我はゴーレム、ご主人様の使いなり

 特職商人のアインガンさんとこに、特職候補を見に行く前日。

 お祭りの最中、やっと取れた安宿にて。


 身長18センチの俺は、デカ猫マヌーだけを観客にして、新たなる変身モードにチャレンジした!


魔意味ミームよ、クラウドのようにネットのようにナッハグルヘンを覆う魔意味ミームよ、ゴーレム形態モード定義デファインする魔意味ミームよ、特職商人アインガンさん認識プロトコルにて接続ログインせよ、俺を再定義リ・デファインせよ……」


 フルバージョンの呪文を唱えて、変身!


「にゃにゃにゃ、にゃんと‼」


 マヌーの猫目が見開いて、変身したはずのを見る。

 おい、ちょっと声が大きいぞ……って、街じゅうがお祭りで馬鹿騒ぎの真っ最中だから、誰も気にしないか。隣室からもなんか調子っぱずれの歌が聞こえる。


「クライン、お前、ゴーレムっていうか……人形にしか見えないにゃ!」


「そうか? 自分じゃよく判らないんだよな……」


 今、僕の腕や足は、白い金属質のカバーをかぶせたように見える。

 マヌーが渡してくれた、磨いたスプーンをのぞき見る。


 そこに映っているのは……


 ひとことで言うなら、球体関節人形の超絶コスプレだ。衣装はもちろん、僕が元ネタにしたレトロな少年スーパーロボットなので半裸だ。少しはじぃが、我慢だ! それに、前世で見たイギリス映画……特撮人形劇のキャラみたいな雰囲気がある。


 吊り糸は無いけど!


 うん、我ながら、本当に変身できるとは……凄い!


 僕がアインガンさんの前でご披露した姿のそのワケは、それがいちばん手軽にできたコスプレだったこと、本物のゴーレムを知らなくても前世のロボットのマネならできたこと、だったからだ。それ以上の深い意味なんか無かったんだけど……


 魔意味ミームに接続できた、ということは、ロボットなんかいないはずのこの世界ナッハグルヘンに、それなりの数のヒトが、


「あるある、こういう人形みたいなゴーレム」


 とか、


「こんなゴーレムがいても、不思議じゃないよな」


 って、思ってることになる。

 世界は広いなあ~


「で、このゴーレム姿だと、何ができるんにゃ!?」


 えっ。


 何だろう?

 そう改めて聞かれると……困っちゃうな。


「……試してみようか」


 やってみた。



 ……その結果は、おそるべきモノだった。

 今の僕は、スーパー・マシィィィンだぜ!


 椅子を持ち上るパワー!

 5メートルを1秒で駆け抜ける!

 助走してテーブルまでジャンプ!


「う~ん、正直な感想を言ってもいいかにゃ?」


「できれば言わないでくれ」


「普通だにゃ」


「言うなよ~僕だって少しそう思ってるのに……でもさ、フツーのヒト並みでも、僕にしてみれば、いつもの10倍の身体能力なんだぜ。もうずっとこの姿で暮らしたいくらい」


 ちょっと疲れるような気がするけど。

 もし、いちばん最初にこの変身モードを手に入れていたら、この程度のパワーアップでも大喜びしてたんじゃないかな。

 いまは、ふたつのモードを使い分けてるから、あまり有難みがないんだな。


 贅沢だよね~ 


「クライン、もっと他にできることはにゃいのか?」


「う~ん」


 僕が手本にしたレトロ少年ロボットは、単純なパワーの他に、優れたAIやセンサーを内蔵していた。まあ、この点については中身が僕なので期待できないとしても(泣)、他には、サーチライトになる目、ジェット噴射による飛行能力、そして体内から出す武器を持っていた。


 だけど、残念なことに。


 この世界ナッハグルヘンのゴーレムが似たようなガジェットを備えてなければ、僕には再現できないんだよな。実物を見れれば話は違うかも知れないけどさ。

 試しにムゥっとリキんでも、ライトやジェットや武器は出てこない。


 何か別のモノが出てきそうな気がしたので、すぐ止めた!


「なあ、マヌー」


「なんニャ、クライン」


「ゴーレムってさ、そもそも何に使うんだ? 何のために作られたんだ?」


「そりゃ、ヒトの役に立つため、ヒトを助けるためだろうにゃ。もちろん最初は兵器だったはずにゃ」


「ってことは、道具だよな。ヒトのための道具……」


 僕もタテマエとして、「ご主人さま(自分自身のことだけど)の使い」として、ゴーレムもどきのムーブをしてる。つまり、ヒトのため、だ。そこらへんが魔意味ミームに接続できた理由のひとつがも知れない。


 でも、道具ねえ。


 僕は、床に置いたままの魔付ボタン……ラット・ジャマー・ボタンを横目で見た。今の僕が、ゴーレムという道具だとしたら、これを開ける道具……専用工具のかわりにはならないかな。


 半分冗談で、念じてみた。


「えいっ! シャキーン!」


 今の効果音は、もちろん自分の口で言った。


「ク、クライン…… その手は、どうしたんニャ!」


「えっ、手?」


 デカ猫は震える爪で、僕の右手を指さした。

 僕は、球体関節のあるグローブのような手をニギニギしてみたが、特におかしな点は無い。少し身体がかったるいかな。


「手が、いきなり潰れて……ノミとかタガネみたいなカタチになってるにゃ!」


 ノミ……タガネ……

 もしかしてそのカタチって……


 マイナス・ドライバー!?


