第三のモード

 特職の護衛を求めて、特職商人アインガンさんのオフィスに押し掛けた、身長18センチの俺ことクラインと、ケットシー族のマヌー。

 相手に舐められないように、俺は小さなゴーレムのふりをしてみたのだが……


 いろんな意味で、やりすぎてしまったみたいだ。

 

 アインガンさんはなんかビビってた。俺、また何かやっちゃいました? 舐められてないのは確かでも、これが悪いほうに傾かなきゃいいけど。ゴーレムならちょっとぐらい乱暴に扱ってもいいよな、なんてふうに思われたらたまらんよ。


 忘れるな。俺にとっては、誰もが巨人だ。

 まあ、俺の芸がウケた、と思えば悪い気はしないけどね!


 予想外だったのは、どうやら俺は新たな変身モードを見つけたらしい、ってことだ。その証拠に、あのゴーレム・ショウの最中、俺は魔意味ミームに接続した感覚があった……


 その夜。


 俺たちは店じまいの屋台で半額弁当、じゃなかった、売れ残りフードを買い込み、冬至お祭りでどこも満室の中、なんとか安宿に空きを見つけて潜り込んだ。

 フードは、芋団子と輪切りソーセージにカレーっぽいソース掛けたヤツ。芋は何の芋だか判らないが、潰れた部分にしみ込んだソースがスバイシーで、冷めてもジャンクに旨い。マヌーは入れ物だった木製コーンを裂いて、たまっていたソースをぺロペロ舐めやがった。


「うみゃうみゃ、パンが欲しいニャ」


 フォーク使えよ~


 明日、俺たちは、アインガンさんに連れられて色々見る予定だ。だから今晩のうちに、本日新たに手に入れたパワー?について、ある程度検証してみたいと思う。その前にとりあえず、ここ最近は自主トレ「魔法陣」の複製チャレンジだ。ここ領都ハノーバまで来る旅のあいだ、毎晩色々やってみたんだ。


 まず、練習には魔力が必要だから変身しなくちゃ。今日はネズミ形態ラット・モードでやってみよう。


ネズミ形態ラット・モード再定義リ・デファイン!」


 変身!


 デカ猫マヌーの右手が、ピクッと動いた。襲わないでくれよ。


 まず、例のコップの中に水を溜める魔法陣を、布切れに書く。次に、魔灯ランタンや火付け等の日用品の魔法陣を書く。これくらいは複製できるようになった。準備運動のごとく毎日練習してるぜ。1個書くのに、もう5分もかからない。ためしに本体に入ってる本物と入れ替えてもちゃ~んと作動する。ってスゲー!


 これ、売れないかな~


 この毎晩のトレーニングでは、魔法陣のとある秘密も解明した。大きく書いたら判りやすいかな、と思って、魔灯の簡単な魔法陣を10倍くらいに拡大して、宿のシーツに書いて魔力を通してみたんだ。

 そしたら……魔力計を振り切る妖精モードの魔力をほとんど吸われた上に、魔法陣がものすごく熱を発してシーツが少し焦げてしまった。


 魔法陣を大きく書くと、魔力を吸い過ぎる上に発熱してしまうらしい。だから普通の魔法陣は集積回路みたいに小さく書かれているんだな。


 シーツは宿に謝って買い取った。マヌーにも叱られた。ごめんよ~

 ……炎上とか爆発とかしなくて良かったぜ!


 次に、他のレアな魔法陣だけど……

 これは、どうにもナンギしてる。それも、かなり初歩的な段階で。


 おさらいだが、今、俺っちが持っている、水を湧かすヤツ以外のレアな魔法陣は。


1.ハイエルフからの逃亡を続ける俺たちの生命線、エルフどもの探知を妨害するエルフ・ジャマーの魔付けボタン、その中に入ってるはずの魔法陣。


2.今は俺のリュックを魔包グッズ化している魔付けボタン、その中に入ってるはずの魔法陣。リュックを作ってくれたトマタさんに、もう少し要領を聞いときゃよかったなあ~


3.ネズミの探知を妨害する、ラット・ジャマーの魔付けボタン、その中に入ってるはずの魔法陣。


4.ハイエルフに位置を知らせるGPSっぽい機能を持つ、ヒビの入った白銀の腕輪。その中に入ってるはずの魔法陣。


5.潔癖症のマヌーが使いまくってる浄化クレンジングの魔道具。その中に入ってる(目視してる)魔法陣。おいっ、また使ったな? いや、いいけどさ。もしかしたら使い過ぎると善玉菌とかが無くなったりするとかが怖いんだよ。


