小さいという名前のスキル
ハイエルフから逃げるように(いや、逃げているんだけどね)旅立った、身長18センチの俺こと、
俺たちはザルギッタ村の安宿、キッキリキ亭で一泊し、やっとひと息ついた。
だけど本当は、これからのことを思うと落ち着いてなんかいられないんだ。生きて暮らしてカネを稼ぎながら、特職を雇って情報を集めて、竜宮城みたいな伝説の遠い遠い目的地まで、たぶんドタバタと旅しなきゃいけないんだから。
いったいどうやって⁉
だけど、俺は見つけた。「
あのハイエルフからぶんどったお宝(ほとんどゴミ)を、フェアリーの姿で吟味していたあたしは、ついに気付いたんだ。
魔道具の中枢……魔法陣を修理できるという、自分の
マヌーは、ピンとこなかったみたいだけど。
「修理できるってことは、時間をかければ複製だってできる、ってことじゃないか。凄いだろ!? こんなこと、魔道具の専門家じゃなきゃできないはずだろ!?」
あたしはデカ猫マヌーにそう言った。
そう、こんな簡単に、できるはずないんだ!
今はまだ推測だけど、こんなことができた理由は、ふたつ、あると思う。
1.前世の集積回路やQアレコードとかの精密図のイメージを持っている。
2.思い浮かべる魔法のイメージが、自然と小さいものになってしまう。
当然ながら。
小さいから、小さいモノがよく見える、と言う単純なことではないと思う。だってそれだけの理由なら、
でも。
そんなレベルの難易度なら、高級魔道具はもっと値段が安いはずだし、アングラなコピー製品がもっと流通しているはずだ。
もちろんこれは、結局はドクロの指輪というレア・アイテムのパワーなのかも知れないけどさ。でも、例えて言うなら……
前世には、ストラなんとかって超高級バイオリンがあった。もし、音楽は聴くだけというヒトが、いきなりそれを渡されて、
凄いバイオリンならできて当たり前だろ、とか、でも下手だろ、って考えかたは違うと思うんだ。そんなときは、それなりに音楽の才能がある、って、ちょっとぐらい
だけど。
ああ、そうだ。これは、まぎれもなく……
こんな俺だけのスキル。
「小さい」という名前の
そして、もし。
もしも……魔道具や魔法陣のことを勉強する機会さえあれば……
自分でも、魔道具が造れるように、なるかも知れない。
オリジナルの、ワンオフの、とてつもなく精密で凄い魔道具を……
そうだ。俺は、さらに……!
大きく、なれる。
「じゃあクライン、これも直るのかにゃ? 壊れた魔道具っぽく見えるにゃ」
マヌーは、拾ったアイテムのひとつ、切れ目の入った白銀の腕輪を、あたしに差し出した……
「それに触るなぁ‼」
あたしは絶叫し、全速力でマヌーの手にとびかかると、腕輪をはたき落とした。
「シャー! いきなりニャにすんニャ!」
怒るマヌーに、あたしは腕輪を指さして、震える声で言った。
「それ、それ……たぶん魔法のGPSが入ってる!」
魔力の多いフェアリーでなければ気付かなかった。この腕輪には、あの隠されていた怪しい小箱と同じジャンルのヤバいパワーを感じる……!
「じーぴーえす……まさか呪いみたいなモノかニャ!?」
「あっ。いや、その……ハイエルフを呼び寄せると言うか、ハイエルフに腕輪の位置を教える、そういう……ちからを感じるんだ!」
「えっ、それはマズいじゃニャいのか?」
そうだ。
あたしの背中に、だらだらと冷や汗が流れる……もう、とっくに、ヤツらはあたしたちの位置を掴んでいるかも知れない。今にも、そのドアを蹴破って、二階だけどその窓を割って、
と、まで考えたところで、気が付いた。自分が「ハイエルフ・ジャマー」の魔付ボタンを持ってることに。GPSのパワーがあったとしても、当然キャンセルされてることに。
だよな~
そのボタンと一緒に仕舞われていたから、ハイエルフは指輪のある場所を見つけられなかったんだし、それが機能していたら、あたしたちはもうとっくに捕まってるはずだよな~
「……あー、いや、大丈夫だと思う。ええと、その、とりあえず追跡は、ないと思う……たぶん、ない」
……何がGPSだよ。
「にゃーんだ、脅かすにゃよ。おいらはまた、今にもドアが開いて美しきハイエルフ様が襲って来るのかも、にゃんて思っちゃたニャ」
そのとき、ノックの音がした。
あたしとマヌーは、ギョッとしてドアを見つめ、それからお互いの顔を見つめあった。
また、ノックの音がした。声も。
「宿の亭主です。夜分遅くに失礼ですが、お話があるので開けてもらえますか」
あたしたちは盛大なため息を漏らした。おっと、それならそれで……
宿代を払っていないあたしは、慌ててベッドの上の毛布に潜り込んだ。毛布の隙間から覗いていると、あたしの避難を確認したマヌーは、すばやく毛並みを整えて、背伸びしてドアを開けた。申し訳なさそうに部屋に入ってきた亭主は、背の低いケットシー族のマヌーを見ると明らかに態度を変えて、まくしたてるように言った。
「困るよ。他のお客さんから、苦情が入ったんだよ。隣のケットシーが女連れ込んでる、って。盛りのついた猫ならともかく、ウチは連れ込み宿じゃないんだ。そういうことは止め……」
亭主の視線が、ベッドに向いた。
「ん……なんだあのキラキラは?」
しまったぁっ!
毛布の隙間からあたしの妖精キラキラが漏れていたーっ!
亭主はドタドタとベッドに近づき、毛布を引きはがした!
「……フェアリー?」
「……あはっ、ハァーイ」
あたしは引きつった笑顔で、呆けたような顔で見下ろす亭主に手を振った。
「うそっ。……見覚えある。あんた、オルゲンだったか見世物小屋の?」
「知ってるのかニャ?」
「ああ。隣村でやった興行に、家族つれて見に行ったぞ、2回ばかり……」
おおっ、あたしのファンだ! なんか嬉しい!
「いったい何で、こんなとこに?」
「実は、美しきハイエルフ様からこの妖精を開放するように命じられてにゃ、大森林まで送り届けに行くとこにゃ」
マヌーがナイスなデタラメを言った。ハイエルフ案件は前世のアレみたいにアンタッチャブル(エンガチョとも言う)だからな!
「……そうか、そりゃ大変だな」
亭主は右手を伸ばし、あたしに指を近づけた。うん、握手ですね。なんか照れるなあ、エヘッ、いまプライベートなのになあ。まあ、これもファンサービスですから……
と、思ったら。
その指を握ろうとした両手はスカッと空振りし、亭主の指はあたしの片足をいきなり掴んだ!
そのまま逆さまに、その男の顔の位置まで吊り上げられる!
あたしにとっては地上15メートルの高さだ!
「きゃあああっ!」
妙な女声が出た。いやっ、やめて、ドレスがめくれて下着が見える!
逆さまのまま両手で股を押さえながら、ジタバタと活きのいい海老みたいに身体をくねらせる。顔が燃えるように熱い!
は……
「へえ、ホントに小さい女だな。これで生きてるのかあ」
あ。よく考えたら、下着が見えても別にそれほど恥ずかしくないや。サイズの都合でフンドシだし、男だもん。あたしはセクハラ親父をキッと睨みつけると、叫んだ!
「
バチッバチッ!
あたしの右手ひと差し指から放たれた火花が、親父の鼻に命中した!
……あたしの左手はまだ、股を押さえてる。
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