控えめに言って最高!

「その偽情報とは……『スタンピード』です! ぶひっ!」


 特職ギルドの広い特別室に、ハッカイ族のヤクトの声が響き渡った。


 集まっているギルドの関係者のヒトたちも、口々に「スタンピード……」と呟いた。ギルド長とアインガンさんもうなずいている。『弁当』……ビキニ・アーマーの美女たちは、お互いの顔を見合わせ、その小さな拳を握りしめているのが見えた。


「……スタンピード。にゃるほど」


 デカ猫マヌーの呟きに、テーブル上に立つ身長18センチのは、いつものように聞き返した。


「知ってるのか、マヌー……まあ、よく考えたら僕もそれくらいなら知ってる」


 スタンピードは、僕でさえ知ってる、ダンジョンからモンスターが溢れ出てくる自然災害だ。当然、そんなことが起きれば大変なことになる。街のヒトたちをウワサだけで避難させるのには十分な理由付けだ。


 正直にの破滅予知ビジョンを伝えるより、受け入れられやすいのは間違いない。


 でも……


 そんなこといきなり触れ回って、聞き入れてもらえるもん?


 前世日本で例えるなら、爆弾が落ちてくるから逃げろ、って、初対面のヒトに言われたらどうする? 自衛官のコスプレでもしてなきゃ、そう簡単に信じてもらえないんじゃ……


 あっ、そうか!


 ここには、その恰好からひと目で判る、ダンジョンの専門家たちが揃ってる! 僕が常識を知らなかっただけで、それは前世日本の自衛官並みのアイコンだ。たぶんヤクトもそのことに気付いたんだな。


 ハッカイのくせにクレバー!


 よし、決めたぞ。コイツに負けてらんない。まず、僕ができること、しなければならないこと……いちばん大事なことをはっきりさせとこう!


 そう……オカネの話だっ!


「ここは、僕が弁当たちを雇う! 特別報酬も約束するぞ。明日までの短期雇用だっ!」


 我ながら太っ腹だぜ!


 僕は魔包リュックに手を入れて、眠っていた金目かねめのものを引っ張り出した。ん、なかなか出てこないな。手が震えてる。それでも、テーブルの上にゴロゴロと転がったのは。


 高そうな宝石がついた白銀のブローチ、の残骸。

 つたのようなデザインの金のネックレス、の残骸。


 ハイエルフ野郎からパクったけど、別に魔道具でもないし、処分に困っていたお宝だ。特職ギルドみたいな組織なら、カネ替りに受け取ってくれるはず、と思ったんだ。


「よろしいのですか? これは確かに、素材として非常に価値のある物品です。仰った諸経費の倍以上の額になると思います」


 鑑定スキルを持っているらしい使用人から耳打ちされたギルド長が、そう問いかけてきたが、もちろん問題なんかない。


 ……って、倍以上!?

 ……も、問題なんかない。


 ……これは、僕が自分を善人いいひとだと思いたい、とか、恩を着せたい、とか、いまさら弁当たちに好かれたい、と思ったからじゃないからな。


 絶対そうじゃないからな!


 さっきのヤクトの台詞から、新たなるカネ稼ぎのヒントを思いついたから、ここで不良在庫の処分をしておこうと思っただけだかんな。


 まあ、ケチケチしてるヤツだって思われたくない、って気持ちは少ぉーし有るけどね!


 それに加えて……


「……実は、僕は君らに手の内を明かしすぎた。予想ついてると思うけど、僕たちには敵がいる」


「クライン! おま……」


 判ってるよ、マヌー。でもここはある程度は話しておくべきだ。そして、僕にカネの使い方を教えてくれたあのヒト……オルゲン座長なら。


「僕たちのことをできるだけ他人に話さないでくれると助かる。これは、いわゆる口止め料も含んで、ると思ってく、くれ」


「……はい、承知いたし  他の者にも   」


 ん?


 ギルド長、いま何て言った……?


 マヌーが、ブに向かって、口をパクパクさせてる。


 そういえば、いきなり部屋が静かになっ


 なん 音が何も


 




<< normal size << 



 夜空に、ブルーダとシュベスタのふたつの月が輝くころ。

 ハノーバの南地区、衛兵詰所にて。


 冬至のお祭りのときには、衛兵たちには領主から酒が振る舞われる。若い衛兵たちが歌い騒ぐなか、そこを護衛とともに訪れた特職ギルド長は、赤ら顔の衛兵隊長に衝撃の情報を切り出した。


「もうすぐ、スタンピードが起きます」


 唖然とする隊長に、ギルド長は『設定』を語った。


 南地区にいる冒険者の誰かが、とある探索者からお宝……割れたダンジョン・コアを奪ったが、実はそのコアはまだ生きていた。本来ならこの先は、探知や予知のスキルを持った探索者たち……探索者ギルドが動く案件だが、お祭好きの彼らは現在ギルドを閉めている。


 我々特職ギルドは、独自の筋からスタンピードの情報を得たので、こうやって知らせに来た。月が重なり魔力の満ちる真夜中になったとき、そのコアはダンジョン・ゲートを産み出し、そこから多数のモンスターが溢れ出るだろう。


 そう。ネズミの行進はその前触れなのだ……!