 まさか、まさか!?


 でも、それなら……

 僕には変わったようには思えない右手の指先を、魔付ボタンの繋ぎ目に入れて、ぐいっと捻ってみた……!


 パカッ!


「開いた⁉」


 蝋燭ろうそくをつけて、よく観察してみる。ボタンの中身は半透明な何かの塊だった。琥珀で出来たコインにも見える。魔法陣には見えないが……今は中身の正体よりも。


「これって、僕の今の身体は……本当に道具になる?」


 もちろん、僕が小さいという設定を作り出す魔意味ミームのパワーだから、長さ18センチまでだろうけど……


 ……どんな道具にでもなる、なれるのか?


 それって、ものすごい応用力、可能性があるんじゃないのか?

 ひょっとして……魔道具でも?



 ん?


 あまりの衝撃のせいか、頭がクラクラしてきた。

 血圧だか血糖値だかが下がったような、すごい寝不足なような……


「なあ、マヌー……」


「なんニャ、クライン」


「ゴーレムって……何を……食べ


 

 







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 ガシャ、バラッ……


「クライン……!?」


 ケットシー族は、目の前で起きたことが信じられなかった。小さな友の小さな身体が、いきなり床に崩れ落ちたのだ。


 その小さな手が。

 その小さな足が。

 その小さな首が。


 床に叩きつけた人形のように。


 その欠片を繋ぐ紐のようなものを除いて、すべてがバラバラに散らばった……


 まるで、支えていた何かのちからが、尽きてしまったかのように。



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「にゃにゃにゃ‼」


 次の瞬間に突然起きたこともまた、マヌーには信じられない出来事だった。


 宿屋の固い木の壁を、霧のように突き抜けて、は部屋の中に飛び込んできた。ひとことで表現するなら、それは金色に輝く球体だった。


 その直径は小型の丸盾ラウンド・シールドぐらい。球体は高い音をあげて、凄まじい速度で回転しているようにも見えた。


 そんな妙なモノが、なぜこんな取り込み中に突然現れたのか、という疑問はともかく……


 球体が、きた。


「マヌーさん、マヌーさん」


「にゃっ!?」


「クラインさんはゴーレムの姿でいる時間が長すぎた。そして魔力を切らした。バラバラになったように見えるけど、それは見かけだけ。ちゃんと生きてる」


「あ、あんたは誰にゃ!?」


「今はまだ明かすことはできない。本当なら近づくこともダメ。そう命じられている。クラインさんを助けたかったら、魔石をあげて。そしてゴーレムの変身を止めさせて」


 それだけ言い終わると、金色の球体はまた飛んでいった。


 幻影のように、壁を突き抜けて。


「魔石……!」


 ケットシー族はあたりを見回した………


 宿に備え付けの魔灯ランプを迷わず手に取り、短い両腕を振りかぶって床に叩きつける。


 ガッシャーン!


 蝋燭ろうそくだけの灯りの中、割れたランプの中から転がり出た魔石を拾いあげると、少し迷ってから、それをクラインの小さな口にねじ込んだ。種類によって詳細は違うが、魔石は魔力を放出すると色が変わる。しかし、咥えさせた魔石の色が変わり切っても、クラインの様子は変わらなかった。


 それでも、確かに魔力を吸っている!


 マヌーは猫顔をしかめ、今度はクラインの魔包リュックを開けると、それを逆さまにして中身を床にぶちまけた。転がり出たランプや火付けなど、魔石を使った日用品を拾い上げ、床に何度も叩きつける。


 小さな友を、救うために。



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 「クライン、起きろ。起きるんにゃ!」


 「むう~ん」


 誰かが僕を呼んでる……なんだ、マヌーか。


 あれっ、僕は気を失ってたみたいだ。かったるいけど、手も足も普通に動く。ん、口の中に異物感がある……ペッと吐き出すと、それは石だった。


 どういうことだ?


「クライン、早く変身を解くにゃ! ……い~や、そう、ネズミに変身するニャ!」


「えっ、なんで?」


「……いいから、早く変身するニャ。……でないと、また壊れ……気絶してしまうにゃ。理由はすぐ説明してやるから……早く変身しろ、間抜け野郎!」


 よく判らないけど……デカ猫の気迫に負けた。僕にとってはランオンよりデカい顔だもんな。とりあえず言われたとおりネズミに変身しとくか。


「……ネズミ形態ラット・モード再定義リ・デファイン!」


 変身!


 たちまち、ゴーレムのコスプレは弾け飛び、かわりに床に放り出されていたネズミ着ぐるみ(えっ、床に放り出されていた?)が、身体に装着される。


「えっ、なんでこんなに散らかってるの? 暗いし」


「フシャー!」


 バシッ!


「チュウゥゥゥゥ!」


 は、マヌーの猫パンチを受けて、悲鳴をあげながら吹き飛んだ!


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