武器よこんにちは

 には夢があった。

 期待していた。


 このハイエルフ由来の正体不明な魔法陣が、ファイヤー・ボール魔法を発射するモノかも知れないと思ったときから……


 ついに魔法陣を解析し、街道の外れでファイヤー・ボールの発射実験に見事成功、これで昨日ぐらいからの(最近だな!)夢がかなう、と思ったんだ。


 だってさ、俺はこの魔法陣を紙とかに幾らでもコピーできるじゃん? 売るのは色々差しさわりがあるだろうけどさ、パーティ全員に持たせるぐらいは簡単だ。


 でさ、強大な敵に遭遇したら、全員が揃って、相手に向かって身体を横向きして、伸ばした右手には、そう……グリップをつけて銃型にした魔法陣を握って(俺は両手で抱えるバズーカ型だぜ)、俺の号令でさ……


「目標、クソ冒険者ども! 総員、ファイヤー・ボール・ガン、構え! 一斉発射ーッ!」


 そしたらさ、華麗に並んだ4条の炎のビームがズズズズギューン!と飛んでってさ、ドドドドーン!とカッコよく敵を撃破する……


 そんな夢を見てた。見てましたッ!

 かなわなかったけど!


 なぜかと言うと……


 この魔法陣の起動には『魔力によるダブルタップ』が必要なんだけど、俺以外、そのタップが出来なかった……!


 バカバカしい、そんなことあるのか、って俺も思った。だってマヌーもブもフレーメも、魔道具に魔力を流すことは出来るんだから。だけど、出来なかったんだな、これが……


「魔力を短く2回流す? ニャにを言ってるニャ?」


「ぐすっ、すみません、すみません……」


「ねえご主人さま、これってムリじゃない?」


 まあ、口笛程度のことだって出来るヒトは出来るけど、出来ないヒトは出来ないからなあ。練習してもらえばひょっとして……と思ったけど、俺自身がガ〇プラ形態モード以外の姿ではダブルタップ出来なかったよ……素の俺も含めて。


 夢中になってミスったときみたいに、魔石をタップして起動することは出来るけど、その後が続かない。コントロールする使用者の魔力が、魔石と同じ質の魔力じゃないからだ。


 つまり、この魔法陣って『ゴーレムが制御する専用の魔法陣』なんだろうな~ ガ〇プラ形態モードは対外的にはゴーレムだし、例の白い塔の兵器コンソールもたぶんゴーレムだもんな。


 いつか本物のゴーレムも作ってみたいな~


 ……とりあえず。


 ガ〇プラ形態モードだけなら、「ファイヤー・ボール・ガン(長いからFBガンにしよう)」を撃てる見込みがついた。

 完成したFBガンを僕が使用するにはMPの問題で、ブの胸に収まる必要がある。繰り返すけど、仕方なくだかんな。仕方なく。そうだ、FBガン本体は彼女に持ってもらえばいいじゃないか。だったらムリに小型化する必要もない。


 さて。


 これが、宿場町ヘルザに着くまでに得た成果だ。


 そして、さっき例の冒険者ども(アニキとオッパだっけ)が先に出かけた、今日。


 朝メシのチーズ粥をかきこんだら、まずはFBガンの作成。ブは魔力タンク係なので特に何もしない。すごく手伝いたそうな顔してたけど、お前はそれでいい。フレーメは木材の調達。マヌーは二度寝。お前はそれでいい。


 昼メシは馬車駅で売ってた川魚の干物と堅パン。こういう宿場町の安宿にはたいてい共同の炊事場がついてるので、調理はそこでする。フレーメが身体強化を使って魚の身をみじん切りにして炒めたのをオリーブオイルで伸ばしてペーストにしてもらった。これを塗ったら堅パンの薄スライスがなかなかイケた。骨はスパイスを効かせてスープのダシにした。マヌーに大好評だった。あいつうつわを舐めやんの。パンでぬぐえよ~


 猫じゃないけど、やっぱり猫かな~


 俺は料理道具への変身はやろうと思えばできるけど、鍋で溺れるわ火傷しかけるわで、たいていの料理は危険すぎて手伝えない。マヌーもあまり器用なほうじゃないので、基本的に『料理するヒト』は特職少女たちだ。前世でこんなこと公言したら、美貌以外はハイエルフみたいなかたが目を吊り上げるだろうな~


 でも身長18センチのニンゲン族と猫手のケットシー族だからな。五体満足だけど料理するのは不満足だぜ!


