シークレット・オブ・マジック

 は見つけたかも知れない!

 新たなる武装パワーを!


 身長18センチの身でありながら、いつか義妹リーズを救うため旅を続けるは……


 すみません。

 のっけから嘘つきました。


 今回の実態は目新しいオモチャに夢中になってただけですぅ。で、またしても調子にノリすぎて大ポカをやらかした。正体不明の魔法陣をうっかり起動して、大惨事を引き起こすところだったのだ。


 ブが発動直後の魔法を潰してくれなかったら、どうなってたか。で、またしてもマヌーに叱られた。


「フシャー! こんな危ないコト、馬車の中でやるニャよ!」


「……はい」


 ごもっともでございます。

 はじぃよぉ。


 僕は御者台に場所を移して、研究を続けることにした。我ながら懲りないよな~

 5百円玉くらいの大きさ(僕にとっては丸いお盆トレイくらい)の、琥珀板に描かれた魔法陣をブに持ってもらい、僕自身は彼女の谷間で収まってそれを観察する。頬にあたる風は寒いけど、ここは……


 ほっかほかだよ~


 ありあわせの材料で簡単な座席シートも作った。この程度の工作、材料さえあればガ〇プラ形態モードならもう秒単位で作れるようになったんだよな。あの白い塔で追い込まれた経験が生きてるんだと思う。レベルアップかな?


「いったいそれ、何なんですか?」


 隣で手綱たづなを握っているフレーメが、白い息を吐き出しながら聞いてきた。御者をしてたこの赤毛娘は、客室の中の一連の騒ぎを見てなかったんだよな。のんびり走る馬車の振動で、厚着してても目立つその胸がゆさゆさ揺れてる。えへっ。


「たぶん……ファイヤー・ボールを撃つ魔法陣だと思う」


「えっ……ええーっ!?」


 まあ、驚くだろうな。フレーメの元の仕事は戦女神バルキリ。つまりダンジョン探索者たちの「囲われ」だった。だから、強力な攻撃魔法を発する魔法陣や魔道具が、どれだけ貴重か判ってるはずだ。僕の前世、現代日本の感性なら、たぶん携帯ミサイル砲なみ(こういう表現で合ってるっけ?)の珍しさと言えるよな。


「フレーメ、お前はファイヤー・ボールについて、それなりに詳しいんだろう? 僕に教えてくれないか」


「あたいその魔法、使えないんですけど」


「判る範囲でかまわない」


 フレーメの知識と、以前に手品師トマタさんから聞いた話、そして僕自身のつたない経験を(撃たれたことがあるもんな)を基に、この魔法陣を分析してみようと思った。


 まずは魔法陣……いわば魔法のCPUチップについて、今まで判っていることを、おさらいしてみよう。


 魔法陣の外見は、小さな丸い図形だ。そのデザインは、丸い輪の中に魔法文字……ルーン文字とか象形文字みたいなフォント……が、同心円状にギッシリ詰まっている。高性能なモノほど複雑だ。たいていの魔法陣はインク付きハンコぐらいの大きさ、つまり僕の握りこぶしぐらいの大きさだ。魔法陣が小さい理由は、大きくすると発熱するからだ。


 魔法陣は、紙や木や琥珀の(絶縁体っぽい?)板に描かれている。魔法陣の作成には、僕が占いオババのドロシィさんに貰ったドクロの指輪のように、魔法的に字や絵を書く魔道具が必要だ。高性能の魔法陣は何枚も重ねて構成されている。僕はこれを多重魔法陣と呼んでいる。


 魔法陣は、魔力を流すと作動して、魔法的現象を引き起こす。その魔力源は使用者本人の魔力や魔石、大気中の魔力など、そのタイプによって違う。魔力が弱いと魔法陣は機能しないけど、魔法的なセンスを持ってるヒトには魔力の反応を感じ取ることができる。


 と、いうことは、この魔法陣をより正確に分析するには、魔力を計る道具があると便利だよな……


 そうだ、思い出した。


 残念イケメンのコテコテさんが、妖精形態フェアリー・モードのときのの魔力を魔力計で計ってた。あの魔道具はの身長を超えた大きさだから、もっとコンパクトに、そう、前世日本の科学的な解釈でイメージすると……


 シャキーン!


 脳内効果音と共に両手の籠手ガントレットが変形する。指先が長く伸び、右手が赤く、左手が黒く染まる。その先端を魔法陣に接触させると、魔力の細かい流れが判る!


 名付けて「魔力テスター」だ!


「あっ、ご主人さま、何それ!」


「すごいです、尖ってます!」


 フレーメとブの目から見ると、きっと僕の両手はもっと本物のテスターっぽく見えているだろう。小学校の理科の実験に使うヤツだ。まあ、彼女たちは地球のテスターなんか見たことないはずだけどね。


 の各種変身モードは、自分の感覚では高級コスプレだけど、他人から見ると本物の妖精やネズミに見える。ガ〇プラ形態モードじゃもっと極端で、自分じゃアーマーが少々変形するイメージなのに、外から見るとほとんど全身が各種工具に変身しているように見えるみたいだ。


 魔力テスターで魔力を測定するとその変動は感じるけど、はっきり数値が判るわけじゃない。単位だってないし。ちょっと不便に感じたので、魔灯ランタンのガラス部品をちょっと切り取ってバイザーを作ってみた。ここに魔力の測定量を投影する……いや、そんなメカニックなことが実際にできる訳ない。


 でも、ネズミ形態ラット・モードのときはネズミ道ラット・ロードや危機情報がVRみたいに見えるんだよな。だとしたら、万能工具たるガ〇プラ形態モードなら、占いグッズとか、ダウジング棒みたいに「無意識の分析情報を見える化する道具」にはなれないかな……


 おおっ!


