わくわく分解タイム

 俺たちは狙われている。


 『アニキ』と『オッパ』という名前の、たぶん冒険者の反社野郎たちに、美少女特職フレーメと他のメンバーの命を。


 そしてもちろん、カネを狙われている。


 今、ヤツらはここ宿場町ヘルザをとっくに出ていて、明後日には隣町ニュタルまでの街道筋で待ち伏せするはずだ。


 だけど。


 そう簡単にヤられはしない。身長18センチだって、スゲー武装はあるんだからな。仲間だっているし!


 そのカンジンの武装のもとになったのは、もちろん、特職商人アインガンさんから貰った、あの「謎の壊れた部品」だ。これはおそらく、ハイエルフの大量破壊兵器、浄火砲クレンジング・キャノンに付属してた迎撃砲の部品だ。


 実を言うと俺は、ハノーバからここヘルザの町まで馬車で旅した二日間、この新たなオモチャだけにハマっていた。やらなきゃいけないことが他にいくらでもあったけどさ。男のコだもん(ときどき怪しいけど)、しょうがないよね!


 それで判ったことがある。

 完全に修理することはムリだったけど、とんでもない収穫があったんだ!


 その研究の内容を、具体的に語りたいと思う。

 って言うか、聞いて聞いて!

 誰に聞いてほしいのか判らないけど!


 はこの二日間、ほとんど寝ずにガ〇プラ形態モードで過ごした。んで、魔力切れの気配がすると、は慌ててブの暖かい胸元に飛び込んで魔力チャージするというサイクルで研究しまくった。


 なお、ガ〇プラ形態モードのガ〇は手甲ガントレットのガンで、プラはプラスチック模型のプラだ。どちらの単語も一般的用語だ。そして、おっぱいダイブするのはそこが魔力のみなもとたる心臓に一番近いからであって、仕方なく、ホントに仕方なく飛び込んでるだけだかんな。


 重要なことなので何度も言うけど!

 誰に言ってるのか判んないけど!


 まず、僕は『部品』の分解を試みた。揺れる馬車や宿屋部屋の床に布を敷き、そこに部品を乗せて分解する。念のためできるだけメモをとりながら、だ。


 ガ〇プラ形態モードのときの僕は万能工具として(もちろん大きさは最大18センチ)動くことができる。他人の目から見ると、本当に工具状に変形しているように見えるそうだ。


 いかにも魔意味ミームパワーだな~


 テニスボール大のカプセル状本体をぱっくり割ると、まず目についたのは鳥の巣ののような糸の塊だ。ほとんど千切れてる。この糸は細いコードにも光ファイバーにも見える。本体に繋がってる千切れたゴムホース状の中身も同じ糸の束。また、ホース接続部分の反対側には穴が開いている。


 この穴、魔法の発射孔か?


 本体の糸の塊は、卓球ボールよりふたまわり大きい球状ケースを包んでいる。その周りに、その糸がビッシリ生えて……いや、末端が繋がっていたようだ。見かけはまるでロン毛のマリモか球状のクラゲ。やっぱり片側に穴がある。さらに球状ケースを分解してみると、その中身は琥珀の板に描かれた大きさの違う数十枚の魔法陣だ。


 いわば、多重魔法陣……!


 すぐ見て判ったが、ほとんどの魔法陣が欠けていた。僕は魔法陣の複製や少しの修復、百円ショップの商品程度のチープな工夫ならできるようになったけど、高度な修理はできない。


 カンに頼ってるもんな!


 ケースから魔法陣を取り出してみると、簡単に直せそうな魔法陣は3枚だけだった。あとの陣はみんな割れて欠片は粉々だ。


 このうち2枚は同じもので、球状ケースの中央部分にあって、魔法陣の中では最も大きく直径が5センチぐらい。そして陣の中央には直径3センチぐらいの丸い穴が開いている。僕のサイズにとっては、小型自転車のタイヤぐらいの大きさだ。


 残り1枚は、発射孔の反対側に配置されていた5百円玉くらいの大きさのモノ。穴は開いてない。僕から見れば大き目のフリスビーぐらいの大きさかな。この魔法陣に使われている図形の一部には、何だか見覚えがある。


 まあイジってみれば何か判るかも、と軽く思った僕は、ドクロの指輪のパワーを使って切れた線を修復し、この3枚の魔法陣にそれぞれ魔力を流してみた。


 いま思い返すと、これは危険すぎる行為だったぜ…… 手りゅう弾でお手玉するぐらい? このとき僕が死ななかったのは、運が良かったとしか言えないよな~


 で、そのとき何が起きたかと言うと……


「だめか……」


 何も起きなかった。

 魔法陣が起動したような気配がしたが、それだけだった。


 


 今度は糸のほうを調べてみた。


 この糸が信号線や電源ケーブルの役割を果たしていることは予想できた。だから切れた糸を一本だけ持ち、反対側をブに持ってもらい、試しに魔力を流してみたら……


「どうだ、魔力を感じるか?」


「はい、感じます」


『〇〇……〇……』


「えっ」


 糸から……なんかブの言葉みたいのが伝わって来るじゃないか。その暖かい魔力と共に!


