するほう、されるほう
降りかかる火の粉は払わにゃならぬ。
前世の古~い時代劇動画で聞いた台詞だ。俺って個人情報は覚えてないんだけど、
「マヌー、いいもん手に入れたぞ!」
フレーメの胸元から身を乗り出して、そう声をかけながら俺たちが馬車に入ると、出迎えたのは、なぜだか
「申し訳ありませんでしたっ!」
客室の床で土下座するブ
なにやってんの、お前?
「捨てないで」
ゴンッ、とその緑髪の頭を床に打ち付ける。
勢いで笹耳がビヨヨンと揺れる。
そして俺を見上げた顔は、涙と鼻水でグシャグシャ、美少女が台無しだ。
「私を……捨てないで……ください」
「いや、そんなことしないけど」
「このコは何かカン違いしてるんニャ、たぶん。さっき目が覚めたから、何があったか話したら、急に取り乱して、このありさまニャ」
「あ~なるほどね~」
要するに気を失ってたから、死体とかの後片づけを手伝えなかったことを申し訳なく思ってるワケね。
しかし……
正直言って、ウゼぇ。
なんかね、大げさなんだよね。たかが後片づけ……確かに見てるだけでもしんどかったけど……ぐらいで。まあ、このコの性格として、しかたないかも知んないけど。
だいたい、こいつどこで土下座なんて覚えたん……あー、俺がやって見せたなあ、ブ
いたたまれないぜ!
ああ、もう…… 果てしなくメンドくさいけど、フォローしとくか。こんなふうに頭下げられると、俺のメンタルがキツいもんな。あ、そうか、前世日本の自主的な土下座ってのも、基本的に相手にプレッシャーをかけることが目的か。
イキりに強要される場合は違うけど!
だけどさ……このコには、俺を何とかしようって邪心が全然ないって感じられるから、なおさらキツく思うんだよな~
「まあ、その、なんだ、とにかく立て。座れ」
よろよろと立ち上がるブ
「あの! 私は、私は……私だけ、何もしないで……!」
ブ
ここはひとつ、褒めてやるか。
「お前は良くやった」
「えっ、そうなんですか……」
ブ
ホント、可愛いよな~
ウゼぇとこあるけどな。
「倒れたことは別に気にしてない。今回は色々と初めてのことだし……」
「初めて……」
「そうだ、俺にとっても初めてだ」
童貞じゃなくなったし、と俺は思った。前世のハードなラノベとかじゃ、人を殺してないことを『童貞』と
「お前を捨てたりなんかしないよ。俺にはお前が必要なんだ。たぶん何度でも、お前のちからを求めると思う。これからもよろしくな」
「何度、でも……はい……はい!」
ブ
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私は、死んでしまうかも知れない。
ブ
あのとき、私は確かにご主人さまと繋がっていた。
おのれのすべてを捧げる歓喜のままに、最初はただ勢いまかせてあふれ出す魔力を打ち付けた。やがて、自分のほとばしる想いは、ご主人さまの小さくとも
そして、たとえようのない悦びが爆発した。
こんな醜い身体に生まれた以上、お慕いするヒトと重なり合う喜びは、ありえないと思っていた。あきらめていた。でも、まぎれもなく、これはそうなのだ。そうに違いない!
そして、頭の中は真っ白な幸福に塗りつぶされた。
目が覚めて、マヌー様から事情を聴いた私は……
捨てられる、と思った。
何でもできて笑顔が可愛くて身体強化魔法まで使えるフレーメさん、その胸元に、私よりもずっとずっと豊かなその胸に、ひとたびご主人さまが収まったのなら、きっと私よりもフレーメさんを選んでしまうだろう。
優れたものが選べるというのに、劣るものがなぜ必要なのか。賢きを誇るヒトは常にそう言っているではないか!
誰からも
なのに、私ときたら……
頭を下げずには、いられなかった。
「私を……捨てないで……ください」
かつてのご主人さまの仕草を、あつかましくも真似してでも、ただ泣きわめいて、許しを乞うしかなかった……!
盾となる使命も忘れ、たやすく意識を飛ばすほど、初めての感覚に夢中になって……
「あの! 私は、私は……私だけ、何もしないで……!」
私だけ、何もしないで、倒れるほど、自分ひとりだけで気持ちよくなってしまった、ではないか。
ああ、私は、ただ醜いだけならまだしも、何という罪深いゴブリンなのだろう……
こんなふうに、ブ
「お前は良かった」
かあっとブ
「えっ、そうなんですか……」
今度は喜びのあまり、ぼうっとしてきたブ
「俺は初めてだ」
さらに、ブ
えっ、それじゃ……
初めてを感じたのは、私だけではないのですね、あつかましすぎるけれども、おそろい、だと、そう思っていいのですね。おとぎ話の少年と少女が、たがいに初めての想いを実らせるように……
希望を取り戻した少女に、クラインの
「何度でも、お前を求める」
私は、死んでしまうかも知れない。
ぽろぽろと喜びの涙を流しながら、ブ
嬉しすぎて、死んでしまうかも知れない。
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念のために、ニュタルでは馬を売らなかった。9頭立てのまま慌ただしく、さらに2日、5つの町を経て、今日の昼にはとりあえずの目的地であるセンケーゲにたどり着く。
それが俺たちの、年始年末。
ナッハグルヘンは正月ごとに年齢を『数え』る決まりだから、俺は16才に、マヌーは18才に(えっ、そうだったの?)、フレーメは17才に、ブ
スルーされたら
それにしても9頭立てって、
厩舎代と飼葉代がスゲーの何のって!
おカネ減ってきたからシンドイよ~
港町センケーゲは、領都ハノーバに劣らない大きな街だと聞いている。不要な7頭の馬も、簡単に売りさばくことが出来るはずだ。そっから先の金策はどうするかなあ……
あれから、ブ
あいつのために、俺が怒ったからだ。
特職ギルドのあるハノーバから離れるにしたがって、他人の視線が冷たくなった。特職、特にブ
こないだ作ったフレーメ用の槍も、ぽっきり折れたしな!
ハノーバにいるうちに装備を買っときゃよかったけど、寝込んだ俺に替わって旅支度をしてくれたアインガンさんとマヌーには、そこまで思いつかなかったみたいなんだ。
それで、昨晩はついに、ブ
「カネは払いますから!」
「いーや、妖精さんにはヒト社会のことは判らないかも知れないけど、そういう問題じゃない。特職やブ
「こんなにいい匂いなのに!?」
「ご、ご、ごご主人さま、私は馬車で寝ますから」
「あたいも、そうするから」
「クライン、もう諦めるにゃ、そういうもんにゃ」
てな、やり取りが宿の亭主とあって、俺の気持ちが少しだけ素直になったんだ。俺にとってブ
メンテナンスはちゃんとしなきゃ!
と、再度思った出来事だった。
ちなみに今朝がた、その宿では運悪く酔っ払い客がボヤを出した。大騒ぎを横目にチェックアウトしたけど、ありゃあキッカリひと部屋焼けたな。もちろん、あたしは誓って放火なんかしてない。でも……
妖精の呪いは恐ろしいよなあ~
さて、センケーゲに着いたら、馬やらカネやら装備やら、やることが山積みだ。チェックリストでも作るかな……
そう思ったとき。
俺っちのすぐ横に、白い影が立っていることに気付いた。ええっ、ネズミ感覚に反応しなかったけど、これって、俺っちと同じくらいの大きさの……
白ネズミ!?
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