 そのつもりで頑張って念じて見たら、見事、測定した魔力量がバイザーにバー表示で浮かびあがったではないか! グラフ化もできる! 僕にしか見えない情報だけど。


 あ、そうだ。


 僕自身の魔力残量も……うん、表示できた。これを「MPバー」と呼ぼう。それなら同じ理屈でインカムだって作れないかな。おお、できた。あくまでこれは無意識との情報交換だけで外部と通信できない。残念! でもこれで残りMPの警告音とか聞こえるし、技名(笑)を叫べば特に意識することなく変形できるぞ! ガ〇プラ形態モード限定で!


『起動せよ、魔力テスター!』


『シャキーン!』


 おっと、いけないいけない。また横道それすぎだ。それにしても……ヘルメットと合わせたコーデの外見はもうホントに、ロボットのプラスチック模型にしか見えないだろうな~


 もちろん、この世界ナッハグルヘンのヒトにとっては、ロボットじゃなくて小さなゴーレムだけど。


 さて、気を取り直して。


 馬車の御者台で半日かけて研究。この謎の魔法陣を分析して、仮説を立てて、実験を繰り返して……何とか解明できた秘密が、以下の通りだ。



1.結論から先に言うと、この魔法陣はやっぱり「ファイヤー・ボールを撃つ魔法陣」だった。見たことあるな~と思った魔法文字は、「火付け(の魔道具)」と同じ文字だったんだ。別の紙に複写することもできたぞ!


2.この魔法陣に魔力を込めただけじゃ、起動はしても発射しない。たぶん安全装置の一種だろうと思うけど、発射するためには特定の信号を送る必要がある。まあ、『信号』と言っても、魔力で『ダブルタップ』するだけなんだけどね。だから僕のリズムゲームもどき遊びで発射してしまったんだ。


3.魔法の発射は、まず球状の熱いガス弾が発射され、空中で着火する。そのあと、ボールは魔法陣から30センチほど離れた位置で一瞬だけ静止する。フツーの魔法使いならこの静止している時間に、ターゲットとパワー量を、呪文や身振りで制御コントロールする。白い塔トゥルムでは制御卓コンソールがコントロールしてたんだろうな。


 攻撃魔法はオトコノコのロマンだから、幼いころオルゲン一座のトマタさんに、せがんでお話してもらった覚えがある。マヌーも知ってた。フレーメが経験談で裏付けしてくれた。僕自身も目撃してるぞ。ハノーバでフレーメが鬼ごっこをした時、冒険者が炎の魔法を使ってたのを僕も見てる。確かに、あいつらの手元で火の玉が一瞬だけ現れて、それが赤毛娘めがけて飛んでったんだ。


 あれっ?


 真の妖精形態リアル・フェアリー・モードのときのが迎撃砲に撃たれたとき……確か、いきなり火の玉が発射されていたよな。発射前の砲口の先端に、火の玉が生成されるプロセスがあったっけ? ……まあ、この魔法陣は、いわば部品のひとつなんだから、製品版とは違うよな。


4.何もコントロールされないと、その一瞬の時間が過ぎた直後に、込められていた魔力が全部パワーに変換され、ボールはその場で爆発する。魔石程度の魔力じゃ前世での電池の爆発ぐらいだと思うけど、俺の身体には致命的だ。うわっ、あのとき危なかった! ブのお手柄だ!


「なあブ、どうして咄嗟とっさにあんな動きができたんだ?」


「自分でよく判りませんが、とにかくこの悪いモノをすぐ何とかしなきゃ、と思ったんです……ご主人さまのために」


5.この魔法陣と魔力持ちを魔導糸まどうしで繋げた状態で、魔力を『ダブルタップ』して、ターゲットを狙う(念じる)ことをすれば、ファイヤー・ボールが発射される。……はずだ。複写した魔法陣を内側に張り付けた、5センチ角の木箱の試作品(初号機だぜ!)を作ってみた。


6.最終実験だ。例の怪しいヤツらや他の乗り合い馬車が来てないことを確認し、適当に開けた場所で馬車を止める。目標は20メートルくらい離れた崖の岩肌。魔導糸を繋げた初号機を道端の切り株の上に置き、僕らは5メートルほど離れた馬車の後ろに避難する。


「対ショック、対閃光防御!」


「……たいしょく? ニャんだって?」


発射ファイヤ!」


 僕はブの胸元に入ったまま、手に持った魔導糸にダブルタップで魔力を流す!


 バシュ! ボッ!


 撃ち出されたガス弾が着火する!


「目標、あの辺! 魔力エネルギー充填……ええと、怖いから20パーセントぐらい!」


 ゴオォォォッ!


 すっ飛んでいった火の玉は、見事、岩肌に当たり……


 ドカーン! オンォンォ……


 派手な音を立てて爆発した!

 冬の空にコダマが響きわたった。


 バサバサバサッ……


 続いて、近くの森から、驚いた鳥たちが飛び立った……


 成功だあっ!

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