 色々と試してみて、この糸がスゲー超素材だということが判った。


 ほとんどの魔道具は、使用者が魔力を流したりじたりという『操作』をすることで作動する。だけど、魔道具に使用者が近接しないと、その操作を行うことができない。この縛りは何かの法則のせいなのか、それとも魔法陣の仕組みのせいなのか、その詳細や原理は僕には判らない。


 しかし、この糸は……!


 魔法陣を描く媒体にこの糸を固定すれば、その魔法陣を離れた場所から操作できるんだ。命令する念を伝え、魔力を流すことができる糸。この糸は結んで繋げることもできるし、束ねて精度や強度を上げることもできる。


 これを『魔導糸まどうし』と名付けよう!


 あ~もちろん、『念』を伝えると言っても、音声端末になるメカ、つまりマイクとスピーカにあたる魔法陣がないと電話としては使えない。残念ながらこれは今後の課題だな~


 それに魔導糸まどうしは魔力も念も恐ろしく減衰しやすいみたいで、使用できる環境も限られるだろう。たしかこれを使っていた白い塔では、コンソールから浄火砲クレンジング・キャノンまで3階建て程度、つまり10メートルも離れてなかったと記憶してる。たぶんその範囲が限界なんだろう。


 僕は走る馬車の中で、魔導糸まどうしの実用実験をしてみた。


 魔灯ランタンから円柱状の人造魔石を外し、適当な長さの魔導糸まどうしの一端をランタンの魔法陣に繋いだ。もう一端は木の楊枝に結ぶ。つまり、有線リモコンでオンオフする実験をしてみたんだ。自前の魔力を使わず魔石を使うのは、実験の精度を高めるためだ。ヒトの魔力は感情に左右されちゃうもんな。


 僕にとってはドラムステックほどの大きさの楊枝を振り、ドラム缶ほどの魔石をコン!と叩いてみると、果たして……!


 パッ。


「おっ」


 見事、ランタンが一瞬だけ点灯した!

 もう一回叩く。


 コン! パッ!


「おおっ!」


 コン! パッ! コン! パッ!


「うおおおーっ!」


 なんか前世のリズムゲームを思い出して(僕はゲームおたくでもあったようだ)夢中で叩いて遊んでしまった。くっ、この程度のショボゲーで…… でも15年ぶりのゲームもどきなんだよ~


 コン! パッ! コン! パッ!

 コン! パッ! コン! パッ!

 ココンコンコンコンココン!

 パパッパッパッパッパパッ!


 なんかヘンになった僕を、ブが緑の目を丸くして見つめた。座席で寝てたマヌーも顔をあげる。


 コンパッ、コンパッ、コンパッ!

 コンコンパッパッ!

 コココココココココココココン!

 パパパパパパパパパパパパパッ!






 そして、それが起きた。



 夢中になって思わず引っ張ったせいか、魔導糸まどうしが途中の結び目でほどけた。僕はすぐそのことに気付いたが、いきおい余ってステッィク(じゃなかった楊枝だ)を何回か空打ちしてしまった。


 ほどけた魔導糸まどうしの先端が、あの作動しなかった魔法陣、むきだしで置いといた魔法陣のひとつに……


 触れてしまっていたのに!


 バシュ!


 突然、上を向いていたその魔法陣から、エアガンみたいな音と共にビー玉ぐらいの大きさのモノが発射され……


 ボッ!


 ガスコンロ着火みたいな音を立ててビー玉のようなモノは、空中で浮いたまま火の玉となり……



「ファイヤー・ボールにゃあああっ!」




 マヌーの叫び声が聞こえ……




 

 僕は、ぽかーんとその火の玉を見つめ……



 


 ジュッ。





 目にも止まらぬスピードで差し出されたブの手が、火の玉を掴み、肉を焼く音と共にそれを握り潰した。


「ご主人さま、大丈夫ですか」





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