穴に突っ込め、チューいして!

「いくぞ!」


 駆け声で気合を入れたは、

 ネズミ形態ラット・モードの小さな身を暗闇へと躍らせた。


 ハイエルフ野郎の大量破壊兵器をぶっ壊す(やっぱムリかな~)ために、殴り込み(気分)した妖精形態フェアリー・モードだったが……またしても色々と恥ずかしいことがあって、ネズミの姿に変身し直して、巨大な花がごとき兵器の基部へと飛び降りたのだった。


 まず雌しべを蹴り、側面を走ってジャンプ!

 手近な雄しべの基部と基部を交互に渡り、ニンジャのように下へ下へと駆け抜ける!


 ジャンプ!ジャンプ!ジャンプ!


 床らしき場所が見えた!


 スチャッとカッコよく(ネズミだけど)降り立った俺っちは、あたりを見回す。ネズミアイは暗闇でもよく見える……


 ここのリアルな広さは外車が2台置けるガレージくらいだけど、俺っちにとってはサイズ差のせいで、スパイ映画の巨大秘密基地めいた印象がある。六角形の床を取り囲む白い壁。いくつもの穴が開いた支柱が、塔の内側に沿って6本立ち並ぶ。ネズミの本能がその穴でドワーフ・チーズを連想させて、なんか勝手にヨダレが湧いてくる。あうっ、腹減った。なんか食べてくりゃ良かった。


 雄しべと雌しべの基部は、6本の支柱と絡み合ってる。そして床は、継ぎ目がなく分厚い構造材らしき感じがする。制御盤らしきモノはなかった。床と支柱と壁の隙間は、モルタルみたいなシリコンみたいな充填剤で埋められてる。雨水とか溜まったらどうすんだ。雄しべを内側に向けて蒸発させるのかな。


 ……って。


 あれっ、ここ行き止まり?

 出入口も換気口も隙間も穴も無いよ?


 ひょっとして、俺っち……

 詰んでない!?



  

 いやいやいや、嘘っ、えっえっ?


 ネズミ姿でウロウロと走り回るが、床下に行くルートが判らない。残り時間はあとたぶん15分くらい。まだ慌てるような……いや、慌てる時間だよ!


「そんなバカな」


 あの兵器のメンテナンスとかどうすんだ。絶対に壊れないならメンテナンスはいらないけど、そもそも無敵なら迎撃システムなんていらないだろ。


 もしかしてアラクネ作業員が外壁を登ってくるのか。搬入用ドラゴンでもいるのか。転送魔法陣とかあるのか。だけど、そんなファンタジーなモノが簡単に使えるなら、そもそも兵器とかいらないだろ。


 近代兵器みたいなモノがあるなら、近代兵器みたいな運用をしてるはずだろ!?


 いやいやいや、なぜか見つけられないだけで、絶対どこかに出入口、ハッチとかあるはずだ。


 実は、は。


 こういうメカニックなことにメッチャ強いガ〇プラ形態モードなら、問題があっても、性能的に直感的に何とかできる、と思っていた。


 ……命がけなら。


 はそのパワーを頼りにしていた。兵器という造りモノを見たときから、ガ〇プラ形態モードで何とかできると思ってた。もちろんそれは前世で言えば、日本の技術者が初めて見た外国の機械を操作するより難しいだろうけど、電源を落とすとか制御システムを壊すとか、そういう方法ハックが見つかるかも、不可能じゃないかも、と思ってた。


 それがの考えていた作戦。アバウトだけど、唯一の勝ち目だったんだ! もし、強力なモンスター戦隊とかマジの冒険者軍団とかが相手だったら、は最初から勝負を諦めてたぞ。


 なのに……!


 俺っちは、頭上の花っぽい兵器を見上げた。イゼンとして、そよ風のように魔力を吸われる感覚がある。素のネズミ形態ラット・モードのときの吸引の影響がほとんどない理由は、魔力成分が少ないぶん吸引パワーも少ない、からだと思う。でも、ガ〇プラへの変身はたぶん自殺行為だぜ。変身したとたん魔力を吸われきって、バラバラになってしまうだろう。真の妖精リアル・フェアリーなら床を抜けられるだろうけど、変身に時間がかかるから、その前段階の妖精形態フェアリー・モードですでにまた蝶の標本状態になってしまうよな……


 そもそも。


 ネズミ感覚は、未知の脱出ルートだってえるんじゃないのか? どうして何も視えない……


 って、そう、か。今の俺っちには。


 が足りないんだ……


 だって、ここならたぶん、すぐ死なないもんな。焦げあととか見当たらないから、撃ってもこのあたりにはバックファイヤの影響は少ないはず。それなら最悪、何もかもすべて終わってから、真の妖精リアル・フェアリーになって脱出すればいいだけなんだから。


 生き延びるだけなら、それでいい。

 ネズミなんて、そんなもんだ。


 俺っちのネズミではない部分が死の危機感を持ってないんだから、ネズミの生存本能に基づくバワーが使えないのは、道理だ。そりゃ尻尾の炎も消えるさ。


 だったら……だったら!


 みずから、そう、危機感をあおれ!

 生きたい、って思うんだ!

 思え! 思え!


 リーズを救うんだろ!