「たまには風呂に入りたいにゃ~」


 猫のクセに風呂好きかよっ。


6.真偽判定のできるイヤリングの片方。その中に入ってるはずの魔法陣。片方だけじゃやっぱり起動しなかった。残念!


7.魔法陣の複製のための道具として、いまや超重要アイテムとなった、ドクロの指輪。その中に入ってるはずの魔法陣。ありがとう、ドロシィさん。今ごろみんな、どうしてるかな……


 こうやって並べてみると、俺っちってリッチ~

 現金も家が買えるぐらいあるし。


 しかし。


 いざ、複製の練習用という目で見てみると、どれも不都合なんだよな。まず、貴重レアすぎるモノは、もう少し練習してから手掛けたい。そうすると今、扱ってもいいのは、白銀の腕輪かラット・ジャマー・ボタンってことになる。うち、白銀の腕輪の魔法陣は、それを取り出せるかという問題はともかく、複製できても作動テストできない(したくない)から不向きだ。残るはラット・ジャマー・ボタンなんだけど……


 外側のケースが、開けられない。


 ボタンの周囲に繋ぎ目があるので、ここからパカッと開くと思うんだよ。もし現代日本で俺が普通サイズでしかもマイナス・ドライバーをシャキーンと装備してたら、繋ぎ目に先っぽをネジこんでひねったら簡単に開けられる、と思う。

 きっと専用工具とかが必要なんだろうな。工業製品のない世界で、こんな精巧なモノいったいどうやって作ったんだ? まあ現代日本にも職人さんの細工物とかスゴい物があるけどさ。


 とにかく、貧弱なるデフォルトのではまったく無理。妖精魔法でも無理だった。開錠アンロックは「身体の自由」を求めるパワーだから、こんなふうに開けても通行できないときは効かない。あの選別の指輪とやらが入ってた小箱も開かなかったし。ん~手錠とかはどうなんだろう?


 ネズミの歯ならいけるか? って思ったけど、ネズミ形態ラット・モードだとボタン自体が見えなくなるんだよな。

 もちろん、猫の手を借りても無理だった!


「何か言ったかニャ?」


「何も言ってないチュー」


 やっぱりダメだったぜ……

 う~ん、まあ、開かないものは仕方がない。今日のところは、こんくらいでカンベンしたるわ!


 では。


 いよいよ、新たなるパワーの検証だっ!


 まずは、ネズミ形態ラット・モードを解除する。このための呪文も開発済みだぜ!


初期値デフォルト再定義リ・デファイン!」


 変身解除!


 ネズミのコスはから吹き飛び、魔包リュックに勝手に飛び込んでいく。次は指さし確認だ。妖精モード解除のときは股間を確認するが、ラット・モード解除のときはお尻を確認する。


 ヨシ! 尻尾は無い!


「なんだよう、ジロジロ見んなよ」


 こら、そこの猫、勝手に俺の現場を確認しないでいただきたい。

 はじぃだろ!


「見てないニャ」


 気を取り直して次は、新たなるコスでメイクして……


 心にささやき、輝きに祈り、作成済みの呪文を詠唱、結果を念じろ!


魔意味ミームよ、クラウドのようにネットのようにナッハグルヘンを覆う魔意味ミームよ、ゴーレム形態モード定義デファインする魔意味ミームよ、特職商人アインガンさん認識プロトコルにて接続ログインせよ、俺を再定義リ・デファインせよ……」


 最初だから呪文もフルバージョンだぜ。


 変身!


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