「本当なら、大変だ。しかし……」


 言葉を濁す隊長に、ギルド長は穏やかに言った。


「信じてもらえなくても仕方ありません。それでも、勝手ながら私たちは特職を使い、住民に避難するよう呼びかけるつもりです。これが何かの間違いなら、私どもが責任を取りますので、せめてそれだけは認めていただきたく、こうしてお伺いした次第です」


「ええっ……どうして、そこまで……」


「あるヒトの……いや、ただの営業活動ですよ。特職ギルドの印象を良くしたいと思いましてね。ほら、冒険者ギルドですら、災害のときに炊き出しをしたことがあったでしょう?」



 そして。



 ハッカイ族の指揮のもと。

 きわどい鎧もどきを身に着けた美女と美少女たちは。


 避難場所のしるしを書き加えた宣伝地図を手に、約束された休みとご馳走と酒への期待を胸に。


 白い息を吐きながら、張り切って冷たい夜の街へと飛び出した。


 ハノーバの通りを歩く、お祭りを楽しむ人々に向かって。

 ささやかな幸せに満ちた、暖かい家々のドアを叩いて。


「逃げろ!」


 無慈悲に、運命のように、かん高い声が響く。


 パァ~プゥ~


 クラインが『ぶぶせら』と呼んだ吹奏楽器の響きと共に、美女たちの叫びが響く。


「いますぐ逃げろぉ! スタンピードだぁ! スタンピードが起きるぞぉ!」




>> small size >>



 柔らかくて。

 暖かくて。

 いい匂いがする……


 とん、とん、とん、とん。


 どこか遠くから、太鼓のような音がする。


 とん、とん、とん、とん。


 何かが満ちてくる。顔が赤らむほど。


 太鼓の調べと共に、とても熱いモノが、僕の身体の奥に、優しく優しく沁みてくる、挿入はいってくる……


 ビシャ!


 誰だ! 僕の顔に水をかけたのは! あれっ、この水、しょっぱい……? 


 僕は、目を覚ました。


「うおっ」


 僕の身体は、ピンク色の温かい布団に挟まれ……いや、これってまさか、おっぱ……


「良かった。気が付かれたんですね」


 頭の上から、声がした。あのブの声だ。

 見上げて目に入ったのは、痛いような微笑み。ん、このコ泣いてるのか? じゃ、この水は、こいつの……涙?


「この間抜け!」


 怒った猫顔が、僕が挟まっている谷間を覗き込んだ。


「あ、ごめん」


 また、やっちまった……


 状況から察するに、僕は魔力切れでぶっ倒れたかぁ。

 体調不良のきざしは感じてたのに……


 はじぃよぉ。


 外付けの魔石パーツは、いきなりバラバラにならないで済む程度にしか役に立たなかったみたいだ。今は外側のプロテクターごと無くなってる。タトゥー・オプションを使ったせいかも知れないけど、ガ〇プラ形態モードは燃費が悪すぎるよ~ 


 たぶん、僕の背中のMPタイマー警報に気付いたマヌーは、大魔力持ちのブに、急いで胸に抱えるよう命令したんだろう。魔力は心臓から出るからな。だから今、このザマというワケだ。半裸の僕はブの素肌……おっぱいに挟まれて、ボロ服の上から重ねた両手のひらで優しく押さえられている。彼女はどうやら床にペタン座りしているようだ。


 それにしても……


 発展途上でありながらこのボリューム感、張り詰めたカタチがいいんだよな~ 柔らかさと弾力の見事なハーモニーにとろけてしまう~ 伝わってくる熱く優しい魔力の心地よさ。なんか甘い匂いの微風そよかぜ……吐息が降ってくる。見上げれば可愛らしくも垂れた長耳、心配そうな微笑み……ハッカイ族の刺青ですら、なんか尊く見える。


 控えめに言って最高!

 女神の美乳風呂や~


 底辺の特職のくせにこのコが健康なのは、回復スキルのせいなんだろうな。今でさえこれほどブリリアントなら、もっと育成したらどうなってしまうんだ!?


 よし、いいもん腹いっぱい食わせたる! そしたら更に……


「うっ」


 しまった!


 股間のパーツが起動してる!

 かーっと顔が赤く染まるのが判る。


 湯あたりかよ!


 彼女の柔らかい肌に固いウェポンが触れないように、僕はもぞもぞと動いて、腰を引っ込めた。別に当てたって問題ないとは思う。もう嫌われてもいいと思ってるからな。


 だけど、それでも恥ずかしいんだよ!


「あっ♡」


 ブめ、妙な声だすなよ~ 僕は童貞の15才なんだぞ!


 暴発したらどうすんだ!

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