 川魚があるなら川が近いのかも、と思って駅員さんに聞いたら、町はずれの林を抜けた先に浅い川があるとのこと。川辺なら真冬なので人目も気にしなくてよさそうだ。午前中に完成した(スゲー!)FBガンを持って皆でゾロゾロ実験に出かけた。昼寝をしたそうなマヌーも一緒だ。お前、条件つけたんだから見届けろよ~


 枯れ木で三脚を作り、FBガンをセットする。本番ではブが構えることになるだろう。安全性を考えるとやっぱり完成品は大きくなったから、もう『FBガン』じゃなくて『FBライフル』だな。


 待てよ。


 『ガン』とか『ライフル』って確か何かゲンミツな定義があったような気がする。ライフなんとかじゃなきゃそう呼んじゃいけない、とか…… まあいいや、どうでもいい。


 ドーン!


 やったね! 枯れた倒木を粉みじんだ! これって環境破壊だな!

 木々の向こうで音に驚いた鳥たちがまた飛び立った。しばらくしてから舞い戻ってきたようだけど、それを見たマヌーが全速力なのに音も立てず林の中にダッシュ、やがて血まみれで帰ってきた。


「どんなもんニャ」


 誇らしげに、その猫顔の倍くらいデカい獲物……山鳩かキジか?……を短い両手で頭の上に掲げてる。服についてる血はもちろん鳥の血だ。


「スゲー!」


 野生の本能の爆発だ! と、思ったら……すかさずダチは浄化の魔道具を使いやがった。魔法の波動がぶわっと広がると、その服と毛並みはすぐまた元のように綺麗になる。都会の潔癖症の爆発だ!


 この造花のカタチをした魔道具は、どうやら特職たちにも好評のようだ。トイレ行かなくて済むもんな。経験豊富な(エロだけじゃないぞ)フレーメに聞いてみると、浄化の魔法クレンジングを使えるヒトはいるけど、フツーは身体の外側しか綺麗にならないらしい。でも、パンツの中まで綺麗になるのなら、さらにその内側だって綺麗になるのが道理じゃないかな? 常在菌とか不安だけど。


 この場所では、もうひとつ思いついた攻撃手段の実験をしてみた。だって遠距離攻撃だけ凄くても、それだけじゃ心もとないもんな。


ネズミ形態ラット・モード再定義リ・デファイン!」


 変身!


「ひいっ、ネズ……ああ、ご主人さまか」


 鳥の血抜きをしてたフレーメがお約束の反応をしたのを横目で見ながら、はドクロの指輪を王冠のように被る。この指輪型の魔道具のパワーは、半径1メートルぐらいの範囲にある紙や布に字や絵を描き、消すことができる。最近は主に魔法陣を書くのに使ってる。でも、ハイエルフのヴァイスラーベとの決戦時、必要に迫られたは壁やディスプレイさえ魔法のインクで塗り上げた。血の赤い色も使えた。


 それなら、角膜はどうだろう?


 自分を対象ターゲットにして念じて見ると……


「おお、これはヤバいでチュー!」


 俺っちの視界は魔法のインクで真っ赤に染まり、確かに何も見えなくなった。そしてやっぱり消すことも簡単だった。


 このワザをもっと早く思いついてたらなあ!


 ただ、角膜は涙で濡れてるせいか、インクはわざわざ消さなくても数秒で消えて視力は回復する。まあ、そもそも空気や水面とかだと書けない……うん、試してみたらやっぱりダメだった。


 そこまで万能じゃないか。


 ……でも、ネズミの感覚はそんなに視覚に頼らない。現に、今の俺っちのネズミ感覚だと目が見えなくてもかなり動けるので、それほど脅威に感じない。


 ここまでは想定内。


 では、鼻の粘膜や鼓膜、ヒゲはどうだろうか?