 街のヒトを救うんだろ……


 ……いや、そんなのキレイごとだ。

 

 もちろんキレイごとは大事だ。俺っちはキレイごとを捨てたくなくてここまで来た。でも、今はそうじゃない。


 生きたい、死にたくないと思うような、もっともっと意地汚いことを……

 思え! 思え思え思えーっ!


 せっかく可愛い特職買ったのに!

 馬車の改造楽しみなのに!

 スキルの研究したいのに!

 ダチマヌーにドヤ顔したいのに!

 ハイエルフにざまぁしたいのに!


 ちんちんだって捨てたくない!

 おっぱい!

 腹減った!


 ここで試合終了、後は自己嫌悪を抱えて生きろ、だなんて冗談じゃない!

 そんなの、小さすぎて生きられない!

 それは死ぬのと同じだっ!


 死にたくない。


 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……


「死にたくない!」



 ……と、ムリヤリ叫んだところで。


 俺っちの目の前に。


 矢印が出現した。


 床の一部を指す、VRゲームの重ね表示のごとき、幻影の下向き矢印が。


「おおぅ……」


 欲を煽ったらホントにこうなるんだから、我ながらゲンキンだ。ああ、自分でやっといて少しはじぃよぉ。ネズミ顔を熱くしながらその辺りを鼻先で探ると、刻み目があった。直径1メートルくらいの、二重の輪っか状の刻み目が。


 メンテナンス・ハッチだっ!


 観光ガイドマップに〇を書き込んだときと同じく、ネズミ頭でもやればできるもんだな~ ……でも、こんなの、どうやって開ければいいんだ!? これって、こっち側が『内側』だろ。開けるネジとかボルトとかハンドルとか(そんなモノがあるとしたらだけど)、全部床の下の『向こう側』のはずだ!


 ガリガリガリ!


 ダメだ。歯が立たない~

 どうすりゃいいんだ!?


 あとは、妖精形態フェアリー・モードのあの魔法だけど、これだって変身したとたん……待てよ。やってみよう。


 魔包リュックから糸を取り出して(クラーニヒのストッキング糸だ)、それを左手首に巻き付ける。素肌の部分でないとたぶん吹き飛ぶだろうな。そして糸を繋ぎ足して反対側を支柱の穴に結び付ける。ヨシ!


妖精形態フェアリー・モード再定義リ・デファイン!」


 変身!


 ネズミのコスが吹き飛んで、妖精の姿になったは、たちまち頭上の雌しべの吸引力に引っ張られる! 糸がピン!と張り、身体が天地サカサマに吊られた状態でジタバタともがく。


「痛たたたたたたたたっ!」


 手首が、手首がもげる~ぅ!


 あっ、あたしはバカだっ! どうして魔包リュックの背負い紐に糸をかけなかったんだ!? リュックは変身してもなぜか吹き飛ばないって知ってたのに! そしたら、さらにその状態で時間かかるけど真の妖精リアル・フェアリーに変身できたかも知れないのに!


 ええい、もうこのまま行け!


妖精魔法フェアリー・マジック、あたしは自由! 解錠アンロック!」


 あたしの右人差し指から金色ビームが発射され、キラキラに照らし出されたハッチのあたりに直撃する!


 ドォォンッ!


 轟音を立てて、ハッチの蓋?が床の向こう側、真下へと落っこちた!

 目の前に、ヒトひとりが通れる大きさの丸い穴が開いた。


「やったぜ!」


ネズミ形態ラット・モード再定義リ・デファイン!」


 変身!


 とたんに頭上からの魔力の吸引力が弱まり、ネズミの姿になったの身体が開放される! スチャッと穴のそばに着地。左手首の糸を自慢の前歯で食いちぎる。手首、痛いけど血は出てない。


 ここまで派手なことやったんだ。ハイエルフ・ジャマーとかに関係なく、中のハイエルフ野郎ども?はきっともう気付いてるはずだ。いきなり攻撃される可能性だってあるぞ……


 穴に突っ込め、チューいして!


 俺っちは長い尻尾をなびかせ、スカイダイビングのように両手両足を広げてハッチ穴に飛び込んだ。ぶあつい床の壁……天井の壁を横目で見ながら通り過ぎ、なんか広い明るい部屋の中へ飛び降りる!


 ラット空中三回転!


 スチャッと着地したのは先ほど落っことしたハッチの蓋?の上。すぐ俺っちは近くの家具?の下に飛込んだ。この部屋はシールドされてるのか、そよ風のように魔力を吸われる感覚は無くなってる。


 家具の足……マヌーの手足みたいに曲がってる木製の足……の間から、おそるおそる辺りを見回すが、部屋の中には誰もいなかった。


「クリア!」


 ……って言うんだっけ。こんなとき。


 ここは、ひとことで言うと、前世だとハリウッドのスパイ映画で、大富豪のボスキャラが居そうな書斎って感じ? 普通サイズだと狭く感じるかも知れないけど。窓はなく、家具は少ない。一方の壁に両開きの扉がある。あれ、ひょっとしてエレベーターか? そして部屋の中央には……


 あっ!?


 ゴテゴテな装飾デザインだけど、どう見ても制御卓、コンソールにしか見えない、それっぽすぎるブツがある! あれで兵器を操作しているに違いない!


「ビンゴ!」


 ……ううっ、実は、一度でいいからハリウッド映画みたいに『ビンゴ!』って言って見たかったんだよね。


 ついに言えたぜ! ビンゴ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る