさ……そもそも出入りはどうするのか、っていう点も考えなきゃいけない。


 みぞおちの辺りに、ハッチでもつけようかな。自動扉を作るのはムズくないと思うけど、関係ないときにパカパカ開いてしまうかも。ローブの合わせ目程度なら、むりやり飛び出すことは簡単だ。さっきみたいにブに手動で開閉してもらうこともできるけど、固いハッチだと難しいか? いっそのこと、開けっ放しならどうだ(笑) 開放されてりゃさっきみたいに垂直な離発着だって、ヘリポートみたいに上手く……


 待てよ、ヘリポート?


 ホントのヘリポートはもちろんムリだ。爆乳のフレーメなら設置可能かも知れないけど、そういう意味じゃない。要するに、が開いてればいいんだ。で、周りに壁があるヘリポートなら、守備力はあると言える……


 鎧で言うと。


 騎士鎧とか、幅広のネックガードが首回りにあるタイプ。なけりゃ似たような胸鎧から作ればいい。改造する、というヒントはさっきフレーメがくれた。どうせ全身鎧フルアーマーじゃないからな。素材が革製なら、改造も十分可能だぜ! 


 そうすれば、通気は問題なし。普段は小穴やマジックミラーとかで外を見て、何かを詳しく観察したいときや他人と顔を合わさなきゃいけないときは、ガードの内側から背伸びして顔を上に出せばいい。出入りは変身してさえいればOKだ。


 と、すれば、そこに転がってるアレとかコレとかを素材にして……と、そう考えながら改めて店内をキョロキョロしていると……


 ガラガラガラッ!


うひゃぁういあぁ!」


 何かが崩れる音と、間抜けな悲鳴が聞こえた。見ると、ガラクタの山が崩れて、フレーメの上半身が下敷きになっている。こいつ、横着して山の下にある商品をムリヤリ引き出そうとしたな?


「おいおい……」


「フ、フレーメさん、大丈夫ですか?」


 ブは心配そうに言った。


えぇなんかあぁあぁ言ったいぁあぁ?」


 フレーメの声は、がらんどうの鎧の山に反響してエコーがかかっていた。こっちの声もよく聞こえてないみたいだな。でも、いちおう無事か。


「……あれあえぇ出られないえあえあいぃ何か引っかかってるあぁあいぁえうぅ


 お前、出っ張ってるとこ多いもんな! ……いや、引っ掛かってるのはたぶん髪とか服か。赤毛娘はうつぶせになったまま、ブーツをはいた足をバタつかせ、ローブに包まれたお尻をフリフリしているが、いっこうにガラクタの山から出られる気配がない。


 何やってんの、お前?


あぁもう面倒くさいおうえぉうあいぃ身体ゾンダーあぁクアーぁ……」


 バカッ、止めろ!


「とお!」


 僕はブの乳房を蹴って、勢いよく外に飛び出す!


「あんっ!」


 そして、1メートル下の(僕にとっては3階建ての屋上から)フレーメのお尻めがけてダイブした! 両手両足を広げて、華麗なるボディプレス!


 ビターン!


うひぃういぃ!?」


 悲鳴と共にお尻がビクッと跳ね上がった!

 すばやくローブの布をつかみ、ガン〇ラ形態モードの大声で叫ぶ!


「売り物を吹き飛ばす気か!」


あっあぅはいあぃごめんなさいおえぇああぃ


 ホント何やってんの、お前?


 まったく、危ないとこだった……

 オール弁償なんて事態になったら、目もあてられないぜ!


 おっ。


 僕の目の前に、1本のロープが垂れてきた。おお、ブ、助かるぜ。ジャンプして戻るには態勢が悪いからな。さっそく掴んでぶら下がり、とりあえずお尻の頂上までよじ登る……ん、この妙な色のロープ、なんか柔らかくて暖かいな。


「はぅっ!」


 ブの息を飲む声が聞こえた。

 続いて……


 頭の上から、その声が聞こえた。


「探し物なら、拙者におまかせを」


 ロープ?に捉まっている僕が、山頂を見上げるように上を見ると……

 フレーメの大きなお尻の上に、大きな白ネズミがすっくと立っていた!

