拝啓、冒険者殿

 目つきの悪い、冒険者にしか見えないヤツらが、俺たちの様子をうかがっているようだ。こいつらと対決する。そしてまずは、本当に盗賊のたぐいなのか、確認する。


 そう決意した身長18センチの俺は、新たな仲間パーティに、はじめての『ぷれぜん』を行った。


「お手紙を、書こうと思う」



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 宿場町ヘルザの、寒い冬の朝。


 かつて、ハノーバの冒険者ギルドの末端構成員だったイスキィとオッパは、起きてすぐ、いつのまにか枕もとに置かれていたその手紙を見つけた。


 兄貴分のイスキィは字が読めないので、連れのオッパがその手紙を読み上げた……



************


 私たちは、君たちの、つきまとい行為に気付いている。

 そして、君たちが良からぬことを企んでいるのではないか、と疑っている。


 もし、君たちが私たちに害をなすならば、私たちは反撃せざるを得ない。

 そのちからを私たちが持っている証拠に、こうやってこの手紙を置いておく。


 私たちは明後日にはここヘルザを出て、隣町ニュタルを目指す。もし今後、君たちの姿を見かけることがあれば、害意あるものと見なすからそのつもりで。


 警告する。私たちは、君たちが寝ているあいだにその喉笛を食いちぎることができた。それをしなかった意味を考えろ。


 私、ネズミ大王ラッテンクーニッヒがここに告げる。


************



 彼ら冒険者たちは、手紙に記されていた書き手の名前に首を捻った。狙っていた小金持ちは、確かイチワリという名前ではなかったか? イチワリは死んで、別の誰かがその遺産を受け取った、というウワサも確かに聞いてはいたが。


 その誰かが、ネズミ大王ラッテンクーニッヒとかいう謎の人物なのだろうか? あの獲物たちの連れに、それらしき人物はいなかったようだが。


 それにしても……


「ぷっ、アニキぃ、俺こんな間抜け、見たことねえよ」


「まったくだ。怪しいと思ったらすぐ殺しとけよ。。それをしないのは、できないってことだ」


「アニキ、きっとこいつら、下女にでもカネ渡して、こっそり手紙を置かせただけだぜ。宿のもんなら合いカギ使えんだしよぉ。物音とかドアの掛けがねとかは……まあ何とかしたんだろ」


「だな。その程度でよくもまあ『それをしなかった意味を考えろ』なんてくだらねぇ台詞書けるもんだ」


「アニキよぉ、間抜けが相手じゃラクな仕事になるぜ。ああ、早くあの赤毛娘に突っ込みてぇよ」


「俺もあのブをいたぶるのが楽しみだ。まずあの耳切り落として……」


「趣味悪いなあアニキ……そういうのは、ホントの美少女にやるから気持ちイイんじゃねえの? 臭せぇブに興奮するなんて、変態貴族かよ」


「うるせぇ。あのゴブリン、なんか小綺麗にしてるだろ。俺はな、汚物に生まれたクセに思いあがってるヤツに、てめえはクソだって徹底的にのが大好きなんだよ」


「チュウウウウウウウ!」


「ん、ネズミの鳴き声か?」


「なってねえなあ、この宿の質は。星はつけられねえな。……それじゃオッパ、出発するぞ」


「今からヤリに行くのか?」


「何言ってんだ、クラーケ頭。この町にゃ衛兵がいるだろ。ヤるのは街道だ。俺たちはニュタルに先回りして、とりあえず、あの間抜けたちを安心させとこうぜ。あそこのギルドでクロスボウでも借りよう。ケットシー族はちょこまか動くから、狩るのはいいマトになって面白いぞ」