「まあまあか……」


 結論を言うと、それなりに感度を減じることができるけど、視覚ほどじゃなかった。ただ、ネズミ形態ラット・モードの本能的感覚だと、それだけでものすごい不安になった。ネズミにとっちゃ、ありえない現象だもんな。もし、いきなり目の前の相手にこれをやられたら、自分は弱体化デバフをかけられたも同然だぜ。つまりこれで、ネズミのように視覚に頼らない敵にもある程度通用する(はずの)デバフ魔法を手に入れたワケだ。


 と、実験のため見えない目でウロウロさまよって(メガネ、メガネ……)いると。


 俺っちは暖かい何かに捕まった。ブの手だ。魔法のインクを消してその顔を見上げると、また涙目になっていた……


「そういうのは、私の役目です」


 俺っちの様子を見て、さすがに何をやってるか気付いたんだろうな。


「あー、ネズミ相手に実験する必要があったんだ」


「実験なら、ヒト相手にも必要だと思います。私なら、もしものときは目をくり抜けば元にもどりますから」


「……判った。判ったから、そんな怖いこと言うの止めて!」


 で、ブ相手に確かめたところ、その証言から、数十秒だけど確かに目つぶし効果があることを確認した。危なげなく解くこともできた。


 これを目つぶし魔法アウゲンビンダーと名付けよう!


 んんっ?


 なんだか今、何か見逃してたような、起きるはずのことが起きてないような、そんな気がする…… まあいいや、今は忙しいから、後でちゃんと考えよう。

 

 宿に戻ったたちは、さっそく準備の続きをする。たぶん待ち伏せされると思うので、馬車の前方と屋根に装甲板を打ち付た。弓矢対策だ。もと探索者であるフレーメの話によると、馬は高く売れるのであまり直接狙われないらしい。だから馬の装甲は薄めだ。本当はもっと鉄板とかの装甲にしたいけど、重くなるから馬に負担がかかりすぎるよな。


 ちなみに。


 ずっと馬とか表現してるけど、ナッハグルヘンの馬は地球の馬とはちょっと違う。タテガミの上のほうにボリュームがあって、少し目が大きくてマンガのイケメンみたいな感じがする。ウチの馬は二頭ともメスだけどね。骨格も少し違うような気がするけど、地球の馬自体をよく知らないのでカン違いかも知れない。なお、フレーメの言う探索者の流儀にしたがって、名前はつけてない。いざというとき食料にするので、情が移らないようにするためらしい。


 キビシイ世の中だよ!


 さらに、客室と御者台の間には小さな扉をつけて、客室内からFBライフルで前方を狙えるようにした。射線が馬に当たらないことも確かめた。これで、待ち伏せするクソ冒険者どもを撃破してやるぞ。


 こんなもんか。また徹夜かと思ったけど、今日はこれぐらいでカンベンしてやる!



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 私は、何と罪深いゴブリンなのだろう。


 これで何度目なのか。

 ブはまた、そう思った。


 彼女は今日、放たれた矢にも劣らぬ速度で働くクラインを見て、なおさらそう思ってしまった。竜巻のように材料の間を駆けずり回るその姿を。


 ときおり、『魔動ハンマー!』とか『魔動ソー!』などの、訳が判らない叫びをあげて、さらに訳が判らないが奇怪な美しさを持つ姿に変わったかと思うと、みるみるうちに何かが出来上がっていく。


 そして、「おっといけない、MP切れ警報だ」などと呟いては、彼女の胸元に飛び込んでくる。自分が役に立っていると感じられるのは、魔力が繋がりあうそのときだけだった。


 色々な経験を積んだ可愛らしい同僚フレーメと比べれば、自分は何もできないと同じだ。特職だから家事程度のことは当たり前にしても。


 そして、最も悪いことには。


 待ち望んでいた『輝きが信じるヒト』には、いかなる隠しごともしてはいけないはずだ。まして自分は特職なのだ。


 だというのに。


 私は今日、ひそかに、願ってしまった。


 ご主人さまが目つぶしの魔法を解除するとき、願ってしまった。口に出して「を消さないで」と言えなかった。




 (消さないで)




 と、ただ、願ってしまった。


 ただでさえ醜い私にがあれば、将来ご主人さまを困らせることになると判っているはずなのに。ご主人さまが特職ギルドで私にを刻むとき、迷ったそぶりを見せていたのに。


 あつかましくも私がそう願ったから、強く強く願ったから、制御できないはずの自動回復魔法が屈したのだ。だからは今も消えていないのだ。


 何と罪深いことだろう!


 夕食の支度をしながら、ブは自分の頬を何度も撫でた。

 彼女が『ご主人さまとのきずな』だと感じている……




 ハッカイ族の刺青を。



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「準備は整った!」


 屋台風の焼鳥に、短いパスタをごっしゃり入れた野生ハーブ入り鳥団子スープ、という贅沢な夕食の後。俺は、仲間に宣言した。


「これより、すべてのプランを発表する!」

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