 僕が掴んでたのは、こいつの尻尾だ!


「シ、シ……」


 シロカゲ~!


 センケーゲに来る途中、馬車の屋根で出会ったヤツ。ネズミ形態ラット・モードを王と崇める天才ネズミ、シロカゲだっ! よりによって、なんチューとこに居るんだよ、お前! ネズミ嫌いのフレーメが気付いたら、驚いて死んじゃうかも知れないだろ!


『今は呼んでない、あっち行け』


 僕はロープ、いや尻尾を手放し、お尻の上に立って両手を左右に振り回しながら、口をパクパクさせて声なき声を掛けた……


「御意」


 シロカゲは、僕の意図を正確に悟ったらしく、忍者のごとくシュッと消え去った。まったく……少しでも僕の役に立ちたいんだろうけど、と場合をわきまえろよ。

 頭がいいクセにポンコツなとこあるよな、あいつ!


えっえぇあぃどうかしたのおうあいあぉ?」


「な、「なんでもない」です」


 ブと僕の声が一部ハモった。


「早くフレーメを助けてやれ」


「は、はい……ご主人さま、今のは?」


 僕をその胸元に戻し、積み重なる鎧をどかし始めたブは、小声で呼びかけた。


「気にするな、いつか話すから」


「ねえ、あたいが見てないと思って、イチャイチャすんの止めてくんないかな~ さっきから妙に囁きあってるよね? いまこっちは取り込み中なんだからさあ」


 やっと見えた赤毛の頭から、そんな声が響いた。


「イ、「イチャイチャなんかしてない」です」


 うわっ、ブの肌が急に熱くなったぞ。見上げると、彼女の顔は真っ赤になっていた。それに僕の顔も熱い。ううっ、なんかはじぃよぉ。


 この赤毛娘、ケーケン豊富なクセに、とブの仲、なんか勘違いしてないか?


 まず、こいつは確かにのことを嫌いじゃない、はずだ。鈍いでもその程度のことは判る。でもそれって、超ブラック企業からフツーのブラック企業に(フツーのブラック企業って何だよ)転職できたから、今の上司であるに感謝してるだけだろ。ただ今までの職場がヒドすぎただけだ。後は、なんか信念とか信義とか真面目とか、それに宗教心とかで忠実なだけだと思うんだよな。赤面するときがあるのは、たぶんと同じ恥ずかしがり屋だからだろ。


 そして。

 【奴隷の主人は奴隷に好かれる権利なんかない】


 ハッカイ族の特職ハンター、ヤクトはそう言いやがった。ちょっと違ってるかな?

まあいい、とにかく、もそう思ってる。異世界ラノベのイキってる勇者ならさておき、まともなニンゲンならそう思って当たり前だろ。


 だから、好かれる権利なんか無いはこいつを道具だと思ってる。ホントの意味でを慕うなんてありえない、あっちゃいけないと思ってる。

 ……ムリヤリにでも、そう思おうとしてる。自分のことを、まともなニンゲンだと思いたいからだ。


 身長18センチであること以外は、まともなニンゲンだと思いたいからだ!


 そう……か。


 が、けっこうキビしくブに接しちゃうのは、そんな気持ちがあるからなんだな……


 おっと、もちろん、道具は道具でも、大事な道具であることには違いない。おっぱいも魔力も顔もウザい性格も好きだ。だからは、こいつのことを大事にしたいんだ。言ってみれば、にとって、こいつは【愛機】なんだと思う……


 こいつの、ヒトとしての気持ちとは、関係なく。



 どれだけの時間、そんなことを考えていただろうか。


「じゃ~ん、見て見てご主人さま!」


 フレーメの声に、はっとして顔をあげると……

 選別を終え、いつのまにか着替えた赤毛娘が、僕とブの前で。


 くるり、と回った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る