「承知したぜアニキ。いやあ、ハノーバのギルドが無くなったときは困ったけどよ、俺たちにもやっとツキが回ってきたぜ。やっぱ輝きっているんだな」


 イスキィとオッパは素早く身支度をととのえると、慌ただしく部屋を出ていった。


 ペッドの下の暗がりでは、一匹の怒れるネズミが目を光らせていたが、彼ら冒険者はそのことに気付かなかった。



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 ……馬鹿はやっぱり馬鹿なんだな。何が『』だよ。そんなふうに考えるほうが馬鹿だっチューの。それに、都合の悪い事実は全然気にしないし。なお、ネズミ大王の「ラッテンクーニッヒ」という読みはこの世界ナッハグルヘンの発音に近づけてみた。


 おっと、こうしちゃいられない。


 あいつらはゾク決定だ。こっちも急いで準備しないと。は天井裏を伝わって仲間の部屋にまで戻ると、天井のヒビ穴から(なんであのチンピラは安宿なのに文句つけてたんだ?)床に飛び降りた。


「ひいっ、ネズ……あ、ご主人さまか」


「フレーメ、いいかげん慣れろよ。……初期値デフォルト再定義デファイン!」


 変身解除!


 ネズミのコスはたちまち吹き飛び、。もちろん裸にはならない。下に普段着を着てるからな。


 そう。


 今までは、魔包リュック……入れたモノが10分の1に縮む魔法の収納グッズ……に、各種変身用のコスを入れていた。それらは変身コールで着脱自在だったけど、常にリュックを携帯してなきゃいけなかった。


 しかし最近は、どこかにコスさえあればコスはワープ?転送?されるようになってる。の変身が進化、というか便利になり続けているのって、変身パワーのみなもとである魔意味ミームへのアクセスするときのプライオリティやらキャッシュがアップしてるとか、そんなようなことなんだと思ってる。


 かくかくしかじか。変身を解いた俺が仲間たちに盗み聞きした内容を説明すると、さっそくデカ猫が突っ込みしやがった。


「ヤツらがニュタルに向かったんなら、別の町に行けば済むことじゃにゃいか?」


 もっともな話だ。でも……


「前にも話したとおり、俺は対処の練習をしときたいんだ。具体的に言うと、武装とか戦術の研究だな。それに……」


 俺は、可愛い特職少女たちの顔を見回した。


「あいつらの言葉は、許せない」


 あ、自分で言っといて、ちょっと恥ずかしい台詞だった。いま、俺の顔は少し赤くなってるだろうな。てへっ。


「それなら条件があるニャ。その研究とやらがカタチになってるかどうか、冒険者どもと本当に渡り合えるかどうか、おいらが確かめることにするにゃ。おいらがムリだと思ったら、逃げるを選ぶことを約束してほしいにゃ」


 おかんマヌーの条件つきOKも出たぞ。


「約束するよ。さて……時間がない。フレーメ、ブ、さっそく準備に取り掛かる。今夜は寝かさないぞ」


「はいっ! ご主人さま、ヤツらに思い知らせてやろうよ!」


「はい、ご主人さまの思うがままに……」


 ブ、お前なんで顔赤くしてんだよ。


「もちろん、おいらは寝てるにゃ」


 うん、マヌーはそれでいいよ。

 ところで、カンジンの武装だけど、俺にはアテがあった。


 特職商人アインガンさんから貰った、あの「謎の壊れた部品」だ。これはおそらく、ハイエルフの大量破壊兵器、浄火砲クレンジング・キャノンに付属してた迎撃砲の部品だ。たぶんファイヤー・ボールの魔法を放つ機能があったのだと思う。


 俺はこいつに撃たれたことがあるし!


 もしコイツを修理できたら、あるいは原理やシステムを学ぶことができたら、俺の武力はスゲー強大になるだろう!


 実を言うと、俺はこの二日間、この新たなオモチャだけにハマっていた。やらなきゃいけないことが他にいくらでもあったけどさ。男のコだもん(ときどき怪しいけど)、しょうがないよね!


 それで判ったことがある。

 完全に修理することはムリだったけど、とんでもない収穫があったんだ!

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